2024年12月に、日本の協力を得てメトロ1号線が開通したホーチミン。2018年には東南アジアで2番目の高さを誇る超高層ビル「ランドマーク81」が開業している。ホーチミンは、引き続き世界中の投資家の興味の的だ。
毎回来るたびに、数年前とは全く違った風景を見せてくれるホーチミンだが、一方、生活する人たちの営みには長く変わらないものも多いようだ。いまでも街のいたるところに小さな飲食店や屋台が並び、プラスチックの椅子とテーブルを配した独特なスタイルが健在だ。
今回は、ホーチミンの夜のストリートフードの食べ歩きと、そこで出会ったウズラの卵を使った日本の明石焼き風の軽食「バイン・チュン・クート」(Bánh trứng cút)を日本の食材で作るレシピを紹介する。
Bò kho|統治下にフランスの影響を受けたビーフシチュー
日没の時刻が近づいて、日中と比べて少し気温が下がったように感じられるようになると、街のあちこちにある食堂や屋台の明かりが灯り始める。まず最初に向かったのは「ボー・コー」(Bò kho)の屋台だ。裏通りへとつながる通路の壁にへばりつくように設置された屋台が厨房で、そのそばにはいくつかのテーブルと椅子が並ぶ。観光名所のベンタイン市場から、ベンゲー川に向かって200メートルのあたりにある。
大きな寸胴に入ったオレンジ色のシチューが火にかけられていた。この日、日中の気温は40度近くまで上がりなかなかの暑さだが、ぐつぐつと煮込まれた料理の旨そうな香りが食欲を掻き立てる。
料理名の「ボー」は牛肉で、「コー」は煮込み料理のこと。ベトナム南部の料理で、鶏を使ったものは「ガー・コー」、魚なら「サー・コー」と呼ばれる。フランスの植民地時代に生まれた料理だそうで、やはりフランス料理の影響を受けている。牛肉とにんじんがメインの具材で欧米のビーフシチューと同様だ。しかしそこにベトナム特有のハーブや調味料がプラスされる。レモングラス、トマト、リンゴ、八角、ガランガル(しょうがの一種)、それに唐辛子、ニョクマムなども使われたスープに、米の麺はボー(断面が丸い突き出して作るタイプ)が入っている。薬味のタイ・バジルやパクチー、ライムや唐辛子は好みで。
一口スープを飲むと、これが思ったよりも辛い。ベトナム料理はタイ料理と比較すると概して辛みがマイルドだが、これはガツンと来る。食べ終わる頃には汗だくになってしまったが、川から吹いてくる涼しい風が心地いい。
Vịt Quay|家鴨のロースト
「ヴィッ・クアイ」(Vịt Quay)は焼きアヒルという意味。ちなみに、アヒルはカモを家畜化したものだ。フリー・レンジ、放し飼いで育てられていて味が良いのだそうだ。中華系のタレの照りが、見るからに旨そうだ。このような屋台の店で買い求めて自宅に持ち帰る人が多いという。
「コム」(Cơm)という砕けた米を炊いたものと一緒にどんぶりにしたもの、バイン・ミーのようにバゲットに挟むものもある。後者を購入してその場でいただいた。ベトナムには中華系の移民が多く暮らして根付いている。このアヒルのロースト自体はまさに中華料理だ。そこにバゲット。フランス植民地時代の名残がここにも残っている。
Bò Lá Lốp|ラロットの葉で巻き、焼いて更に麺で巻く
日が暮れると、食べ物屋の看板が目立ち始めた。「ボー・ラ・ロット」(Bò Lá Lốt)の店の前には炭火の焼き台が出ていて目を引く。緑色で棒状のものを焼いていたが、これがボー・ラ・ロットだった。ラ・ロットは胡椒科の植物の葉のことで、多少スパイシーな味がする。牛肉をラ・ロットで巻いたものを焼いているのだ。
それをさらに、タイ・バジルと胡瓜やそのほかのハーブと共に、細い麺が網の目になったような麺で巻き、ニョクニャムと唐辛子のたれをつけて食べる。砕いたピーナッツを振り、酸っぱさを抑えた甘めの味の現地のマヨネーズをかけても旨い。
Bánh trứng cú|まるで明石焼きのようなウズラのたまごスナック
見た目はまるで日本の明石焼きのように見える「バイン・チュン・クート」。たまごたっぷりの生地で作るのが明石焼きだが、バイン・チュン・クートは、たっぷりのマーガリンにウズラのたまごを落として、そこにソーセージ、コーン、魚の身をほぐし炒めたでんぶ、干し海老などを乗せて焼いたものだ。
焼くための道具は、日本のタコ焼きのものに似ているが、くぼみが少し大きめ。焼くときにはひっくり返さずに、そのまま仕上げてしまう。
チリソースと、ベトナムの酸っぱくなくて少し甘いマヨネーズをかけて、青パパイヤを切ったものと一緒にいただく。これはすっかりスナックといった感覚でいくつでも食べれそうだ。
ChèとBánh Flan|食べ歩きをプリンとチェーでしめる!
さて、食べ歩きの〆にはやはり甘いもの。ベトナムのデザートなら「チェー」(Che)が定番だ。店先の明るい光の下に、色とりどりのチェーの具が入ったカップが並んでいる。
好みの具が入っているカップを選ぶと、そこに氷とコンデンスミルクを入れてくれるのがここの店のシステム。豆乳と豆腐というかなりシンプルなチェーにして、ベトナムのプリンもいただくことにした。
「バインフラン」(Bánh Flan)は牛乳を使わずにコンデンスミルクで作る固めのプリン。これになんと、追いコンデンスミルクと氷をかけて食べる。しっかりとした甘みで、なかなかずっしりとくる。メキシコで食べたものと非常によく似ていた。
ウズラのたまごのスナック、バイン・チュン・クートのレシピ
バイン・チュン・クートをたこ焼きの焼き型で作って食べたいと思う。現地では魚を繊維状になるまで焼きほぐしたでんぶを使うのだが、日本で手に入りやすいピンク色の桜でんぶで代用する。マヨネーズももちろん日本のもので、現地のものより酸味が強く甘みは少ない。甘さはこれでプラスマイナスゼロということにしたい。
材料:18個分
・うずらの卵 18個
・魚肉ソーセージ 1本 縦2つに切ってから5㎜の厚さに切る
・長ネギ 3本 小口切り
・コーン水煮 30g 水気を切っておく
・でんぶ 20g
・干し海老 5g
・バター、マーガリン 60g
・チリソース 適量 ベトナムのチン・スーなど
作り方:
1.タコ焼きの型をに中火に乗せて、バターまたはマーガリン(またはバター入りマーガリン)を等分にして入れる。
2.型それぞれにウズラのたまごをひとつずつ割り入れる。
3.さらに、ソーセージを入れる。
4.でんぶと干し海老を入れて、中身が固まって動くようになるまで火を入れて取り出す。
5.皿に並べて、チリソースとマヨネーズを回しかける。
—
All Photos by Atsushi Ishiguro
—
石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/