ホンダジェットがビジネスジェットの概念を覆す? 市場改革だけじゃない、期待される役割

 前身の本田技術研究所創業から約69年、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)はとうとう長年の夢を実現させた。「空飛ぶスポーツカー」と表現される、小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」だ。昨年末、米連邦航空局(FAA)の認証を受け、顧客への引き渡しが始まった。

 ホンダジェットとは、ホンダが開発し、ホンダの航空機事業子会社ホンダ・エアクラフト・カンパニー(以下、HACI。所在地アメリカ)が製造・販売する7人乗りの小型ビジネスジェット機だ。特徴的なのは、エンジン。胴体後部に搭載する通常のビジネスジェットとは異なり、ホンダジェットは主翼上面に配置している。これにより、空気抵抗が減って燃費効率が上がり、客席と荷物室はより広くなったという。

 日本国外では主にバイクメーカーとしてその名を知られているHONDAが、ジェット機メーカーとして世界でどう受け止められ、ホンダは今後どこに向かっていくのか。

◆業界の地図を塗り替える存在に
 英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、ホンダジェット納入開始の1ヶ月以上前になる11月16日、セスナ社のビジネスジェット機に関する記事の中でホンダジェットに触れた。「機体そのものは革命的なものではない」としながらも、世界的不況で中型・小型ジェット機市場が影響を受けるなか、「小型ジェット機セクターは、ホンダジェットの販売開始を待ちわびている」と指摘。ホンダジェットが業界を活性化する存在になるとの期待をうかがわせた。

 また経済誌フォーブスも、寄稿記者キャスリン・クリーディー氏が12月14日付の記事で、「ビジネス航空機市場に大変革をもたらす存在」という見出しでホンダジェットを紹介した。過去には主に軍用機を生産していたブラジルの航空機メーカー、エンブラエルを引き合いに出し、同社が2000年にビジネスジェット機市場に参入して業界の地図を塗り替えたことから、「ホンダジェットが同じことをするかもしれず、さらにビジネス航空機だけにとどまらないかもしれない」として、将来的にホンダが旅客機製造に参入する可能性に言及した。

◆ホンダの実績が信頼性の裏付けに
 米ニュース専門チャンネルCNBCは12月10日、ノースカロライナ州グリーンズボロにあるHACIの本社工場で取材を行った様子を放送した。フィル・ルボー記者はリポートの中で、セスナ(2014年ビジネスジェット機販売実績世界第2位)やエンブラエル(同4位)の社名を挙げ、ホンダジェットはこれらの競合になるだろうと指摘。さらに電子版の記事の中では、自動車や芝刈り機、ジェネレーターを製造してきたメーカーに航空機を発注したいだろうか、という疑問に対し、マーケティング会社フロスト&サリバン社のウェイン・プラッカー氏の「むしろそこがホンダの強み」という見解を紹介した。同氏は、広範な分野でホンダが培ってきた信頼性の高さが、消費者を惹きつけるだろうと予測している。

◆ホンダジェットが担う将来の役割
 ホンダジェットに世界から寄せられている期待は、市場に革命を起こす勢いや信頼性の高さだけにとどまらない。FTは前述の記事のなかで、ホンダジェットが担うべき将来的な役割に言及した。かつてアメリカでバイク乗りにまつわりついていた「油まみれの反逆児」というイメージをホンダのバイクが払拭した実績に触れたうえで、ホンダジェットにとって一番重要な役割は、プライベートジェットが持つ「金持ちの象徴」というイメージを払拭し、人々が受け入れやすいものにすることだというのだ。「クリーンで騒音の少ないプライベートジェット機は、ビジネスジェットの分野で似たようなこと(ネガティブなイメージの払拭)をできるのではないか」と期待している。

 ホンダはその哲学に、「夢へのチャレンジとその実現」を掲げている。ホンダにとって、航空機は悲願だった。四輪自動車を手がける前の1962年に、創業者の本田宗一郎氏はすでに航空機産業への参入を宣言していた。1986年に研究開発をスタートさせてから約30年、夢実現のスタートラインにようやくこぎつけた。ホンダは今後、北米、欧州、ブラジルなど11の拠点で年間80〜100機を生産していくとしている。2014年のビジネスジェット機納入実績を見ると、市場全体で722機となっており、上位4社の年間実績は100機を超えている。ここにホンダジェットがどう食い込んでいくのか、注目していきたい。

Text by 松丸 さとみ