「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」。江戸時代前期の俳人山口素道が読んだ初夏の句だ。生き生き活気づく季節に初鰹を食べないわけにはいかないといった意気込みが感じられる。字余りであり、季重ねも3つ(青葉、ほととぎす、初鰹)と俳句のルールから外れてはいるものの、そこにのっぴきならない食欲が感じられて気分がいい。
初夏を少し過ぎたころ初鰹の余韻を楽しもうと高知県に向かう飛行機に乗った。羽田から1時間ちょっとで高知市の市街地からほど近い「高知龍馬空港」へ到着。空港を出ると、気温は高いが吹き抜けていく風が心地いい。今回は高知の中でも特にうまい鰹が食べられると評判が高い中土佐市の久礼地区を歩いて、あまりにも新鮮な鰹と懐かしさを感じる夏休みに定番のおやつなどを食べ歩く。そして帰ってから作って食べた「鰹飯」のレシピを紹介する。
幕末の坂本龍馬、お遍路の接待気質、そして鰹


高知の名士と言えば誰もが知る坂本龍馬。歴史に疎くても、幕末に活躍した彼の名を知らない人はいないだろう。生まれ育った生家がある高知市街から歩いても数時間という距離の桂浜を訪れて「太平洋を見つめて未来を夢見た」という伝説も有名だ。桂浜脇の小高い丘には1928年に建てられた坂本龍馬の像が太平洋を見つめている。旧態依然とした社会の仕組みにとらわれず、脱藩し、新しい思想を持つ人たちに出会い、人と人を結び、新しい世の中を迎えるために活躍。その上33歳の若さで暗殺されたその生きざまに魅力を感じざるを得ないという人がどれほど多いことか。
日が暮れて蝉の声もおさまった頃、昭和の初めまで栄えたという玉水新地遊郭の跡にある居酒屋に出かけて鰹をいただく。すると土地の常連客が高知のうまいものの話をしてくれた。その後は誘われるままにスナックへ。驚いたことにすっかり奢ってくれたのである。翌日現地の人たちにこの話をすると、それは高知あるあるだという。お遍路さんを接待する気質ということか、ごく当たり前だというのだ。そして鰹の話をすれば、皆「本当にうまい鰹なら久礼に行かないと」と口を揃えたように言った。
土佐の一本釣りの街、久礼に足を延ばす
高知から西へJR土讃線の特急で1時間ほど。車窓からきらきらとした太平洋が見え始めるとすぐに土佐久礼駅に到着した。いきなり昭和ノスタルジックな駅舎を出ると「久礼まち歩きガイド」の掲示板が。県内外から観光客が訪れる人気の街なのだ。さらに進むと年季の入った釣具店があった。釣り人にも人気のエリアのようだ。
久礼川が流れ込む久礼湾は長らく関西方面との交易の要衝だったが、今ではうまい鰹でその名が知られ、県内外から人々がやってくる。江戸時代に土佐藩が鰹節の製造を奨励したこともあって、古くから久礼の港は近海の鰹の水揚げで活気があった。400年以上も続く鰹漁の技法は「一本釣り」。小型の船で土佐沖に出て鰹を釣り上げ、24時間以内に水揚げするのだそうだ。これは「日戻り漁」と言われて、冷凍されることなく市場に並ぶ。なるほど新鮮なわけだ。
久礼大正町市場で鰹を食べる!


古くからある市場が街の目抜き通りにある。大正4年には火災で一帯が焼失したものの、大正天皇が復興費を寄付して再建されて、それまで「地蔵通り」だった名称が「大正町」に変更されたのだそうだ。アーケードには数件の鮮魚店、食事処や青果店が並び、近隣にも飲食店や、商店が並ぶ。

アーケードの一番奥にある鮮魚店の店頭のケースには鰹をはじめとした近海の魚が並んでいた。鰹の刺身と鰹のたたきがメインだ。「どうせ食べるなら刺身がいい。他との違いがよくわかるよ」と教えてもらい、どれにしたものかと選びあぐねていると年配の店員さんが目利きをしてくれて「これがいいね」と指をさす。聞いてみると、皮側から内側のほうにピンク色がグラデーションになっているのが特に旨いのだそうだ。鰹の柵を買い、向かいの食堂で定食にしてもらった。生まれて初めて食べる日戻り漁の鰹は、これまでに食べたことのない旨さだった。
昭和感が色濃い港町を食べ歩く


大正町市場からすぐそばに勝負の神様、久礼八幡宮がある。試合や受験の前の必勝祈願や、漁師は大量を、農家は豊作の奇岩にやってくる。境内に奉納された絵馬には鰹を盛りつけた大皿が描かれていた。


神社の鳥居の前にはところてん屋がある。暑い季節にうれしいところてんだが、この辺りではさっぱりとした鰹出汁と生姜でいただくのだそうだ。天草の販売もするこの店の人によれば、今年は近隣での天草の収穫量が少なく苦労しているという。


大正町市場の通りと交差する「お宮さん通り」を歩くと、「くれ天」という練り物の店がある。店頭の木枠のケースに入ってひときわ目立っているのが「くれ天」だ。地元の小魚を練り上げて、薄めに形成して特製の油で揚げたさつま揚げ。作り立てのものを、そのままいただいた。香ばしくて魚の旨味もたっぷり。食べ歩きならサイズ感もちょうどいい。

和菓子屋のメニューにはこの季節にうれしいかき氷が並んでいた。久礼の生姜を使った冷やし飴のかき氷をいただく。生姜の刺激とシロップの甘さがさわやかで、熱にほてった体に沁みていく。そして年間を通して人気なのは「カツオモナカ」。粒あん、こしあん、柚あんの3種類が泳いでいるように並んでいた。

さて、今回の旅で食べてみたいと思っていたものの一つが高知の伝統的な家庭料理と言われる「鰹飯」だった。聞いてみると、どの家庭にもそれぞれの作り方があるのだという。そしてあまりにも家庭的ということもあってか、地元の食堂などではあまり見かけなかった。ようやくお宮さん通りにあるおにぎりの店のメニューに見つけたものの、この日は品切れ。そこで、高知市の土産物店でごはんに混ぜて作る鰹飯のもとをいくつも購入して後日作って食べてみた。
しっかりとした醤油味のもの、山椒や生姜を利かせたもの、現代風に塩味を抑えて甘味が強いものなどそれぞれに特徴がある。また、炊き込んで作ってもよいというものもあった。調べてみると、一般に鰹飯は混ぜご飯タイプと炊き込みタイプの両方があるようだ。
炊き込んで作る鰹飯のレシピ


今回準備したレシピは、炊き込みタイプ。市販のものよりも甘さを抑えて生姜を利かせる。生の鰹から炊き込む作り方もあるが、鰹には先にしっかり目に煮込んで味を入れて、煮汁を加えて炊く。ごぼうも入れて魚臭さを抑えて、多めの酒で旨味を引き出すようにした。最後に粉山椒を振ってアクセントにする。

材料:3〜4人分
・鰹の刺身 140g 10切れ程度
・ごぼう 20g ささがきにする
・しょうが 10g 千切りにする
・しょうゆ 大さじ2
・酒 大さじ3
・みりん 大さじ1
・昆布 3㎝四方程度
・米 2合 研いで30分ほど浸水しておく
・万能ねぎ 2本 小口切りにする
・粉山椒 適量

上のように下準備をしておく。
1.鍋に、醤油、酒、みりんを入れて中火で軽く沸騰させる。(30秒ほど)
2. しょうがとごぼうを入れ、中火で柔らかくなり始めるまで煮る。(2分ほど)

3. 一度火を止めて鰹を上に並べて弱火にし、アルミホイルで落し蓋をして弱火にする。


4. 弱火のまま3分ほど煮たら火を止めて粗熱をとり、具と煮汁を分けておく。


5. 3の煮汁と水を合わせて180mlにして、米の上に昆布を乗せて炊く。

6. 炊き上がったら昆布以外の具をのせて10分蒸したら全体によく混ぜてから飯碗に盛り、万能ねぎを散らし粉山椒を振る。

山椒はなくてもよい。かわりにすりごまをかけても香ばしくておいしい。

ふっくらと味を含んで炊き上がった米に、しっかりと味が入った鰹。混ぜ合わせるときに実が崩れて、ちょうどいい大きさになる。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/







