久しぶりにパリを旅した。今夏完成した、以前は石畳だった2500㎡もあるパリ市庁舎広場の庭園や、市庁舎のすぐ近くの追悼庭園(2015年11月13日の庭園)を訪れた。パリは、2030年までに『欧州で最もグリーンな都市』になることを目指し、大規模な緑化計画が進行中だ。2000年から昨年にかけ、すでに11万3000本の樹木が様々な場所に植えられた。2つの庭園を眺めながら、パリが『庭園都市』へと着実に変化していることを実感した。

今回の旅では、そんな環境政策が本格化しているパリで、ホテル、レストラン、ショッピングする店を“エコ”や“サステナビリティ”を意識して選んでみた。次回のパリ旅行の参考にしていただければと思う。

環境に配慮したホテル

Sophia van den Hoek© – @un_fold_ed

エコフレンドリーなホテルは、格安からラグジュアリーまで様々ある。中級でお洒落なものだと、2020年にオープンした『ホーム・オブ・ヨガ ホテル(HOY Paris)』 が評判だ。21の客室、日本人のフローリストがいる、季節の花を揃えたフラワーショップ、ヨガのレッスン(英語クラスもあり)が受けられるヨガスタジオ、植物由来の食事や自然派ワインを提供するレストランなど、とても充実した設備だ。マッサージなどのトリートメントも受けられる。

ホテルの装飾には古い建物から取った木材が使われ、家具も一部中古品を使用している。壁の塗装は天然顔料をベースにした塗料を使用。ホテル全体で省エネを実践している。植物の水やりは雨水を使い、売れ残った花は乾燥させてデコレーションにしたり、堆肥化しているそうだ。スタッフのユニフォームが環境に配慮したブランドというのも感心した。

客室は環境に配慮した清掃用品で掃除され、100%天然素材の香りで浄化している。備品は必要最小限を揃え、すべてエコロジカルだ。

通常のホテルのような無料のペットボトル入りの水はHOYホテルでは提供しない。代わりに、ガラス製容器に日本産の備長炭を入れて浄化した水道水が置いてある。客室にテレビがないことも、静かでヘルシーな滞在を約束してくれる。今回は参加しなかったが、旅先でヨガの時間を取ると特別感がさらに高まるから、ヨガクラスもぜひお試しあれ。

格安なエコホテルも紹介しよう。例えば、環境にも財布にも優しい点でパリで先頭を切ったといわれる『ソーラーホテル』。2009年に大改修してエコ化し、名前をソーラーホテルに変え、エコ認証を取得したり、サステナブルな観光の賞をいくつも受賞している。

グリーンキー(エコ認証)を取得している『ザジ・ホテル』は、2012年以来、職業復帰を目指す人たちを雇用している点が評価され、パリのホテルで初めて、フランス政府から社会貢献活動を行っていると認定された。他にもエコなホテルは意外にたくさんあるので、じっくり探してみてほしい。

レストランやカフェも、エコ系を探す

いつもの旅だと、飲食店は気の赴くままに選ぶ。しかし、今回は事前に調べて各店に向かった。

市内に6店を構えるレストラン『ミュール』は、バランスの取れたおいしいランチで人気を集めている(うち2店は朝食も提供。1店は食材店併設)。

“農場から食卓へ”を意味する『ファーム・トゥ・テーブル、またはファーム・トゥ・フォーク』は、地産、自家栽培や有機栽培を大切にし、それらの食材を使った料理を作るというコンセプトだ。日本でもこの考え方を取り入れたレストランが増えているが、ミュールも“畑と厨房の直結”を実践している。

農場2つは、パリから少し離れた場所にある。生態系に配慮しながら育てた150種類以上の野菜や果物が、毎週パリの店へ届けられる。農場でまかなえない有機食材(豚肉・鶏肉、マッシュルーム、オイルやコーヒーなど)は提携先の国内外の生産者(ほとんどは国内)から仕入れている。

最良の味と栄養価を保つため、加工食品は使用せず、新鮮な食材を調理することをモットーにしている。残念ながら、今回はランチタイムには行けなかったが、有機コーヒーとオーツミルク(植物性のミルク)のラテと、有機の甘いパンを試した。「人と地球を大切にした食を通して、人と自然がつながるように」という店の願いが感じ取れる、温かい雰囲気のレストランだった。

もう1軒、“農場から食卓へ”の店を尋ねた。『ル・パッサージュ・ア・ニヴォ Le passage à niveau』(2020年オープン)は隠れ家的な存在で、道路から鉄道線路(廃線)の下をくぐり抜けた場所にある。トンネルをくぐると、コンポストの箱が並び、建物2軒と菜園が目の前に現れる。ここは、鉄道農場と名付けられたプロジェクトだ。

(写真の左側の)下部が木枠、上部がメタルでできた窓がある建物がレストランだ。菜園のすぐ脇の木の建物は、社会復帰を目指す人たちのための住宅だ。ここの住人たちが菜園で野菜や果物を栽培する。レストランの上階の温室でも野菜を育てており、収穫物はレストランの食材になる。

料理は素朴だが、どれもおいしそう。訪れた時のランチのメインディッシュは、ズッキーニとナスのキッシュ、ソーセージとマッシュポテトのマスタード添え、ローストポテト添えサーモンステーキとなど7品あった。私が選んだ子羊のカレーは、柔らかなお肉も旨味が凝縮した6種の野菜も“ホッとする味”だった。ここは観光客はあまり訪れない地区のため、この界隈が生活圏だと思われる人たちが次々に来てほぼ満席になり、この店が地元に馴染んでいる様子がうかがえた。

ちなみに、この近くのラ・ヴィレット公園の中にある、建物がユニークなゼロ・ウェイストのレストラン『ヴェントゥルス』も評判だ。木とガラスでできた建物は解体・組み立てが簡単で、動くレストランとして設置場所を移動していたが、しばらくは公園内に留まるようだ。

ポップ感が満載のブランチ&ランチのレストラン『JOVIA』は、税理士として働いていたアメリーさんの「健康的な食事を、カラフルな空間で楽しめる場所が街にあったらいいな」という思いを形にしたお店。2024年にオープンした。ベジタリアン料理が多く、特製ドリンクもヘルシー。私は『アボカドのトースト』、そして、8色のラテのうちの、ドラゴンフルーツパウダーとミルクを混ぜた『ピンク』を試した。

絵画のように素敵なカフェやコーヒーショップは、パリには数々あるが、コーヒーショップのチェーン、『ノワール』も地元の人にも観光客にも愛されている洗練されたスポットだ。オーガニックのコーヒー豆をフェアトレード(途上国の産物を適正な価格で継続的に購入する)で調達している。

2020年に2人の男性が設立したというノワールは、現在、パリに23店舗ある。2026年初めには5店が新しくオープンし、ロンドンにも進出するとのことで、飛ぶ鳥を落とす勢いで広がっている。コーヒーのおいしさに加え、店舗ごとにデザインが異なるのが魅力だ。私は、33 Rue Richerのノワール(2023年オープン。設計はJessica Mille Architecte)に行ってみた。螺旋階段を上った2階に席を見つけ、ひと時を過ごした。長居できる雰囲気で、1階席にいた母親と女児もとてもくつろいでいる様子だった。

プリスティン』 も行ってよかった店だった。地産地消でゼロ・ウェイスト、自然派ワインもあり、以前サインポストで紹介した飲食店向けのエコ認証のエコターブルで、最高の3つ星を獲得している。プリスティンは、農場と、出荷量に関わらず毎月一定額を支払う固定契約(農場は安定した収入を得る)を結び、野菜を仕入れている。生産者の持続可能性を保証する取り組みだ。

パリに住んでいる友人が来てくれたおかげで、2人で4品をシェアできた。ゆで卵やキャベツなどが種々の材料で丁寧に調理され、見るからにおいしそうで、実際その通りだった。スライスして焼いたカボチャの上に、ヒヨコ豆と香ばしいカボチャの種がたっぷりとのった一品には季節感があふれていた。

2人ともドリンクと、お店のおすすめのアイスクリームのサンドイッチ(ヘーゼルナッツバター、ハチミツ、そば粉を使用)も注文し、割り勘で1人50ユーロだったように、お手頃な点もこの店が好評な理由だ。

他にも、2027年までに国内60店舗の規模を目指して広がっている『ビオバーガー』(パリには7店)ではオーガニック100%のハンバーガーが楽しめるし(今後、牛肉の割合は環境負荷を考慮して減らしていくという)、名店として慕われ、今夏、パリに4店目がオープンした『ブルータス』には国産の材料で作ったガレット(そば粉のクレープ)や小麦のクレープと、厳選した25種類以上のオーガニックシードル(リンゴを原料とする醸造酒)が揃う。パリで食べてみたいエコな食事はきっと見つかるはずだ。

ショッピングも、地球の未来を考えながら

パリのエコロジー化は、ファッションや雑貨においても進んでいる。2009年のオープン以来、絶大な人気を誇るセレクトショップ『メルシー』は、訪れたことがある人も多いだろう。店内に美しく配置されたファッションや日用品・家具は、エコやサステナブルの観点で選んだものばかり。その2号店『メルシー#2』が、2025年3月、ルーブル美術館の近くにオープンした。本店よりは狭いが、1階と地下1階にある商品をじっくり見て回ったら、半日は過ごせそうな気がした。

サントル・コメルシアル』も、お洒落なセレクトショップだ。エシカルな(人、社会、地球に配慮している)ファッションを集めている。白い外観の同店は2010年にオープンした。そして2025年6月、同じ通りに、深緑の外観のアウトドア用品専門店がオープンした。両店の近くには、キッズ用品専門店もある。

今回パリを歩いてみて、自然食品を売る店が随分増えた気がした。可愛らしい外観のオーガニック・スーパーマーケットがあったので入ってみたら、生鮮食品から乾物まで豊富な品揃えで、シリアルやナッツの量り売りのコーナーもあった。フランス産のハチミツとジャムを買ってみた。オーガニック系のスーパーでお土産探しというのもおすすめしたい。


Photos other than press images: by Satomi Iwasawa

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/