「死者の日」は、メキシコで最も重要とされる宗教行事。日程は変わることもあるが、毎年11月1日と2日の2日間だ。前日の10月31日は子供のための前夜祭で、子供たちが親族から小遣いをもらい歩くが、それがメキシコのハロウィーンと言われる由縁だ。

2003年にユネスコの無形文化遺産に登録された死者の日の祭礼は、メキシコ全土で開催され、この期間中には政府・自治体、銀行は業務を休む。多くの人たちは先祖の墓があるそれぞれの故郷に戻り、死者を悼み、思い、先祖に感謝してまた日常の生活に戻っていく。

今回の記事では、昨年訪れたメキシコでの、死者の日の準備や6つ街の祭礼の様子、そして各地で食べたメキシコ風のプリン、「フラン・ナポリターノ」のレシピを紹介する。

死者の日の準備から前夜まで

10月29日のケレタロはまだまだ祭りの前といった独特の雰囲気だった。街の中心であるプラザ・デ・アルマス広場には大きな祭壇がおかれているが、集まっている人たちもまだ手持ち無沙汰で祭りの賑やかさを待っているような様子だった。

30日には、街並みが美しいサン・ミゲル・デ・アジェンデへ。死者の日の飾りつけに欠かせないマリーゴールドが、アパートメントの入り口に設置されているマリア像にも捧げられている。グアナファトのイダルゴ市場前の歩道では、家族がマリーゴールドの花を売っていた。通りは人が多く、いよいよ死者の日の祭礼が始まるという予感に包まれている。

31日の夜、プエブラのダウンタウンは人であふれかえって賑わっていた。仮装をした人たちもちらほらといるが、そのほとんどが骸骨のメイクだ。

死者の日1日目、そして2日目には墓地へ

11月1日のオアハカはまさに最高の盛り上がり。レストランにも「オフレンダ」という祭壇が設置されていた。街のどこにもマリーゴールドが飾られ、教会の教壇もオレンジ色で縁取られている。歩道には砂で作られたタペストリー、「サンドタペストリー」が作られて、訪れる人たちが楽しんでいた。

2日夜には、メキシコシティから2時間ほどのサン・アンドレス・ミスキックへ。「パロキア・デ・サン・アンドレス・アポストル・ミスティック」という教会と、それを囲む墓地を訪れるのが目的だ。

街の入り口から教会の敷地まで、数えきれないほどの屋台が並んでいて、様々な料理や玩具などが売られている。教会の門の先は身動きが取れないほど人が密集して出入りしているが、誰もが秩序を守っており、厳かさが感じられる。

教会の中で祈りを捧げる人、教会の建物を囲む墓地にろうそくやマリーゴールドを手向けて死者を偲ぶ人たちがいる。マリーゴールドは、死者が戻ってくるための目印になるのだそうだ。日本のお盆に、先祖が盆提灯を頼りに帰ってくるのに似ている。家族が集まり、死者を思い、自らが生きることに感謝するのもまた似ているのではないだろうか。

ミスキックでよく目にしたのがプリンだった。メキシコ風のフランで「フラン・ナポリターナ」とも呼ばれている。なぜ名前にナポリが含まれているのか、その理由に定説はないようであるが、そもそもローマ帝国時代にイタリアで生まれたフランがフランスに渡ったときにイタリアの都市名が冠されたのだとも言われているようだ。

濃厚で甘いフランに、しっかりと火が入ったカラメルの苦みがよく合う。コンデンスミルク(加糖練乳)と、エバミルク(加糖していない練乳)をたっぷり使って、舌触りも滑らかだ。そして、す(気泡)が入っていても、「旨ければいいじゃないか」といった合理的な気概が感じられる。そして「プリンにすが入るとはもってのほか」といった日本人的な繊細さが馬鹿らしく思えてくる。

今回は、そのフラン・ナポリターナのレシピを紹介する。

のゼストを加えて爽やかさをプラス

今回のレシピでは、オレンジピールのゼスト(すりおろし)を使って柑橘の爽やかさをプラスする。たまごは普通のプリンと比べると半分と少なめだが、滑らかに固まるので大丈夫だ。プリンそのものに砂糖を加えないが、それはコンデンスミルクの滑らかな甘さがたっぷりだから。そして、エバミルクは自作してみる。

材料:
・たまご 3個(Lサイズ)
・バニラエッセンス 10滴
・コンデンスミルク 360ml
・牛乳 800ml
・オレンジの皮 1個分
・塩 小さじ1/2
・砂糖 120グラム

作り方:
1. オーブンにロースト用の天板を入れて180度に温めておく。オレンジの皮はおろし器ですっておく(オレンジゼスト)。

2. 深い耐熱容器に牛乳を入れて、600wで30分加熱して半量強の量に煮詰める。(コンデンスミルクと合わせて800mlになるくらいが目安)

3. 小鍋に砂糖を入れて弱火にかけて、時々混ぜながら砂糖を溶かす。飴色のカラメルになったら、直径20㎝のケーキ型に入れて底に広げる。

4. ボールにたまごとバニラエッセンスを入れて混ぜたら、コンデンスミルク、牛乳、オレンジゼスト、塩を入れてよく混ぜ、2のケーキ型のカラメルの上に注ぐ。

5. ロースト用の天板に3を置いたら、ケーキ型の中のプリン液の高さの半分くらいまで熱湯を注ぎ、アルミホイルで蓋をして、約1時間、周りがしっかり固まるまで蒸す。

6. ケーキ型を取り出したら放置して、常温まで温度を下げ、ケーキ型の上部表面周りにナイフを入れてから皿をかぶせて逆さにして取り出す。

7. ケーキナイフで切って皿に盛り付ける。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/