車輸入禁止のブータンで、日産が電気自動車普及へ “利益目的ではない”ねらいとは?

 日産は、電気自動車(EV)「リーフ」をブータンで販売する計画を進めている。日産のカルロス・ゴーン社長兼CEOは21日、同国の首都ティンプーで、ブータン政府と協力してEVの普及を目指すための覚書を交わした。これは、2013年にブータンのツェリン・トブゲイ首相 とゴーン氏が行った話し合いに基づくものだ。

 日産は、「リーフ」を政府の公用車、タクシー、宣伝用の車などに使用してもらう計画だ。その手始めとして、急速充電器を提供し、ブータン国内の全域に充電スタンドを建設する予定だという。

 なお計画の予算規模は明らかにされていない。

【電気自動車の普及モデル国に】
 ブータンでの2011年の新車販売台数は約4000台。これは、日本での日産小型車1車種の月間販売台数の半分ほどだ。そのため、この計画は通常の販売とは意味が異なっている、とウォール・ストリート・ジャーナル紙は報じている。

 ブータンでは2011年から、車を輸入することは全面的に禁止されている。また未開発の国であるブータンは、価格の高い電気自動車の販売はさらに難しいことが予想され、現実味のある市場とは言えない、と同紙は指摘している。さらに世界銀行が2014年に発表した、事業のやりやすさを示す国別の格付けでは、ブータンは189ヶ国中141位だ。

 日産のアンディ・パーマー上級副社長は「アメリカで車を売るのとは違い、狙いは単に利益を得るためではない」と説明した。「(ブータンが)電気自動車を積極的に活用している初めての国となり、はっきりとした実例を得ることで、他の国でもやれるという可能性を示したい」という。日産は、ブータンで電気自動車の導入が成功することで、他の新興国もこれにならうことを期待しているようだ。

【排気ガス0を目指すブータン】
 電気自動車導入の構想は、ブータン政府が目指す「二酸化炭素排出ゼロ」の国づくりとも合致する、と海外各紙は報じている。パーマー氏は、「現在この国に輸入できる車は電気自動車だけで、しかも無税という利点がある」と話す。

 さらに、ブータンの主な輸出品のひとつが、国中の川から得られた水力発電による電気だという事実もある。インドの『Hindustan Times.com』によると、電気は輸出しているが、車の燃料として多くの石油を輸入に頼っている同国のジレンマがあるという。ブータン政府はこの石油の輸入量を大幅に減らしたいと模索していたようだ。

 トブゲイ首相は、「ブータン政府は日産との協力し、電気自動車先進国となる目標を共に目指せることを嬉しく思う」「日産の国際的な実績は、電気による国内のインフラを発展させようとする我が国にとって、非常に貴重なものだ」と話した、同メディアが伝えている。

 なお覚書を交わした21日は、同国のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王の誕生日にもあたり、ゴーン氏は「リーフ」を2台プレゼントしたという。

ブータン――「幸福な国」の不都合な真実

Text by NewSphere 編集部