ドイツ中部に広がるハルツ山地は、深い森や湖、そして木組みの家々が並ぶ街並みが魅力。自然豊かな環境と歴史的な文化遺産が共存し、四季折々に異なる表情を見せるこの地は、観光地としても保養地としても長く愛されてきた。

前回お届けした『ハルツ修道院巡り』に続き、今回は、道中で宿泊したリゾートホテルと美食スポットを紹介しよう。

湖畔に佇むロマンティックなリゾートホテル

ハルツ地方の中でも特別な体験を提供してくれるのが、バード・ザクサにあるホテル「ロマンティッシャー・ヴィンケル・リゾート」だ。館内の高級レストランは今年、ミシュランの星を獲得したばかり。宿泊と贅沢な食のひとときを楽しめると大きな注目を集めている。

自然豊かな湖畔に位置するホテル

バード・ザクサはハルツ地方の南端に位置する温泉保養地。自然に囲まれた穏やかなシュメルツ湖のほとりに建つこのホテルは、家族経営で40年以上の歴史を持ち、歴史的建物と現代的な快適さが調和した特別な空間を提供する。「ロマンティックな隅(角)」という名の通り、癒しを求めて滞在する客やレストランでゆったり優雅な時間を過ごしたいとリピーターも多い。

最大の魅力は、3,800㎡にも及ぶ広大なスパエリア。屋内外プール、パノラマサウナ、ハーブスチーム、氷の噴水、静かなリラクゼーションラウンジなど設備が充実し、日常の喧騒を忘れて心身ともにリフレッシュできるホテルだ。

今年ミシェラン星を獲得したばかりの「Joseph’s Fine Dining」

ホテル内のレストラン「Joseph’s Fine Dining」は今年、ミシュランの一つ星を獲得したばかり。敷居が高そうと思うかもしれないが、格式ばった印象とは裏腹に、店内には温かく親しみやすい空気が流れる。

ミシェラン星レストラン料理長(右)ラルフさんと副料理長ヨナスさんのお出迎え

料理長Ralph Hollokoi、副料理長Jonas Paul 、ソムリエSebastian Hohbein、そして実習生Moritz Wohlfahrtのチームが一体となって、ゲストに特別な時間を提供しようと努めている。ゲストと対面のふれあい、料理や食材についての対話を楽しむことは、同レストランのコンセプトの一部だという。

オープンキッチンから響く調理音、立ちのぼる香り、シェフ自らによる丁寧な説明は、すべてが五感を刺激し、美食の世界へ誘う。地域の味と食感を再現するために、手に入らない食材は、手に入るものを用い、創造力を駆使して作り出している。

旬の地元食材と国際的なスパイスを融合させた独創的なコースが特徴で、水曜は6コースの「スモール・グルメイブニング」、木曜から土曜は8コースの「ビッグ・グルメイブニング」を提供する。財布と気分に合わせて、異なる味わいを選択できるのもうれしい。

この夜いただいたのは8コースの料理。一皿ごとに物語が展開し、まるで舞台の幕が開いていくようだった。

1. スナックシンフォニー1.0

森の三重奏というアミューズが並ぶ華やかな序章。トマトのメレンゲ、西洋アサツキのクリームとキャビアが食感も風味も多彩で、次の皿への期待感を高める。

2. ワサブリーゼ

松の実をセロリと共にオリーブオイルで供したソースの上に、ローストしたワサビを効かせたサーモントラウト。爽やかな辛味が口いっぱいに広がり、清涼感を残す。

3. マイスターシュトゥック

サフラン、ゴマ、酸味を抑えた梅干しの香り、サフラン、ゴマが調和する。主役のトウモロコシをフランベ、ピューレ、てんぷら、スパイス付けなどバリエーションも豊富。

4. クリーミーな味わい
なめらかなアンズタケ入りソースが包み込むパスタの中に、この地方特産ブリーチーズが入っている。濃厚ながら軽やかで、心が和む一皿。

5. ワイルドなハルツ

イノシシ肉を味噌ソースで仕上げ、炭火で焦がした甘くてジューシーなネギがアクセント。ハルツ産イノシシの生ハムと味噌のハーモニーが後を引く美味しさ。

6. 森の歴史

地元の鹿肉を低温でじっくり火入れし、根パセリのペーストとプラムソースで彩る。深みのある旨味が印象的。

7. とろける池

とろけるようなシュメルツ湖をイメージしたデザート。ハルツ産チェリー、チョコをはじめ、クリーミーでかつサクサクするコンポーネントが絶妙。ラルフさんが一皿ごとにフル―ティなチェリーソースをトッピング。

8. スナックシンフォニー2.0

小菓子のアンサンブル。コーヒーとともに、優しい余韻を残す締めくくり。サジーのフルーツグミ、ローストしたピスタチオのキャラメル、ほのかな塩味がアクセント。

チームメンバーとの息もピッタリ ラルフさんとヨナスさん

木の実やキノコなど、ハルツの自然を感じる食材が随所に使われており、一皿ごとに「味」だけでなく「時間」を味わう構成。食事をし、会話をし、ワインを味わう4時間はあっという間に過ぎ、大きな窓から望むシュメルツ湖の景色と重なり、忘れられない美食体験となった。

特に印象的だったのは、料理の中にさりげなく登場する日本の要素。ワサビ、梅干し、みそ、ゴマなどの和食材は、今やドイツでもトレンドの一つ。これらをどう料理に反映し昇華するのか、その創意工夫に興味を持った。塩分の多いウメボシをどのように使っているのか、またワサビは粉ワサビ、チューブ型、新鮮なワサビのどれを使っているのか知りたかった。

オープンキッチンで準備を進めるラルフさん

「ウメボシは既成品が手に入りにくいため、自分でつくりました。塩分を調整して、味をマイルドにしています。ワサビは新鮮なものをすりおろしています」と、丁寧に対応してくれた。(ラルフさん)

訪問した日の8コースは150ユーロ(約2万6千円)。ワインペアリングは追加で約100ユーロ(約1万7千円)だった。気軽に立ち寄りにくい料金だが、「来月以降も予約が続々と入っています」と、ラルフさんは嬉しそうに明かした。

ちなみにワインは、アルコール入りとノンアルコール飲料が供された。おそらく自分で選ぶこともないだろう多種のワインを口にし、料理とのペアリングを満喫した。

ドイツ・アールの急斜面のピノ・ノワールから造られる白ワイン リンゴ、洋ナシ、桃、メロンなどの熟した果実のとろけるようなアロマに、繊細なライムの風味とミネラルが伴う。心地よい柔らかな酸味

アルコール入りワインは、フランス産シャンパーニュ・ロゼ、イタリア産(南チロル)白ワイン「Terlaner Cuvee Terlan, 2024」、ドイツ産アール地方白ワイン「Blanc de Noirs」、フランス産ロゼワイン「La Vie en Rose/Chateau Roubine, 2024」、イタリア産(トスカナ)赤ワイン「Il Pino Tenuta,2022」、ハンガリー産「Tokaji Aszu Oremus, 2000」。

ノンアルコールワインは、ドイツ産(エバーバッハ)「Riesling-Sekt」、ドイツ産白ワイン「Verdejo」と赤ワイン「Rouge 3」、スペイン産白ワイン「Muskat 0,0」、ドイツ産「Sparkling Juicy Tea」、ドイツ産「Prisecco Aecht Bitter」

2019年から料理長として活躍するスイス人のラルフさんは、2023年からこのグルメレストランの責任者となった。料理人としての修行を経て、イギリスとフランスでも研鑽を積んだラルフさん。オープンキッチンで、調理に集中しつつ、チームメンバーと共に、ゲストの質問に対応している姿がとても印象的だった。

ドリームチーム・左から、ヨナスさん、ラフルさん、セバスチャンさん、モリッツさん

地元民に愛される老舗カフェ「Mangold」へ

バード・ザクサから車で数分。温泉と観光で知られるバード・ラウテルベルクの中心に店を構える老舗カフェ「Mangold」を訪ねた。

1894年にコルネリアさんの両親の開業したカフェを2000年に製菓マイスターのコルネリアさんと夫フローリアン・マンゴルドさんが受け継ぎ、「2-Meister-Conditorei(二人のマイスター菓子店)」として経営中。今年で25周年を迎え、ケーキ、タルト、トリュフ、ショコラ、アイスクリーム、ジャム、バームクーヘンなど多彩なラインナップを手作りし販売している。

カフェ外観

看板商品は「ラウテルベルガー・レーム」。ナッツ、アーモンド、クロカント、レーズン、ビターチョコを練り込んだ伝統菓子で、創業当時の秘伝レシピを今も守り続けている。

コルネリア・マンゴルドさんの笑顔が客を迎え入れる

(左)フローリアンさんは工房中心で手作り品に専念 (右)看板商品「ラウテルベルガー・レーム」

ほかにも約60種類のチョコレートや40種類のトリュフ、地域をテーマにした菓子が人気だ。常連客が日常的に訪れる姿からも、このカフェが地域に愛され続けていることが伝わる。

自家製ショコラトリー「ChocoCult」やアイス好きのための“Cult-Fashion-Café”も併設し、幅広い世代に親しまれている。
また、保育園への菓子寄付、地域イベントへの協賛、太陽光発電やLED照明の導入など、社会貢献や環境配慮にも積極的に取り組んでいる。

美食と癒しが織りなす、ハルツの時間

リゾートホテルでの贅沢なスパ体験、ミシェラン星レストランでの美食、そして老舗カフェで味わう伝統菓子とコーヒー。修道院巡り、そして今回紹介したスポットを組み合わせれば、ハルツ地方ならではの自然・歴史・文化・食を一度に体験できるだろう。

名所を巡るだけでは得られない、人と食との出会い。美食と癒しをテーマにしたハルツの旅でぜひ、特別な時間を体験したい。


ホテル「ロマンティッシャー・ヴィンケル・リゾート」(Romantischer Winkel Resort/Bad Sachsa)

取材協力:Niedersachsen Tourismus  

Joseph’s Fine Dining

カフェ「マンゴルド」(Mangold/Bad Lautenberg) 

All Photos Noriko Spitznagel

シュピッツナーゲル典子 ドイツ在住 国際ジャーナリスト連盟会員 www.ifj.org
社会問題や医療、ビジネス、書籍業界などを中心テーマに紙・ウェブ媒体で取材・執筆。女性雑誌連載のドイツ人キャリアウーマンインタビュー記事では各業界のトップに出会うのを楽しみにしている。食・ワイン、その土地ならではの魅力も探訪中 。趣味は、料理・水泳・音楽鑑賞・美術館巡り。コロナ禍を機に再開したパン作り。