コペンハーゲンにある世界的に有名なレストラン、Nomaが再びオープンした。
行った方達の話を聞く限りでは、素敵な場所で美味しいものを食べる、ということだけではなく、何か初めてのことを経験したような、良い意味で固定観念を壊されたような感動体験があるようだ。

いつも新しいことに挑戦し続けるNomaのオーナーであるRené Redzepi(レネ・レゼピ、以下 René)、今回は数ヶ月ごとに、魚介のみで構成されたメニュー、野菜だけで構成されたメニューといった具合に食材で縛りを作った。魚介や肉類のみで構成されているコースならなんとなく楽しそうだが、野菜だけで構成された場合、同じ値段で提供する中でどのようにバランスをとるのかは注目のしどころだ。そもそも魚介や肉を食べないベジタリアンの人もたくさんいるので、そういう人達がメインで訪れることは時期としてはいいのかもしれない。

さらに若い人達にも楽しんでもらいたいということで、全体の10%の席を学生のためのシェアテーブルとして設けており、値段も通常の3分の1以下に設定してある。基本的にウェイティングリストに予約して、ランダムに選ばれるようなので、どのくらい期待できるかはわからない。とはいえ通常6万円ほどするところ、2万円以下でコースとワインペアリングを楽しめるので学生にとってはトライしない理由はないかもしれない。

当然のごとく現在予約可能な日程は先まで埋まっており、新たな予約が開始したら争奪戦になることは間違いない。しかしせっかくコペンハーゲンに来るなら、一度はNomaのようなニューノルディックキュイジーヌを体験してみたいものだ。

そんな思いがあれば、Amass(アマス)に行ってみるのも面白いかもしれない。

Amassのオーナー兼ヘッドシェフのMatt Orland(マット・オーランド、以下 Matt) は、カリフォルニア出身。15才から料理を始め、その後ファインダイニングで修行することに目覚め、NYやイギリスのいくつかのミシュランスターレストランで修行を積んだ。イギリスの三つ星レストラン The Fat Duck で働いているところ、Renéに出会い、そこからNomaで2年間に渡ってスーシェフを務めた。その後またNYに戻り、三つ星レストランのPer Seでスーシェフを3年間務めた。あるときMattは自分のレストランをオープンしたいという想いをRenéに話したところ、Renéはその1週間後にMattを再びNomaにヘッドシェフとしてこないかと誘い、そこから2年半Nomaでヘッドシェフを務め、2013年に満を持してAmassをオープンさせた。

Amassはコペンハーゲンの中心部から少し離れた(離れたといってもコペンハーゲンでの”遠い”は私達にとっては近い)、まだ周辺に何もないエリアにあり、レストランはコンクリート打ちっ放しの、天井が高く古いウェアハウスのような建物で、インダストリアルな雰囲気だ。店内に入るとまず最初に、NYで見かけるような壁に描かれたウォールアートが目に飛び込んでくる。こちらは良いと思うかどうかは賛否両論かもしれない。私はあまり理解できなかったので見ないように過ごした。しかしこの洗練された料理を提供するレストランで、インダストリアルな建築やウォールアートに、BGMにはヒップホップがかかっている状況は逆に新鮮さがあった。

料理はテイスティングコース一本、およそ18,000円なのでNomaの半分以下。ワインペアリングは14,000円ほどで、バリエーション豊かで定評を得ている。ただ結構量を飲める自分でも飲みきれなかったので、たくさん飲むことに自信がない人はボトルでオーダーするのもいいかもしれない。料理は以前、コペンハーゲンのサスティナブルなレストランで紹介した、ニューノルディックキュイジーヌに基づいている。

最初にブレッドとしてできた、ほぼじゃがいもで作られたパンが絶品。これをつけて食べて、と出てきたバター代わりのものは、はまるで和食と中華のような味付けで、最初から心を掴まれた。

Amassではお店の目の前に畑を作り、80種類ほどの野菜やハーブを育て、その日収穫できたものと、信頼の置けるファーマーから仕入れた野菜を元にメニューが構成される。畑にはテーブルや椅子を置いて、そこでコミュニケーションを取る場所を作り、さらには近隣の人や子供達に、野菜の育てかたを教える場所としても活用している。

もちろん店で使用されている飲み物や食べ物は100%近くがオーガニック。愛情を込めて育てられた野菜は余すことなく使い切ることを基本とし、フードウェイストへの取り組みを徹底している。キッチン内ではだれが最もナイスなアップサイクルな調理方法を見つけられるか、まるでスポーツのように競争になっているそうだ。

料理の美しさや味からはそのような取り組みが裏で行われているなど想像もつかない。

通常なら捨ててしまうハーブの茎を乾燥させグラインドして、味付け用のパウダーとして使用したり、残ったパンを自家製のチーズ作りに使用して残ったホエーにつけて、次の日それをピューレにし、付き出しとして提供するチップス作りに活用したり、抽出した後のコーヒーの粉は乾燥させ小麦粉に混ぜて使用し、抽出し終えた紅茶の葉は乾燥させてマショマロを作るなど、説明だけ聞いてもいったいどのようにして作っているのか想像仕切れない。研究家と呼びたくなるような調理法であらゆるフードウェイストを美味しい料理に変えている。

家庭でも実践できるアップサイクルな調理方として、使い終わったコーヒーの粉で人参やビーツのような根菜を包みローストしたり、普通なら捨てる野菜の端くれをソテーしてペーストにしたり、お茶の葉は少量のクリームにつけそれをウィスキーに入れるなど提案している。普通だと考えつかないが、習慣になってしまえばそうするものだ、と思えるのかもしれない。

Mattはフードウェイストに関してかなり気を使っているように見えるが、基本的にはどうしたら美味しくなるかということが最も大事なポイントで、ただそこにフードウェストを出さないということが、美味しい料理を提供することと切っても切り離せないことになっているようだ。またそれを、これが正しいことだ、と人に押し付けるつもりもないらしい。

「自分たちのレストランでは、こういったフードウェイストやエネルギーの使い方に取り組める充分な環境があるのに、それを実行しなかったら自分たちはあまりにも自分勝手ということになる」と。レストランだけに限らず、人々は環境に及ぼす影響のことを全く考えずに調理し、二酸化炭素の排出量のことも考えずにいろんなところから食料を輸入したり運んだり、あらゆる食物の中心部だけを食べ、残りは捨て。これらの無責任な行いを、どのように変えていけるか?よりローカルなスタンスで料理をし、副産物をアップサイクルすることを日々の習慣にする必要がある、と考えているそうだ。

カリフォルニア出身のMattがコペンハーゲンで店を開くことにした理由について、『コペンハーゲンのレストランにくるお客さん達はオープンマインドな人が多く、あらゆる新たな料理をとても自由なセンスで受け入れてくれるし、伝統的すぎるものを提供すると退屈だと反応され、それがむしろシェフ達の新たな食材や調理法を探させるいい刺激になる』と話している。

さらに昨年のNew York Timesのインタビューで、Amassの常連であると話すRenéは、Amassは自分のお気に入りのレストランであり、コペンハーゲンのベストレストランだ、と述べている。

Nomaで4年半スーシェフ、ヘッドシェフとして経験を積み、さらにはNYやイギリスの三つ星レストランも経験した上で選んだ地コペンハーゲンで、Mattが提案する彼なりのニューノルディックキュイジーヌを、一度体験してみてはいかがだろうか。


Amass Restaurant

Refshalevej 153, 1432 Copenhagen, Denmark
Tel +45 4358 4330
amassrestaurant.com


NATSUKO モデル・ライター
東京でのモデル活動後、2014年から拠点を海外に移す。上海、バンコク、シンガポール、NY、ミラノ、LA、ケープタウン、ベルリンと次々と住む場所・仕事をする場所を変えていき、ノマドスタイルとモデル業の両立を実現。2017年からコペンハーゲンをベースに「旅」と「コペンハーゲン」の魅力を伝えるライターとしても活動している。

Instagram : natsuko_natsuyama
blog : natsukonatsuyama.net