中華人民共和国のチベット自治区に出かけたのは今年の夏のことである。インドで始まった仏教はチベットに伝わり、8世紀にはチベット国の国境となった。隣国のブータンでは現在の国教であり、ネパールにも信者が多い。チベット仏教の信徒が多いチベット民族は中国の他の自治区にも、ダライラマが中国から亡命したインドのラダック地方にも広く住んでいる。今ではチベット国は存在しないのだが、チベット民族の文化や思想はまだ色濃く残っている。

上海を経由して青海省の省都である西寧に入り、そこから青蔵鉄道に20時間乗り、チベット自治区の拉薩に向かう旅だ。今回は西寧のチベット仏教遺産と青蔵鉄道の旅、そしてチベットの春雨料理である「ピンシャ」のレシピを紹介する。

チベットへの鉄路の入り口西寧でチベット仏教の寺院へ

西寧の中心部から南へ26㎞ほど。タール寺の手前にある駐車場からは、カートに乗り5分程でタール寺の入り口に到着する。仏院や仏塔、僧侶が住む建物、病院といった多くの建物が広い敷地に収まっている。まるで一つのまちと言った規模だ。

この寺は中華人民共和国国家観光局が定める観光地の5等級のうちの最高級である5A級観光地で、その歴史的な重要性はもとより、環境、衛生、アクセスなどにおいて最高ランクとされている。入り口にはチケット売り場があり、その奥のゲートへと進んで入場する。親子連れやグループの観光客が多く、さながらテーマパークといった様子である。

ゲートを入ってすぐ右側にある「如来八塔」では人々が記念写真を撮っていた。「蓮聚塔、四諦塔・和平塔・菩提塔・神変塔・降凡塔・勝利塔・涅槃塔」の8つの仏塔だ。「仏塔」ストゥーバは釈迦の遺骨が納められているとする仏舎利塔のことで、インドから伝わり、後に中国にも広まったという。

境内にはモンゴルの民族衣装をまとった人も見られた。青海省にはモンゴル民族も多く生活している。それに漢民族系の人たち、そして海外からの観光客と、様々な人々が集まっている。ここに生活する僧侶の300人ともいわれて、袈裟をまとった若かったり、また年季の入った僧侶の姿もまた多い。

あまり広くない通路を奥へと進むと、いくつもの仏堂や仏塔が建っている。仏像や仏書が収められた仏堂の中に入ることもできるが、写真などを撮影することはできない。そこは学びの場であり、早朝から僧侶たちによる読経が行われるのだ。

タール寺は、近代以降最大のゲルク派の寺院で、ゲルク派の宗主ツオンカパが生まれた寺である。ゲルク派は14世紀に登場した新しい宗派だが、それ以前、仏教が伝わった8世以降にいくつかの宗派が生まれ、この頃には退廃的な状況になっていた。それを改革したのがツオンカバである。また歴代のダライラマはゲルク派に属している。

この寺はまたバターで作る仏像などの彫刻有名で、一つの伽藍の3つの壁を覆うほどのサイズだ。その入り口には五体投地を繰り返す信者たちがいた。

世界最高地の鉄道「青蔵鉄道」で拉薩への列車旅

西寧から拉薩へ、青蔵鉄道で移動した。総延長は1044㎞を20時間かけて走る。一日上下10本程度が運行されていて、この日は夜11時過ぎの便を利用した。到着するのは翌日の日暮れ後になる。2006年に全線開通した世界でも最高度を駆け抜ける高原鉄道で、西寧の駅の近代的なターミナルから出発する。

列車は夜明け前にゴルムド駅に到着。ここでも海抜2829m。そしてここから5071mのタンラ山脈を越えるためにより馬力がある機関車を変えるのだ。とはいえ早朝の静かなホームで、それほどの振動もなく、あっという間に連結作業は終わった。

車窓から見えるのは、ほぼ平原。20時間も乗車するのだが、ダイナミックに車窓の風景が変わることはない。備え付けの給湯器から湯を注いで、茶を飲みながらのんびりと過ごすしかない。低酸素で体調がすぐれない場合には、席に備え付けの機械から酸素を吸入することができる。

朝になってさっそく朝食、続いて昼食、夕食を食堂車でいただいた。シンプルな料理だが、車内で調理されたものは温かくありがたい。こうして20時間、寝台車の同室の中国人男性たちとも身振り手振りを交えて話しながら打ち解け、列車は日の暮れた拉薩に到着した。

チベットの春雨スープ「ピンシャ」のレシピ

今回紹介するのはスパイシーな春雨スープ「ピンシャ」だ。チベットではうどんのような小麦粉の麺同様に、春雨もよく食べられている。様々なスパイスを使うのはインドの影響が強いからだ。主な具はきくらげ、じゃがいも、牛肉。この多少刺激的な麺をご飯と共にいただく。

材料 (2人前)

・緑豆はるさめ 60g
・黒きくらげ 1/3カップ
・植物油 大さじ1、小さじ1
・玉ねぎ 1個分 120g程度
・しょうが みじん切り大さじ1
・にんにく みじん切り大さじ1
・クミンパウダー 小さじ1
・ガラムマサラ 小さじ1/2
・パプリカパウダー 小さじ1/2
・ターメリック 小さじ1/4
・トマトペースト 大さじ2
・牛薄切り肉 120g
・じゃがいも 1個分 150g程度
・鶏がらスープ 小さじ2
・水 500ml
・塩・コショウ 少々
・パクチー 適量
・ごはん 適宜

作り方

1. 緑豆はるさめと黒きくらげを、商品の表示に従って戻す。緑豆春雨は3分熱湯でゆでる。玉ねぎはみじん切り、じゃがいもは8㎜位の角切りにする。しょうが、にんにくはみじん切りにする。

2. 厚めの鍋に植物油大さじ1を入れて中火で温めたら、玉ねぎのみじん切りを入れて、弱火で透き通るまで炒め、にんにくとしょうがを加えて香りが出るまで炒める。

3. クミン、ガラムマサラ、パプリカを加えて全体にむらなくなじませ軽く炒め、トマトペーストを加えてさらに炒めて、鍋の半分に寄せる。

4. 植物油小さじ1を追加して、中火で牛肉を炒める。色が変わったら全体を混ぜて、ジャガイモとキクラゲを加えて軽く炒める。

5. 鶏がらスープと水を入れて、沸騰させたら塩とコショウで味を調える。

6. 器に盛り、パクチーを乗せる。

ごはんに乗せても旨い。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/