香港でミシュラン一つ星に輝くレストラン〈Andō〉を手掛ける、アグスティン・バルビ。彼が日本で選んだ新たな舞台。それがJW マリオット・ホテル東京に誕生したモダン地中海料理レストラン〈Sefino〉だ。この空間に込めたのは、家族の記憶と日本の食材に対する思い。来日中のバルビに話を聞いた。

昨年10月にオープンしたJWマリオット・ホテル東京のモダン地中海料理レストラン〈Sefino〉。監修を手がけるのは、香港のミシュラン一つ星レストラン〈Andō〉で知られ、Asia’s 50 Best Restaurantsにも名を連ねるシェフ、アグスティン・バルビだ。アルゼンチンに生まれ、スペインやイタリアの文化が混ざり合う土地で育った彼の原体験は、〈Sefino〉の料理の根幹をなしている。

「アルゼンチンは、スペインやイタリアにルーツを持つ人がとても多い国。僕が生み出す料理も、自分自身が幼い頃に食べてきたスペインやイタリアにつながる家庭の味や記憶が料理のベースになっています。〈Sefino〉のメニューも、いわば自分のルーツや先祖の存在を、料理として表現したものなんです」

ただ、地中海料理を軸にしながらも、ここで提供される料理は、スペインやイタリア料理の再現ではない。自身のフィルターを通し、日本の風土や旬の食材があってこそ成立する、とバルビ。日本の食材を活かしながら、自身のバックグラウンドと、地中海の文脈が静かに交差するのが〈Sefino〉の一皿だ。オリーブオイルをふんだんに使い、バターをほとんど使用しない軽やかな構成も特徴的。

日本の食材について尋ねると、バルビは笑いながらこう答えた。

「正直に言うと、日本の食材が素晴らしすぎて、シェフの仕事は少ないくらい。だからこそ、素材の良さを最大限に生かすことを大切にしています」

シグネチャーメニューは「アロス・カルドソ」。貝や玉ねぎ、チョリソーの旨味を重ねたブイヨンで米を炊き上げるこの料理は、実はシェフの祖母が作ってくれた家庭料理をもとに生まれたもの。こうした家庭の記憶を出発点に、洗練された一皿へと昇華されたその味わいは、深い旨味と香りが印象的。大鍋からゲストの目の前で取り分ける提供スタイルには、食文化の背景や温もりを共有したいという想いが込められている。

そのほかにも季節の食材や新鮮な魚介類をふんだんにつかったメニューが続く。インスピレーション源になるのは、自然だと言う。

「シェフの仕事は、自然と料理をつなげることだと思っています。市場に通い、その時々の旬の素材を生かす。シェフとして心がけているのは、親しみやすいけれど、少しだけ新しい味。初めて食べるような感動を届けられるようなバランスを意識しています」

JWマリオットという世界的なホテルブランドの中にあるレストランという位置付けだが、バルビにとってはパーソナルな場所。そもそも日本でなければこのオファーは受けていなかったかもしれない、という。

というのも、バルビは若い頃、東京のレストランで研鑽を積んだ経験を持つ。また、パートナーは日本人で、尊敬する日本人シェフも数多く、公私共に親しみを感じる国という。現在バルビは香港に拠点を置いているが、信頼するスーシェフと密に連携し、ほぼ毎月来日して味のクオリティをキープする。

最後に、〈Sefino〉をどんな場所にしていきたいかと尋ねると、バルビは“ホテルの中のレストラン”という枠を超えた未来を語ってくれた。

「近隣に住む方たちにも親しんでもらえるレストランでありたい。〈Sefino〉がこの街にあることを、誇りに感じてもらえたら嬉しいです」

2025年10月に開業したJWマリオット・ホテル東京は、「心温まるエレガンス」をコンセプトに、日本ならではの繊細なおもてなしを融合させた上質な空間を備える。〈Sefino〉はその29階に位置。ワインセラーのアプローチを抜けた先に広がるのは、大きな窓いっぱいに広がる東京の夜景だ。開放感がありながら、どこかヨーロッパの邸宅に招かれたような居心地のよさが漂う。美しい眺望を楽しみながら、文化や記憶を内包した趣深い一皿を味わう。開放感と温もりが静かに共存する〈Sefino〉での食体験は、地中海料理の新しい魅力を教えてくれるはずだ。


Sefino

住所:東京都港区高輪2-21-2 JWマリオット・ホテル東京 29階
電話:03-3434-7070


photo:Nanako Ito
text:Mariko Uramoto