デンマークのシェラン島、最北端に位置するシェランズ・オッデ(Sjælands Odde)にあるファーム”Birkemosegård Farm” は、4世代に渡って営まれている。1968年頃からバイオダイナミック農法にこだわり、フルーツや野菜、穀物や肉類などを育てているファームだ。

シェランズ・オッデはコペンハーゲンから北西へ車でおよそ1時間、電車では2時間半で行くことのできる、海に囲まれた小さな街。オーフス(Arhus)へ行く人たちが、港からフェリーに乗ったり、サマーハウスを持つ場所としても人気なのだそう。ファームの向こう側には海が見えていて、北と南どちら側にも10分ほど歩けば、透き通るほど綺麗な水の遠浅の海がある。海水浴を楽しむ人達をちらほら見かけるが、決して多くの人達で賑わうことはなく、人の少ない、緑豊かな田舎街だ。

日中はファームに隣接したショップに、野菜を買いに次々に人が訪れる。その日の朝摘み取られたばかりの野菜やフルーツが、毎日そこで販売されている。ナチュールワインやジュース、卵や肉なども取り揃えられており、もちろん全てバイオダイナミック農法でつくられたオーガニックのもの。

敷地内では牛や豚がほぼ放し飼い状態で育てられている。牛小屋に案内してもらい見に行くと、ちょうど餌が与えられている最中だった。牛達が一斉に柵から首をだしこちらを向いてきた。なんとも可愛いらしい表情をした、毛並みだちの良い牛達だ。

少し離れた所に豚も飼育されている。彼らも放し飼いで育てられ、訪れた時はみんな土の中を掘りあさり、餌探しをしていた。こちらの豚達もなんとも可愛いらしい表情で、まるで笑っているようだ。表情から幸せな様子が伺える。

Photo by Natsuko Natsuyama

デンマークのオーガニックファームで育てられている動物達は、普通の家畜よりも長い期間生かされ、放し飼いにされている時間も長く、餌にも気を使われているのでとてもハッピーな状態で生かされているそう。そう思うと食べる側としてもなんだか罪悪感が少なく、正しい弱肉強食のモラルに基づいているように思う。

以前紹介したrelaeや108、Amassなどのデンマークの人気レストランも、こちらのファームから野菜や肉を仕入れているそう。デンマークにとってとても大切なファームのうちの一つなのだ。

こちらのファームでは、2016年よりデンマーク人夫妻により、夏の間だけレストランが営まれている。今回はランチ、ディナー共に体験させて頂いた。ランチは3皿250クローナ(およそ5,000円)、単品で6種類のメニュー、1種類のデザートとチーズが用意されている。その日の野菜やフルーツ、肉類などの収穫によりメニューは構成されている。

この日は朝摘み野菜のサラダに、生肉のタルタル、ズッキーニと大麦のリゾット。どれも素材の味に繊細かつ野性味があり申し分ない美味しさだ。調味料などもクオリティの高いものや手作りのものを使用しているそうで、シンプルな料理ながらも贅沢な味が口の中に広がり、最後の一口まで飽きることなく楽しめた。

お店で取り揃えられているワインは全てナチュールワイン。デンマークのレストランでのナチュールワイン普及率は、ヨーロッパ一と言われている。

Photo by Natsuko Natsuyama

目の前に広がるバイオダイナミック農法の畑やその先に見える海を眺めながら、愛情のこもった食材とシンプルな調理法で作られた見た目も美しい食事とナチュールワインを楽しんだ後は、海まで散歩をしてひと泳ぎ。この上ない幸せな環境である。

Photo by Natsuko Natsuyama

海でひと泳ぎしてカロリーを消費し、またディナーのためにレストランに戻った。ディナーは長いテーブルをみんなで囲み、大皿で提供される食事を周辺の人たちと分かち合うコミュニティーテーブルのスタイルだ。デンマークの有名なレストラン、Nomaのポップアップレストランがコペンハーゲンの橋の下で行われた時もこのスタイルだった。

隣の人たちと挨拶をし、団欒しながら食事を楽しむ。レストランに行く時ほど背筋を正される感じでもなく、友人宅に招かれる時のようにリラックスしすぎた感じでもなく、その間をとったようなちょうど良い雰囲気が味わえるのが、このコミュニティーテーブルのスタイルの良いところだと思う。

ディナーでも野菜をふんだんに使った料理が3皿に、新鮮な海老を蒸したものが2ラウンド、Nomaで修行したパン職人によって作られたパンにオーガニックバター、自然な甘さがたまらなくおいしい自家製ベリージャムの乗ったクレームブリュレアイスと、コペンハーゲンで最も人気のコーヒー屋、コーヒーコレクティブのコーヒーまで、気持ちもお腹もいっぱいになり、なんとも幸せなひと時を過ごした。

愛情を込めて育てられた野菜や肉が、愛情を込めて調理され、それを食べた人たちが幸せな気持ちになりながら、食について考えるきっかけとなる。このポジティブで正しい連鎖が、長年の年月をかけて少しずつ、広がっている。こちらのレストランに訪れることで、一消費者として、その連鎖を広げていく一部となり参加できると思うと、ますます味や経験にも深みが出てくる。

バイオダイナミック農法はそう簡単にできるものではないそうで、通常よりも少しの野菜しか収穫できないらしい。それゆえにとても価値のあるものとなり、遠方から野菜を買いに訪れる人や、レストランに食事をしに来る人達で毎日予約がいっぱいだそうだ。レストランは夏の間のみだが、コペンハーゲンに遊びに来た際には、レンタカーをして小旅行をしてみるのもいいかもしれない。


All photos by Natsuko Natsuyama

NATSUKO

モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。
Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net