世界のどこへ行っても愛される、イタリアの新鮮な食材と心躍る味わい。今週水曜、UNESCO(国連教育科学文化機関)は、ピザやパスタ、ティラミスといった料理だけでなく、“イタリア料理という営みそのもの” を無形文化遺産として認定し、食をこよなく愛する人々に新たな祝福をもたらした。

今回登録されたのは、イタリア人が料理をし、食卓を囲むという「習慣そのもの」。ローマのコロッセオや古代都市ポンペイなど、有形文化遺産に豊富なイタリアだが、無形文化遺産でもその存在感をさらに強めた。

UNESCOの説明文では、特定の料理名やレシピは挙げられていない。代わりに、『日曜の家族ランチ』、『ノンナ(祖母)が孫に教えるトルテッリーニの折り方』、『誰かと同じテーブルを囲むという行為』といった、世代を超えて受け継がれる“食の儀式”の文化性が強調されている。

ローマ・サピエンツァ大学の法学教授でイタリアUNESCO活動メンバーのピエル・ルイジ・ペトリッロさんはこう語る。「料理することは愛情の表現であり、自分自身を相手に伝え、相手を大切にする行為です」

食事の時間を大切にする文化は、世界でも決して一般的ではないという。「ランチに少し時間を取り、ディナーではさらにゆっくり。特別な日はもっと長く。こうした“食卓に集う”伝統は、あまり他の国では見られません」

ローマのレストランでパスタを楽しむ客たち AP Photo / Gregorio Borgia

イタリアのメローニ首相もこの認定を称賛し、料理がイタリア人のアイデンティティそのものだと述べた。「イタリア料理は、単なる食べ物やレシピの集合ではありません。文化であり、伝統であり、仕事であり、豊かさそのものです」

世界の「食」が次々と無形文化遺産に

今回が初の認定、というわけではない。2010年にはフランスの“美食の食卓文化”が登録され、スペインのアストゥリアス地方のシードル文化、セネガルのチェブジェン料理、ブラジル・ミナスジェライス州の伝統的チーズづくりなど各地の食文化が続々と遺産に名を刻んでいる。

UNESCOは毎年、世界の“守るべき文化実践”を審査する。無形遺産は以下の3種に分かれる・

・代表一覧(文化の代表例)

・緊急に保護が必要なもの

・優良な保護活動リスト

今年ニューデリーでの会議では、53件の候補が審査され、スイスのヨーデル、バングラデシュのタンガイル・サリー織り、チリのファミリーサーカスなども挙がった。

“シンプルな料理”が持つサステナビリティ

イタリアは今回、“持続可能性と生物文化的多様性”を強調して申請した。季節を大切にし、フレッシュな食材を使い、食材を無駄にしない料理哲学――そして、地域ごとに異なる豊かな料理文化。移民の影響まで含めて、多様性を価値として捉える姿勢が評価された。

ローマ・ナヴォナ広場近くの「Osteria da Fortunata」のパスタ職人フランチェスコ・レンツィはこう語る。「僕にとってイタリア料理は世界一。比べるものなんてありません。スパゲッティの起源がどこだと言う人もいるけど、今や“スパゲッティ”や“ピザ”はどこへ行っても通じる言葉なんです」

彼の料理への情熱は、幼い頃、海沿いの村カモーリで、“家の女王”だった祖母が日曜にラビオリを作る姿から受け継いだものだという。

ロンバルディアからローマを訪れていた観光客ミレッラ・ポッツォリは言う。「家族や友人とテーブルを囲む――それだけで特別なんです。そんな“食卓の文化”は、他の国にはあまりないと思います」

ローマのレストランでパスタを楽しむ客たち AP Photo / Gregorio Borgia

イタリアは無形遺産大国

すでにイタリアには13件の無形文化遺産がある。シチリアの人形劇、クレモナのヴァイオリン制作、季節ごとに家畜を移動させる「トランスフマンス」など多岐にわたる。食に関しても、2013年の“地中海食”の登録、2017年の“ナポリのピザ職人文化”が知られている。

ペトリッロ氏によると、ナポリのピザが無形遺産になった後、ピザ職人の学校への入学者はなんと400%以上増えたという。「UNESCOの認定後、観光も、食品の売上も、教育も大きく伸びました」

文化を守ることが、未来の仕事と経済を生む。イタリア料理の“日常の儀式”が世界遺産となった今、この国の食卓には、また新しいストーリーが積み重なっていきそうだ。


By PAOLO SANTALUCIA, SILVIA STELLACCI and NICOLE WINFIELD Associated Press
ROME(AP)