時間に追われず、海上をゆっくりと移動するクルーズ旅。日々の喧騒から離れて、穏やかな時間を取り戻したいと考える人も多いだろう。北欧では都市間を結ぶ国際フェリーが運航されており、レストランやバー、免税店、サウナを備えた船内では思い思いの時間を過ごせる。夏は涼しく日も長く、バカンスにはもってこいの季節だ。一見、敷居が高そうな北欧旅行だが、プラン次第ではリーズナブルに楽しめる。今回はスウェーデンの首都ストックホルムからフィンランドの首都ヘルシンキまで夜行フェリーで移動し、「世界一の図書館」といわれるヘルシンキ中央図書館を訪ねた。

船上から見る街並みも美しい
ストックホルムーヘルシンキ便に
クルーズ船「Tallink Silja Line(タリンクシリヤライン)」は、スウェーデンやフィンランド、エストニアなどバルト海沿岸の主要都市を定期運航する。ドレスコードが必要なく、バックパッカーも使いやすいカジュアル船だ。
夜行フェリーの魅力はさまざまにあるが、なんといっても寝ている間に次の都市に移動できることだろう。ストックホルムからヘルシンキまで約17時間。飛行機移動が続く人にとっては、よい気分転換になる。サマーセール時に予約した運賃は1泊95ユーロ(当時約1万7000円)。移動と宿泊を兼ねることを考えれば良心的だ。
ストックホルム中心部からトラムで約30分。到着した旅客船ターミナルから見えるのは、全長203メートル、13階建ての大型客船。念願の夜行フェリーに胸を高鳴らせながら、ターミナル内の無人機でチケットを入手した。チケットはルームキーを兼ねるため、なくしてはいけない。ピークシーズンの9月でも混雑はなく、スムーズにチケットを入手できた。周囲を見渡すと、日本人や韓国人の団体ツアー客がいて、どうやらアジア人団体客に人気のルートらしい。
乗船時間が近づくと、ゲート前に多くの人が並び始めた。手荷物検査やパスポートチェックはなく、チケットをゲートに通すだけ。タラップを歩いていくと、入り口が見えてきた。船に乗り込むと、スーツ姿の男性スタッフがにこやかに迎えてくれた。ここは7階のメインフロアで、レストランやバー、ショップが並ぶ。免税店ではフィンランドが誇るアパレルブランド「マリメッコ」の店舗があり、まるでショッピングモールのようなにぎわいを見せていた。夕食時には6階のビュッフェがオープンし、名物の海鮮料理が楽しめる。
まずは手荷物を置くために、部屋に向かう。エレベーターで9階に移動し、右往左往しながら何とかキャビンにたどり着いた。
部屋は1人1室が割り当てられる。中にはスイートルームや、人気キャラクター「ムーミン」の装飾を施した特別室もある。今回選んだのはエンジンから離れたシンプルな部屋で、シャワーとトイレ付き。窓はないが1泊するには十分な広さで、ベッドも快適だ。海外の旅客船は今回が初めてだが、熟睡できそうで安心した。
- ショッピングモールのような船内
- カフェやバーが並ぶ
- 船室の様子
船内で楽しむ北欧式サウナ
荷物を置いたら、さっそく船内探検へ。12階にはサウナやプール、スパがある。せっかくなのでサウナとプールを利用する。料金は17ユーロ(3100円)。そういえば先ほど、日本人ガイドがツアー客に「水着を持つ人はサウナへいっても良いですよ」と号令を掛けていた。日本人客が押し寄せているかと身構えたが、更衣室に入ると外国人女性が数人だけ。古めかしい木のロッカーに荷物を置き、着替えを済ませてシャワールームを通り抜ける。その先にあるサウナ室は男女兼用で10数人が利用できるこじんまりとした空間だ。中央のサウナストーブに積まれた石に水をかけると蒸気がまたたくまに立ち上った。まさか船上でサウナ体験ができるとは。地上と遜色のないサウナが楽しめるのは、北欧のクルーズ船ならではだろう。シャワーで汗を流してジャグジー付きの広々としたプールにつかり、洋上でのゆったりとした時間を満喫した。日没時には、大海原に沈む太陽を見ようと乗客がデッキに集まっていた。

船内のプール

本格的なサウナが楽しめる
ヘルシンキに上陸
一夜明け、下船の1時間半前に起床した。そのはずだったが、船内放送からは何やら早口のアナウンスが聞こえてくる。乗客たちもスーツケースを転がしながら、廊下をひっきりなしに移動しているようだ。驚いたことに、すでに港に近づき着岸に向けた最終準備に入っていたのだ。この時ようやく、スウェーデンとフィンランドに時差があることに気がついた。フィンランドはほかの北欧諸国よりも1時間進んでいるのだ。大慌てで身支度を整え、カバンに荷物を放り込む。廊下に出ると乗客の多くはすでに下船を始めていた。船上からヘルシンキの町を悠々と眺めようと思っていたが思わぬ誤算だ。大急ぎでデッキに出ると、あいにくの雨でヘルシンキの街が少しかすんで見えた。

雨でかすむ旅客船
中央図書館「Oodi」
気を取り直して、ヘルシンキが世界に誇る公共図書館「Oodi(ウーディ)」へ向かう。ヘルシンキ中央駅から徒歩すぐの場所にあり、市民の憩いの場として親しまれている。2018年に開館、19年に「世界一の図書館」と称された。
1階はインフォメーションやイベント案内の掲示板があり、無料の充電スペースもある。2階には予約制の会議室や音響設備を備えた部屋があった。書籍が並ぶのは3階で、広々としたソファがいたるところに設置され、たくさんの勉強机が並ぶ。自然光とあたたかな照明が絶妙なバランスでフロア全体を包み、図書館というよりまるで居心地の良いリビングだ。小説や絵本などの書籍以外にも、DVDやボードゲームも用意されている。窓際のテーブル席には、真剣な顔でボードゲームに臨む親子がいた。
女性スタッフに話を聞いてみると、市民は書籍の貸し出しが無料で、他の図書館から取り寄せることもできるという。日本文学の貸し出し状況をたずねてみると、日本人作家では村上春樹が圧倒的な人気を誇るという。私の好きな吉本ばなな作品も人気で、端末で在庫を見せてもらうと「TUGUMI」「キッチン」などすべて貸し出し中だった。
- ヘルシンキ中央図書館3階
- あたたかな照明で落ち着く
- たくさんの絵本が並ぶ
名物ビュッフェに舌鼓
1階にあるビュッフェが人気の「Food&Co Restaurant Oodi」は昼からにぎわいを見せる。色鮮やかなビーツのスープやディルをふんだんに使ったピクルス、白身魚のフライ、パスタなどが彩りよく並ぶ。ドリンクも飲み放題で、13.7ユーロ(2500円)。物価から考えるとお得に感じる。アイスコーヒーは驚くほど酸味が強かったが、全体的に食べやすく大満足のランチだった。そういえば今朝はばたばたして満足な食事が取れず、余計においしく感じたのかもしれない。一日中過ごせる公共図書館は、雨天時の訪問先としてもお薦めしたい。
- 「Food&Co Restaurant Oodi」
- さまざまな料理が食べられる
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住吉沙耶花
ソロ旅ジャーナリスト。都内の報道機関で文化部記者として勤務。訪れた国は欧州を中心に60カ国以上。









