2024年の世界銀行の資料によれば、インドの人口は中国を抑えて14億5,000万人超に達しているという。インドで10年ごとに実施される国勢調査は、もともと2021年に予定されていたが、コロナ禍の影響で延期されたままだ。平均年齢は28〜29歳前後と若く、街を歩けばとにかく若い人の姿が目立つ。こうした人口構成は「人口ボーナス」と呼ばれ、豊富な若年労働力と強い消費力が内需を押し上げ、経済成長の主要な原動力になっている。

一方で、インドの宗教構成を見ると、国民の約80%がヒンドゥー教徒、約14%がイスラム教徒と、この二つの宗教が大多数を占めている。どの町にもヒンドゥー教の寺院があり、イスラム教のモスクが共存する風景がある。街のマクドナルドに入ると、ヒンドゥーが神聖視し、イスラム教が禁忌とするビーフやポークのバーガーは見当たらず、チキンやベジタリアンのメニューが中心だ。宗教が日常の生活や食文化に深く根付いていることを実感させられる。

今回、IT企業や自動車産業で経済を支える都市も多い、南インドを旅した。高地の気候を生かした茶畑を列車で訪ね、各地でミールスを食べ歩く中で、この地域独自の食文化と暮らしのリズムに触れた。そして今回は、南インドの朝食には欠かせない「イドゥリ」と、現地ならではのフレッシュなチャツネのレシピを紹介したい。

急勾配を登るニルギリ山岳鉄道

インドの国土面積は約328万平方キロメートルに及び、世界で7番目に大きい国だ。その広さは日本の約9倍に相当し、ロシア以外のヨーロッパ地域とほぼ同じ規模感がある。北はヒマラヤ山脈から、南はインド洋先のコモリン岬まで、いくつもの異なる気候帯が広がり、自然環境にも恵まれている。

南インドが赤道に近いから北より暑いのだと思っていたが、、実際にはそうではない。北部には広大な乾燥地帯や農耕地が広がる平原があり、夏の暑さは厳しい。一方、南部には標高の高い中央高地があり、比較的涼しく過ごしやすい地域も存在する。つまり、「南ほど暑い」というイメージは必ずしも当てはまらないのだ。

この中央高地の一部に位置するニルギリ丘陵には、インド最古の山岳鉄道のひとつであり、ユネスコ世界遺産にも登録されているニルギリ山岳鉄道(Nilgiri Mountain Railway)が走っている。1899年の開業以来、標高326mのメットゥパラヤム(Mettupalayam)と、約2,200mの高地都市ウダガマンダラム(Udhagamandalam)を結んできた。全長は約46km。登りは5時間弱、下りは約3時間半の旅路だ。この路線は、かつて避暑地として外国人居住者が多かったウダガマンダラムへ向かうために敷かれた歴史をもち、ニルギリ紅茶の輸送ルートとしても使われた。現在は主に観光列車として運行され、古風な蒸気機関車の旅を楽しむことができる。

特徴的なのは、ラック式鉄道を使う区間だ。メットゥパラヤムから途中駅のクーヌール(Coonoor)にかけての急勾配区間では、線路の中央にある歯車を噛ませて登坂・制動をする仕組みが組み込まれている。登りでは蒸気機関車が列車を押し上げ、下りでは先頭に立ってスピードをコントロールするのだ。一方、クーヌールからウダガマンダラムに向かう区間ではディーゼル車が連結される。

車両は1等車と2等車の二つのクラスで、1等車は8人が座れるコンパートメントになっており、それぞれのコンパートメントにプラットフォームとの出入りのためのドアがしつらえてあり、客車内には廊下がない。2等車には廊下があり、左右に二人が座れるベンチが並ぶ。

インド三大茶葉のニルギリティー

ダージリン、アッサムと並び、インド三大茶葉産地のひとつに数えられるニルギリ。ニルギリ山岳鉄道の沿線には、起伏に沿うように広がる茶畑の風景が続く。茶の枝先にある若い新芽は、最上級の紅茶になる。一方で、細かく砕かれた茶葉は「ダスト」と呼ばれ、抽出が早いためティーバッグに使われることが多い。

現地では、新芽を使ったゴールデンティップを淹れてもらった。上品な味わいと、茶葉の繊細な香りが印象的だ。ただ、普段ティーバッグで飲む紅茶と比べると、どこかパンチが足りないようにも感じる。結局のところ、等級にかかわらず、どちらもそれぞれのおいしさがあるのだと思う。

列車の車窓からは、茶を収穫する人々の姿も見えた。日本茶は春が新茶の季節だが、インドでは年間を通して茶が収穫される。季節ごとに風味が変わり、それぞれに個性があるという。ウダガマンダラム周辺には、見学可能な紅茶工場も点在しており、茶葉がどのように加工され、一杯の紅茶になるのかを知ることができる。

朝食の定番イドゥリとフレッシュなチャツネ

旅の間、朝食で欠かさずいただいたのが、米粉を使った蒸しパンのような料理、『イドゥリ』だ。インドでは、北部は小麦、南部は米が主食と言われる。北部ならナンやチャパティ、南部ならごはんや米粉料理が日常に根付いている。

イドゥリは、本来は米と豆を一晩発酵させてから蒸し上げる料理だが、ここではベーキングパウダーを使い、ふっくらと仕上げる方法で作る。主食のため砂糖などで甘みはつけず、材料はごくシンプル。香辛料を加えたり、ハーブを混ぜ込んだアレンジもある。南インドでは朝食の定番中の定番で、イドゥリを提供するチェーン展開のファーストフード店があるのも印象的だった。

もうひとつ欠かせないのが、南インドの『チャツネ』だ。日本でチャツネといえば、マンゴーを発酵させた瓶詰の甘い調味料を思い浮かべる人が多いが、南インドのチャツネはまったく違う。フレッシュな素材を使い、食べる分だけをその場で作るのが一般的だ。上の写真左から、トマト、ココナッツ、ピーナッツ、コリアンダーのチャツネ。どれも彩りが美しく、味わいも異なる。上の写真3枚がイドゥリ、下は豆のペーストで、これだけでしっかりとした朝食になる。

今回は、プレインなイドゥリとトマトのチャツネのレシピを紹介する。

プレイン イドゥリのレシピ

材料:(8㎝のイドゥリ3枚)

・米粉 60g
・ベーキングパウダー 4g
・植物油 10ml
・牛乳 60ml

作り方:

1. 牛乳、植物油、米粉をボールに入れて混ぜ、ベーキングパウダーを加えて更によく混ぜる。

2. 直径8㎝位の皿に薄く植物油(分量外)を塗って、1の1/3量を入れて、蒸し器、またはフライパンに水を入れてから並べて、蓋をして10分蒸す。

トマトのチャツネ

材料:

・植物油 大さじ1
・にんにく 3かけ みじん切り
・しょうが 25g みじん切り
・ひよこ豆 大さじ3 50g
・鷹の爪 3本
・玉ねぎ 中1個 粗みじん切り
・トマト缶ダイス切り 1缶 250g
・一味唐辛子 小さじ1/2
・水 100ml
・塩 小さじ1/2
・ココナッツファイン 30g

ココナッツファインはココナッツの実を細かくして乾燥させたもの。製菓用のものが手に入りやすい。

1. 厚みのある鍋に、植物油、にんにく、しょうが、鷹の爪を入れて、香りが出るまで炒める。

2. 玉ねぎを入れて炒め色が透明になったら、ひよこ豆粉、トマト缶、一味唐辛子、塩を入れる。全体を合わせたら、50mlを入れて沸騰させて、水分がなくなれば追加して5分程煮る。

3. へらで鍋底をこするように動かして、鍋底が見えるようになれば火を止めて粗熱を取る。

4. 3にココナッツシュレッドを加えてフードプロセッサーかハンドブレンダーで滑らかにして、常温まで冷ます。

皿に盛り、あればパクチーなどを飾る。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/