デンマークのコペンハーゲンには、好奇心を刺激する建物が数多くある。ガイド付きの自転車ツアーに参加すれば、効率よく、そして楽しく複数の場所をめぐることができる。いろいろある自転車ツアーの中で、今回は、自転車レンタル会社トロピカル・バイクスが提供する『コペンハーゲンの建築とサステナビリティツアー』に参加した。10か所以上の場所に立ち寄り、説明を聞きながら3時間過ごした(ツアーの発着点は同店)。

参加者は、家族連れ、母娘、年配の夫婦、若いカップル、私のような1人客の総勢10数名。年齢層も幅広く、関心の高さがうかがえた。自転車王国として知られるコペンハーゲンは自転車に乗る人が非常に多いが、カラフルなレンタサイクルのおかげもあり、他の参加者たちとはぐれることなくスムーズに移動できた。

港の『有名なコンテンポラリー建築』を鑑賞

最初の目的地は、コペンハーゲン中心部の港にある、デンマークの著名な哲学者のセーレン・キェルケゴールを称えた『セーレン・キェルケゴール広場』(港は海ではなく、水路に面している)。ガイドによると、この一帯は造船業の拠点だったが、世界的な競争の激化により、1997年に閉鎖に追い込まれたという。

コペンハーゲン市は、港沿いの地域を労働や貿易の場から文化やレジャーの場へと変えることを決定し、最初に建設した“文化的シンボル” が1999年完成の『ブラックダイヤモンド』と呼ばれる黒く巨大な『王立図書館の新館』。北イタリアでカット・研磨されたアフリカ南部ジンバブエ産の黒御影石は、空や水面を映し出すほどの輝きを放つ。道路の反対側にはレンガ造りの旧館があり、新館とは屋根付きの通路でつながっている。

ブラックダイヤモンドの内側は、シャープな質感の外観とは対照的に、柔らかな雰囲気だ。自然光がたっぷりと差し込み、各階の通路は波打っており、穏やかな色調でまとめられている。

ツアーではブラックダイヤモンドの外観を眺めたのみだったが、ここを訪れる場合は、旧館も含めて屋内をじっくり見学することをおすすめしたい。隠れた名所といわれる旧館の庭園も美しいので、ぜひ見てほしい。中央の池は、コペンハーゲンが海事都市だった歴史を象徴しているという。

ちなみにブラックダイヤモンドの向こう岸には、赤と白の短い橋(Cirkelbroen)が見える。同市出身で日本でも有名な芸術家、オラファー・エリアソンの設計だ。帆船をイメージしたこの橋は、サイズの異なる5つの円盤が波打つように連なっている。つい足を止めて、周囲を見渡したくなってしまう橋だ。

セーレン・キェルケゴール広場のもう1つの文化的な施設は、『ブロックス』だ。デンマーク生まれのブロック玩具レゴのように、角型の塊をずらして積み重ねてある。オランダの建築事務所が設計し、2018年に完成した。ここは、建築関連の展示や建築ガイドツアーを開催する『デンマーク建築センター(DAC)』が入居している建物として知られている。デザインショップやオフィス、フィットネスセンターやレストランもあり、上層階にはアパートがある。出入口横のプレイグラウンドには、子どもたちが集まる。

ブロックスのすぐそばには、全長約160mの歩行者・自転車専用の橋『リール・ランゲブロ(Lille Langebro)』が架かっている。これは市内で最も新しい自転車の橋だ。この橋は人々の往来を促し、ブラックダイヤモンドやブロックスのあるウォーターフロントで充実した時間を過ごせるようにしている。

『傑出の集合住居』を間近で見る

リール・ランゲブロを渡った後、珍しい建築をいくつか目にした。特に集合住宅が印象的だった。1つ目は360人が住む、コペンハーゲン大学の学生寮『ティートゲン・レジデンス・ホール』。巨大な円形で、真ん中に中庭があり、その周囲を住居の壁が囲んでいる。この構造は、中国の伝統的な集団生活の住居スタイルの土楼(どろう。一部はユネスコの世界遺産に登録されている)からインスピレーションを得たそうだ。

玄関は施錠されていたが、ガイドの案内で内側に入ることができた。芝生では寮生たちがくつろぐことができる。建物の内部も外観と同様、全体的に凹凸があり、遊び心が感じられる。建物の表面は銅合金製で、時間の経過とともに深い色合いに変化していく。共有の会議室や学習室、作業場や洗濯室などは、すべて1階にある。室内は見学できなかったが、学生たちはきっと快適に暮らしていることだろう(部屋の写真はこちら:Tietgen Dormitory | Student Housing)。この建物は数々の賞を受賞している。 

© Giuseppe Liverino and the Copenhagen Media Center

次は、かつて大豆加工(飼料製造)工場の倉庫だった2つの集合住居。歩行者・自転車専用橋『ブリッゲブローウン(Bryggebroen)』のたもとにそそり立つ。角型と円筒の建物のどちらもコンクリート製で、大規模な改修が行われた。円筒の方は同じ形の2棟が連結されているため、『ジェミニ・レジデンス』(ラテン語でふたご座の意味)と呼ばれる。

円筒の倉庫は直径25mだった。設計を手掛けたオランダの建築家ユニットは、建設技術や眺望の観点から、倉庫の内側に部屋を作るのではなく、倉庫の外側に各戸を作る構造を思いついた(計84戸)。内部は非常にモダンらしい。いつか実際に見てみたい。

ブリッゲブローウンを渡り、続けて自転車のみが通行できるオレンジ色の橋(Cykelslangen)を過ぎると現れる、細長い巨大な集合住居にも驚かされた。高さ60mと80mの棟はサボテンのようなトゲのあるファサードが特徴で、『カクタスタワーズ』という。2024年に完成したこの2棟は計495戸の賃貸アパート。コペンハーゲンで働く国外出身の若いITエンジニアたち(転居が多いデジタルノマド)向けに『マイクロリビング』というコンセプトで設計されており、各戸の広さは33~53㎡と小さめだ。

独創的な建築で世界に名を馳せる建築設計事務所、BIG(ビャルケ・インゲルス氏が設立。本社はコペンハーゲン)の設計らしく、機能と美しさを兼ね備えた、まさに大胆で巨大な彫刻だ。ギザギザの輪郭は、各階のベランダを横に回転させて生み出した。建物全体に環境に配慮した建材が使われており、ベランダはコンクリート造りに見えるが、実際はアルミパネル仕上げだという。

残念ながら内部の見学はできなかったが、各戸は木材がふんだんに使われている。賃貸料は、ワンルーム(33㎡)光熱費込みで、例えば月額約26万円(現在の為替レートで)Kaktus Towers, Copenhagenだ。

2棟は広い緑地に囲まれている。ガイドによると、カクタスタワーズが建つ一帯は、かつては工業地区だった。住民の生活の質を向上させるため、現在、緑地を中央駅まで拡張する工事が進行中とのことだ。カクタスタワーズは、2024年に高層ビル・都市居住評議会(CTBUH)から、ヨーロッパの最優秀高層ビルに選ばれた。

人気スポットへと様変わりした古い建物を訪問

近未来的な建築の次は、非常に古い建物を訪れた。90年以上前に建てられた教会だ。地元の起業家が閉鎖された教会を買い取り、改修工事を経て、2015年夏から、年中無休の『フォルケフーセ・アブサロン』というコミュニティセンターとして市民や観光客に利用されている。

ツアーでは外観を眺めたのみだったが、別の日に足を運び、中へ。色とりどりの内装が、気持ちを明るくさせる。“出会いを大切にしよう”という思いを形にした催しをたくさん行っており、特に『共同の食事』という低価格の夕食(主にベジタリアン)は人気だ。

『共同の食事』は名前の通り、大勢がホールのテーブルに集まり、一緒に食事をする。毎回150人以上が参加し、満席になることも多い(事前の予約がおすすめ)。私も『共同の食事』に参加してみた。パン、サラダ、メインディッシュのナス料理を他の参加者とシェアし、言葉を交わし、一期一会を楽しんだ。

このツアーは大満足だった。『自転車』と『建築』の両方を同時に体験することで、デンマークという国をより身近に感じることができた。


Tropical Bikes

・『コペンハーゲンの建築とサステナビリティツアー(Copenhagen  Architecture and Sustainability Tour)』は、現在の為替レートで1人約9500円。1名から参加可能。石畳を2か所ほど通り、自転車に伝わる振動がかなり強かったので、ご注意ください。トイレ休憩1回あり。

・ヘルメットの着用は任意。店内にて無料でレンタル可能。雨の場合はレインポンチョを無料で貸してくれるが、数に限りがあるため、持参すると安心。

・ツアーに参加せず、自転車をレンタルして自分で建築をめぐることも、もちろん可能。

Photos other than a press image: by Satomi Iwasawa

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/