ホンハイのシャープ買収は日本経済にとって必要な試練? 海外メディアは買収に肯定的

 3月30日、経営不振に陥っているシャープは、台湾のホンハイ精密工業による買収契約を決議した。途中シャープ側の偶発負債が明らかにされたことで、交渉に時間を要したが、4月2日に正式な契約が結ばれる運びとなった。海外メディアは、おおむねこの買収を肯定的に捉えている。

◆日本型救済が否定された
 ワシントン・ポスト紙(WP)は今回の件を、「メジャーな外資による、日本の閉鎖的テクノロジー産業における看板企業の初の買収」と表現し、長らくの間、日本政府、銀行、企業は主要な電気メーカーを協力して支え、外資の買収を防いできたと述べている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)も、これまでなら政府が同業他社との合併を促すというのが伝統的な解決法であり、官民ファンドの産業革新機構がシャープに支援を提案し、失敗した液晶ディスプレイ事業の統合会社であるジャパンディスプレイとの合併を求めたことが、まさにこれに当たると指摘する。結局、シャープを生き返らせるというホンハイのプランが株主と債権者を味方につけ、日本政府でさえも、シャープのスクリーン技術への投資を維持するには、ホンハイ傘下のほうが適していると気づいたようだと述べている。

 WSJは、救済が成功するかどうかにかかわらず、政府が今回の買収を許したという事実は、株主資本主義への抵抗がようやく崩れはじめてきたことを示している、としている。

◆シャープの技術はホンハイで活かされる
 ホンハイがシャープ救済と引き換えに手に入れるのは貴重なテクノロジーだというのは、各紙共通の見解だ。フォーブス誌に寄稿したビジネスコンサルタントのジム・コリンズ氏は、最も価値があるのが、有機発光ダイオード(OLED)と液晶パネルに利用される半導体デバイス技術、IGZOだと述べる。OLEDはスマートフォンに使用され、サムスンが95%と圧倒的なシェアを誇る。一方ホンハイは、iPhoneの組立てでは有名だが、最も高額な部品である液晶部分は製造していない。WPによれば、ホンハイは中国の安い人件費を利用し大規模な組立てビジネスで成長したが、人件費の高騰などにより、高収益ビジネスへの転換を迫られているという。

 そこで期待されるのが、IGZOだ。シャープによれば、IGZOを用いたスクリーンの解像度は現在のOLEDスクリーンよりも高く、通常のスマートフォンのスクリーンに比べ、電力消費を80~90%も抑えられる。コリンズ氏は、IGZOでスクリーン市場に参入し、バリューチェーンを高めるのがホンハイの狙いだと述べている。NYTも、シャープのスクリーン技術で、ホンハイはアップルのサプライチェーンでの自社のポジションを強化することができ、シャープの効率的な再生にも有効だと見ている。

◆日本経済活性化への一歩
 海外メディアは、今回の買収をきっかけに日本も変わるべきだと述べている。

 シャープの買収は「日本の経済的ジレンマの縮図だ」というウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、戦後日本企業が成長し活躍していた間は、政府は故意に外国の資本と経営慣行から距離を置いていたと指摘。これがうまくいったのは、人口が増え、高い割合で蓄えができたためであり、労働力が縮小し、定年退職者が増えてからは、日本は資産を食いつぶしていると述べる。企業は海外からの投資を引き付けると同時に、グローバルなベストプラクティス(最善の方法)から効率性を向上させる方法を見つけ出さねばならないと主張する。

 NYTも、数十年続いた不景気の後、そして人口減に直面する今、日本経済を活性化させるには、企業がより生産的になり競争にさらされることだと指摘し、その意味において、シャープは最初のテストであると述べている。

Text by 山川 真智子