ブータンを訪れたのは2024年の3月。空の玄関口・パロ空港のあるパロの町は、標高2000メートルを超える高地に位置している。緯度は沖縄とほぼ同じにもかかわらず、ここは穏やかな気候だ。7月でも最高気温は30度を超えることはなく、冬にはマイナス6度近くまで冷え込む。日本と同じように四季がめぐる土地で、ちょうどこの頃は冬の名残が過ぎ去り、花が咲き始める季節だった。
この写真は、季節外れに雪化粧をまとった絶壁の寺院、タクツァン僧院だ。

ブータンの国教チベット仏教
パロ空港から首都ティンプーまでは、車で1時間ほど。その道のりの半ば、パロ川を挟んだ山の中腹にタチョラカンという寺院が姿を現す。川にかかる橋には青・白・赤・緑・黄の五色の小さな旗――経文が書かれた「ルンタ」が風にはためいている。青は天、白は風、赤は火、緑は水、そしては黄色は地を示している。寺院のそばの仏塔には祈りを込めて回すためのマニ車が並んでいた。


ブータンの寺院には、必ずといっていいほどマニ車がある。内部には経典が収められており、一度回すことで、その経文を一度読んだのと同じ功徳を得られるとされている。参拝者はマニ車を回しながら、時計回りに寺を巡っていく。そのそばに、小さな三角形の仏塔のようなものが並んでいた。これはツァツァと呼ばれるもので、遺骨を砕いて作られる。ブータンには墓に埋葬するという習慣はなく、遺体は火葬されればその遺灰は川に流されることが多いのだそうだ。子どもの場合には、山の鳥へと遺体を捧げる「鳥葬」が行われることもあるという。
立体曼荼羅を収めたナショナル・チョルテン
ティンプーの街の中心から歩いて10分ほどの場所に、ナショナル・チョルテンと呼ばれる大きな仏塔がある。現在の国王、ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュクの祖父に当たる第3代国王ジグミ・ドルジ・ワンチュクの遺志を継ぎ、第4代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュクにより1973年に建立されたものだ。敷地に足を踏み入れると、黄金色と赤に彩られた、人の背丈を超えるほどのマニ車が並んでいる。参拝者たちがそのひとつひとつを回しながら歩いていた。
仏塔の手前には、数えきれないほどのバターランプを収めた建物がある。そのそばで香木香草が焚かれ、白い煙があたり一面に漂っていた。仏塔の裏手にある講堂からは、尼僧たちの読経の声が外にまで響いていた。講堂の内部の装飾の色彩は鮮やかで、密教を感じさせる。

敷地の中央に建つチョルテンは三層構造になっており、内部には仏像や仏画で構成された立体の曼陀羅が収められている。密教の経典が、圧倒的な視覚イメージで表現されていてその緻細さと迫力に驚かされる。なお、その内部の撮影は禁じられており、その全貌は実際に足を運んだ者だけが目にできる。
グル・リンポーチェがたどり着いた断崖に建つタクツァン僧院
パロ郊外にあるタクツァン僧院を訪れた日は、季節外れの雪が降っていた。登山口から僧院まではおよそ2~3時間。途中には食事をとれる休憩所もある。道はよく整備されているものの、積もった雪で歩きにくい。休憩所から見上げると、僧院はガスに見え隠れしてまだまだ小さく遠くに見えていた。
ブータンにチベット仏教を伝えたのは、チベット仏教の4宗派のうち最も古いニンマ派の開祖であるグル・リンポチェだといわれている。虎の背に乗ってこの断崖の洞窟に飛来し、そこで瞑想を行った――そんな伝説が残っている。「タクツァン」とは「虎のねぐら」を意味し、寺の名の由来にもなっている。8世紀後半、グル・リンポチェはインド(現在のパキスタン北部一帯を含む地域)の出身で、布教のためチベットへ渡り、さらにブータンにも足を運んだとされる。ブータンでは彼は仏陀に並ぶ神聖な存在であり、その教えを広めた人物として、まさに国のヒーローなのだそうだ。
ブータンの国技「ダツェ」
さて、宿泊していたティンプーのホテルの前に横に広いフィールドがあって、地元の人たちが集まっていた。行ってみると伝統的なアーチェリー「ダツェ」の試合をしているという。リーグ表が張り出されていた。
ダツェはブータンの国技として親しまれる弓競技だ。フィールドの両側には小さな的があり、その距離は長く140メートル。選手は弓を放ち、反対側の的まで歩いて確認する。相手はそこから逆向きに矢を放って、また歩いて戻る、という段取りで試合が進む。のんびりとした競技で、朝から一日かけて、場合によっては翌日まで持ち越すこともあるそうだ。
豚肉と大根の唐辛子煮込み|ファグシャバのレシピ
ブータンには大小さまざまな唐辛子があり、調味料としてだけでなく、野菜のように料理に使われることも多い。今回紹介するのは、豚肉と大根を唐辛子で煮込むブータンの料理「ファグシャバ」だ。紹介するレシピでは辛さは控えているが、より本格的な辛さを体験したいなら、チリパウダーを一味唐辛子に変えたり、乾燥唐辛子の量を増やしてみるのもおすすめだ。

材料:
・豚肩ロース肉塊 500g 5㎜の厚さに切る
・大根 500g 1㎝の厚みに切って1/2の半月切り
・玉ねぎ(中) 1個 みじん切り
・チリパウダー 小さじ1
・塩 小さじ1
・水 400~500ml
・しょうが 小さじ1 みじん切り
・にんにく 3かけ分 みじん切り
・乾燥唐辛子 8本
・黒こしょう 小さじ1/2 粗びき
・塩 適量


大根とにんじんは上の画像のように一口の大きさに切る。
作り方:
1. 豚肉、大根、玉ねぎ、チリパウダー、塩、水を具が火たる程度入れて沸騰したら、豚肉が柔らかくなるまで中火で10分ほど煮る。

2. しょうが、にんにく、乾燥唐辛子を加えて、水分がほぼなくなるまで煮る。

3. 塩で味を整えて、黒こしょうをを振る。

下が一人分を盛り付けたもの。

ブータンでは赤米が主食だ。白米に混ぜて炊いたものを一緒に食べると、ファクシャバのピリリとした旨さで食欲が湧いてくる。

—
All Photos by Atsushi Ishiguro
—
石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/












