日本でもすっかり定番になった「バスクチーズケーキ」。その名前から、どこか素朴で伝統的な“バスク地方のお菓子”というイメージを思い浮かべる人も多いだろう。では、そもそも「バスク」とはどこなのか──あらためて地図を広げてみると、その輪郭は意外と奥深い。フランスとスペインを隔てるピレネー山脈一帯から、その西側のピスケー湾までの地域。そのうちフランス側のフレンチバスクは、バスク全体のわずか15%ほどの面積ながら、洗練された食文化と暮らしの美学が凝縮されている。
今回はフレンチバスクの中心都市、バイヨンヌを歩いて、現地で食べたバスクの家庭料理『アショア(Axoa)』のレシピを紹介する。

川と巡礼路が交わる街、バイヨンヌ
フランスとスペインの国境、ピレネー山脈を水源としたアドゥール川が東から西へ流れ、大西洋のビスケー湾に注ぐほんの数キロ手前に位置するバイヨンヌ。古くから交易で栄えた街で、特に初めてチョコレートがフランスにもたらされた土地としても有名だ。
アドゥール川に南側から注いているのが、ニーヴ川。バイヨンヌの中心は二つの川によってT字に隔てられた3つの地域からなる。アドゥール川の南岸、ニーヴ川の西岸がグラン・バイヨンヌ(Grand Bayonne)と呼ばれるバイヨンヌ街の中心で、行政機関や古いくからのホテル、商店街などがある。東側はプチ・バイヨンヌ(Petit Bayonne)と呼ばれる下町と言った風情の街並みだ。アドゥール川の北岸は比較的新しいサンテスプリ(Saint-Esprit)という地域でバイヨンヌ駅がある。
グラン・バイヨンヌには、二つの尖塔が印象的なサント・マリー大聖堂が街を見守るように建っている。エルサレム、ローマと並ぶキリスト教三大聖地の一つ、スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂を目指す世界遺産の巡礼路群『サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路』の、フランス側の巡礼路に含まれる教会で、中期ゴシック系の教会だ。13世紀に建築が始まり、一部を除いて17世紀に完成した。聖堂の中の赤い壁と天井の深い緑色が印象的で美しい。1998年に世界遺産に登録されている。
プチ・バイヨンヌには聖アンドリュー教会がある。こちらは19世に完成したものの、その後いくつかの崩壊があって、現在の姿に修復されたのは1903年なのだそうだ。
プチ・バイヨンヌを歩いていると、スカッシュを楽しんでいる子供たちがいた。どうやら彼らのおじいさんとみられる人がコーチをしている。スカッシュはイギリスが発祥のスポーツ。最新の世界ランキング20位に8人の選手がランキングしているエジプトが世界最強の国と言われている。フランス人は3人がランクイン。そしてバイヨンヌにはスカッシュのクラブがある。この日は地元のBaione FCのサッカーマッチがあった日で、スカッシュクラブのカフェでは人が集まってテレビの中継に見入っていた。
マルシェを覗いて、エスペレットを手に入れる
バイヨンヌの旧市街には中世を思わせる建物が並んでいるが、ニーヴ河畔にあるマルシェ、『レ・ザール・ド・バイヨンヌ(Les Halles de Bayonne)』 は現代的な施設だ。中には20を超える店があり、野菜、肉などの生鮮食品から、バイヨンヌ特産のハムやフォアグラ、豚肉の血を使うソーセージ、ブーダン・バスクなどの加工品、唐辛子のエスペレット、チーズ、土地の総菜などが並ぶ。カフェやビストロもある。食料を買いだすのにもいいし、ビストロでのんびりするのも良し。現地の食に触れることができて楽しい。
『エスペレット』というこの土地の唐辛子が有名だ。エスペレットはバイヨンヌから数キロ内陸にある地域で、そこで栽培が始まった唐辛子で、辛みは弱くその代わり風味は強い。ハンガリーの特産であるパプリカと似ている。バスク地方、またその他の地方でも様々な料理に使われる。今回紹介するアショアにも必須ともいえるな香辛料だ。

フランスで最初にチョコレートがもたらされた街
チョコレートの原料となるカカオの原産地は中南米で、そこを植民地化したスペインがヨーロッパにもたらした。当初はホットチョコレートが各地で飲まれていたらしい。いわゆる固形のチョコレートは、17世紀にスペインのユダヤ系住民がフランスに持ち込んだ。その場所がバイヨンヌだったのだという。
グラン・バイヨンヌには7軒の老舗チョコラティエが軒を並べている通りがある。いずれもクオリティが高く、バラエティに富んだチョコレートが販売されている。一口サイズのボンボン・ショコラがメインだ。
プチ・バイヨンヌには、比較的新しいビーン・トゥ・ショップのショコラティエ『Monsieur Txokola』がある。ここではチョコレート作りの行程をガラス越しに見学することができて興味深い。ショップでは板チョコを中心としたチョコレートが販売されている。
バスク料理店でプリフィックスのランチを
ショコラティエの老舗が並ぶポール・ヌフ通りは街一番のショッピング街で、レストランもいくつかある。そのうちの一軒『Les Arcards』に入ってランチをとった。
前菜は、干しだらとポテトを合わせたものを、ピーマンに似ている肉薄のピメントに詰めたサラダ。メインは牛挽き肉とピメントをエスペレットのパウダーで煮込んだ『Axoa アショア』だ。いずれも目新しい料理なのだが、食べてみるとなんとなく懐かしい。日本の洋食屋にでもあってもおかしくない、シンプルで優しい美味しさ。そしてデザートはバスクケーキ。柑橘系のクリームをサンドした焼き菓子だった。爽やかですっきりとした甘さで、レモンを使っているから、ここはスペインなのだとあらためて実感させられる。
バスク地方の伝統的な家庭料理『AXOA アショア』のレシピ
アショアはバスク地方のピメント(ピーマンの一種)と牛ひき肉を、唐辛子のエスペレットのパウダーで仕上げる煮込み料理。寒い夜には特に嬉しい料理だと思う。

ピメントの代用として、今回のレシピではパプリカとピーマンを使う。パプリカ・パウダーはエスペレット・パウダーの代わりになる。
材料:4人分
・牛ひき肉 400g
・ピーマン 4個 8㎜程度の角切り
・パプリカ 1個 8㎜程度の角切り
・玉ねぎ 中120g程度 8㎜程度の角切り
・にんにく 2かけ みじん切り
・ペレット・パウダー 小さじ1/2 パプリカ・パウダーでもよい。
・オリーブオイル 大さじ3
・白ワイン 80ml
・コンソメスープ 300ml
・塩 少々と小さじ1/2

作り方:
1. 厚手の鍋を中火にかけて、オリーブオイルを入れて温めたら、ピーマン、パプリカ、玉ねぎ、塩少々を入れて蓋をし、時々混ぜながら20分炒め煮にする。

2. にんにくをいれて、蓋を開けたまま10分ほど煮詰めたら取り出しておく。

3. 同じ鍋にオリーブオイル大さじ2を入れて強火で温めたら、牛ひき肉を入れて、エスペレット・パウダー、塩小さじ1/2を振りかけて、そのまま軽く焼き目がつくまで焼いたら(火がすっかり通っていなくてよい)、ワインを入れて沸騰させる。

4. 1の野菜を加えてビーフコンソメスープを入れて中火にし、沸騰したらじゃがいもを上に乗せて、じゃがいもが柔らかくなるまで蓋をして煮込む。

5. 蓋を開けて中火で5分ほど水分を飛ばす。

フランス料理と聞くと手の込んだ料理を思い浮かべるが、このバスクのシンプルなシチューは材料もプロセスも少なくて作りやすく、そして温かみを感じる一品だ。

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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/





















