中国に強硬姿勢、ドイツが一転 EUの中国製HV輸入制限を後押しした事情

10月9日、北京で行われたEUと中国の貿易協議|Tian Yu / Xinhua via AP

欧州連合(EU)は10月9日、中国製ハイブリッド車(HV)およびプラグインハイブリッド車(PHV)の対EU輸出を抑制することで、中国と基本合意したと発表した。EUは現在、その他の製品についても追加の貿易措置を検討している。これまで対中貿易政策で慎重な姿勢を示してきたドイツも強硬路線に転じるなど、EUは域内産業の保護に向けた動きを加速させている。

◆深刻な貿易赤字 EUが中国の過剰輸出に対応
HV、PHVに関する合意は、EUの2025年の対中物品貿易赤字が約3600億ユーロ(約64兆円)に達するなかで成立した。ガーディアン紙によれば、最近まで貿易不均衡に対処するための戦略は、中国への輸出拡大を図ることにあった。しかし、欧州の工業地帯における脱工業化や雇用喪失への懸念から生じた「パラダイムシフト」により、輸出拡大よりも輸入抑制に再び焦点が移ったという。

過去2年間で、EUの中国製HV、PHVの輸入台数は急増。2026年の輸入台数は約80万台になる見通しだという。今回の基本合意では、中国製HV、PHVの輸入台数を年間35万台に制限し、上限を4年間にわたり毎年6%ずつ引き上げることが想定されている。輸入制限は、世界貿易機関(WTO)のルールに基づくセーフガード措置として実施される見通しで、EU側は12月の導入を目指している。

◆手遅れになる前に ドイツの方針転換
サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)によれば、EUの対中姿勢の変化には、安価で高品質な中国製品の流入によって欧州の産業が衰退しかねないという危機感がある。こうした変化を如実に表しているのがドイツだ。

ドイチェ・ヴェレ(DW)によれば、ドイツは長年にわたり、EUが「中国の不公正な貿易慣行」と指摘する問題について、強硬な対応を阻んできた。ドイツの産業界は新型コロナウイルスのパンデミック以前、中国の台頭から多大な恩恵を受けており、中国側の報復措置を懸念していたからだという。

しかし、ドイツ連邦統計局の2026年上半期のデータによれば、中国はドイツにとって第9位の輸出市場となり、2021年の第2位から後退した。調査会社ロディウム・グループによれば、ドイツから中国への自動車輸出は2022年から2025年にかけて66%減少した。ドイツの大手自動車メーカーは、低コストと政府補助金の恩恵を受けて台頭する中国の電気自動車(EV)メーカーとの激しい競争に直面しており、これが国内での人員削減や工場閉鎖の可能性につながっている。

ドイツのメルカトル中国研究所(MERICS)のアンドレアス・ミッシャー氏は、中国との競争で打撃を受けたドイツの有力な自動車業界団体からの圧力が、ドイツ政府の「貿易防衛措置に対する姿勢の変化」のカギになったと指摘した(DW)。

こうした変化を象徴するのが、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領による共同提案だ。両首脳は欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長に宛てた書簡で、不公正な貿易慣行を続ける国をEUの単一市場から締め出せる新たな対抗手段の創設を求めた。

◆市場を失う可能性も 中国初の譲歩か?
ドイツの国際問題誌『インターナショナル・ポリティック・クオータリー』によれば、EUのマロシュ・シェフチョビッチ欧州委員(通商・経済安全保障担当)は、中国が事前の貿易摩擦を経ずに輸出抑制を受け入れたのは初めてだと評価した。

EUの外交筋によれば、中国が重要分野での輸出を抑制しなければ欧州で政治的な反発が生じる可能性があり、こうした懸念が合意への道筋を付ける一助になったという。また、EUの上級外交官は、シェフチョビッチ欧州委員が、中国は自国製品の輸出によって「顧客を殺していることに気付き始めた」と語ったことを明かしたという。

今回の合意以外にも、医薬品や化学品、機械などの分野で追加の貿易措置が検討されており、中国との協議も続いている。中国側がEUのさらなる対抗措置には報復すると警告するなか、EUの上級外交官は「事態の悪化には常に備える必要があるが、恐怖に振り回されてはならない」と語った(SCMP)。

メルカトル中国研究所の試算では、2026年上半期の中国の対EU輸出は2540億ドル(約40兆円)と、対米輸出額の1720億ドル(約27兆円)を上回っており、中国にとってEUはアメリカよりも重要な輸出市場となっている。同研究所のミッシャー氏は、「EUは自らが考えている以上に影響力を持っている」とDWに語っており、今後の交渉の行方が注目される。

Text by 山川 真智子