8月、初めてデンマークのコペンハーゲンを訪れた。最高気温は20度前後で、雨は少し降っただけ。とても過ごしやすかった。地球の温暖化を実感する昨今、夏場に涼しい北欧諸国へ旅する「クールケーション」が流行ってきているから、国外観光客が沢山いるだろうと思った。が、それほど多くはなかった。人混みもちょうどよく、旅がさらに楽しくなった。

人口約66万人のコペンハーゲン市は、日本の地方都市を思わせるゆったりした雰囲気が魅力的だ。運河クルーズ、歴史的建築、数多くの美術館や博物館、テーマパークのチボリ公園、ショッピング、サイクリングなど、2,3泊でも充実した観光ができる。

シンプルで、おいしい食事

デンマークの名物料理といえば、オープンサンドの「スモーブロー(Smørrebrød)」が真っ先に思い浮かぶ。噛み応えがある薄切りのパン(ライ麦パン)に、パンが見えなくなるほど山盛りの具が載っており、ボリューム満点。肉、魚、野菜、チーズなど、具の組み合わせは無限大。伝統的にランチとして食べられているが、私はカフェでの朝食にも、フレッシュなスモーブローを楽しんだ。

食に関してもう1つ印象的だったのは、イタリア料理店が多かったこと。いま、コペンハーゲンではイタリア料理がトレンドだという。泊まっていたホテルの近くにも、いくつもイタリアンがあった。

予約なしで入ってみた店は、今年オープンしたというモダンなトラットリア(家庭的なレストラン)。平日にもかかわらず、ほぼ満席だった。メニュー数が少なめだったので少し心配したが、料理が運ばれてきた時に、それは丁寧に作っているからだとわかった。前菜の「パンツァネッラ」というトマトとパンを使ったサラダは、クリーミーな「ブッラータ」チーズが添えられて、まるで宝石のようだった。もう少し食べたいくらいおいしかった。「ラム・パッパルデッレ」は、太くて長いパスタのパッパルデッレとラムひき肉の煮込みをあえた料理。ハーブ、レモン、ニンニクなどで作ったグリーンソース「グレモラータ」がアクセントになっていて、絶品だった。

公園近くのお洒落なストリート 「ヤースボー通り」

コペンハーゲンでどうしても訪れたい場所がいくつかあった。その1つが、ノアブロ(Nørrebro)地区にある細長い公園「スーパーキーレン」(Superkilen 2012年完成)だ。赤(地面も遊具もすべて赤)と黒(白い波線と趣向を凝らした遊具類が特徴)と緑(沢山の木々)の3つのゾーンは、住民の多文化性を象徴したデザイン。町の中にこんな珍しい公園があるなんて、なんて楽しいのだろう。

この地区を歩くと、お店も行き交う人たちも、確かに多様な文化的背景をもっていると気づく。かつては労働者階級の地区だったノアブロは、この公園を始め、オリジナルなファッションやデザインショップ、そしてストリートフードを堪能できるクールな空間として生まれ変わっている。

スーパーキーレンから徒歩15分のストリート、「ヤースボー通り」(Jægersborggade)も印象的だった。全長約300メートル強で、両側に約40軒の店が並んでいる。この通りは、昔は危険で近寄り難かったという。しかし、建物の1階部分を貸し出す市の取り組みが功を奏し、環境に配慮した店も入居するなど、いまでは、有名でファッショナブルな通りへと発展した。私が訪れた時は車はほとんど通らず、歩行者天国のようだった。

ブティック、インテリアやジュエリーの店、ガーデニング店や雑貨店、飲食店はどれも個性豊かだ。フード系のお店をいくつか紹介しよう。

ポリッジやスムージーで、ヘルシー感に満たされる

日本でも知られるようになったオーツ麦と牛乳や水で作るお粥、ポリッジは、イギリスが発祥とされていて、ヨーロッパ諸国にも広がっている。塩味も甘い味もあり、実にバラエティー豊かだ。10代の時、健康的な生活を心がけた男性がポリッジに夢中になり、その素晴らしさを沢山の人たちに伝えたいと、2011年、21歳でこのポリッジ専門店「Grød」を開いた。朝から夜まで営業していて、朝食、ランチ、ディナーと季節ごとに変わるメニューを楽しめる。アレルギーがある人は、3種類のトッピングが選べるポリッジ(オーツ麦はオーツミルクと水で煮る)がおすすめ。

私は野菜類をたっぷり取りたくて、グリーンスムージーをメインにした「グリーンボウル」を注文した。ホウレンソウ、ブロッコリー、バナナをブレンドしたグリーンスムージーに、グラノーラ(オーツ麦が主原料)、リンゴ、ブルーベリー、アーモンドバターがトッピングされ、食べきれないほどだった。この店は多店舗化していて、デンマークでのポリッジの人気がうかがえる。

リピートしたい、アフリカのストリートフード

この通りにはオープンサンドが食べられる店、イタリアンやフレンチの店もあるが、ノアブロ地区に来たので、ウガンダの屋台料理を提供する「UGood」に入ってみた。この店は、数々のストリートフード賞を受賞したウガンダ出身の男性が経営している。メニューは、祖母のレシピをアレンジしたものだという。オムレツを薄手のパンで包んだ「ロレックス」や、マトケバナナを使ったシチューが食べられる。デンマーク産オーガニックチキンが入ったロレックスは、甘みのある秘伝のソースが絶妙で、B級グルメとは思えないおいしさだった。

注文を受けてから作る、有機アイスクリーム

新鮮な材料と液体窒素を使ったオーガニックアイスクリームが食べられる「ISTID」は、ぜひ寄ってほしい店だ。カウンターにはアイスクリームの代わりにミキサーが並んでいる。材料と液体窒素を混ぜ合わせてアイスクリームを作る様子は、魔法を見ているようだった。ホームメイドのトッピングもおいしかった。

人気のカフェで、ホッとする

通りの突き当りには、コペンハーゲン屈指の人気のコーヒーショップ「The Coffee Collective」があった。市内に8店、市外に1店を構える。バリスタ世界選手権などで金賞に輝いたコーヒーのプロたちが創業・運営しているとあり、私が飲んだ1杯にもクオリティーの高さが表れていた。このヤースボー店は、2008年にオープンした1号店だ。シンプルでナチュラルな店内は、とても落ち着くことができた。もちろん、外の席で飲んでも、ゆったりした時間を過ごせる。

コーヒー豆の仕入れはフェアトレードを実践し、農家と公正な価格で取引している。気候への影響を軽減するため、2023年秋には国内で大規模な植林活動を行った。植えられた木々には実がなり、それらを焼き菓子にして販売している。

お土産におすすめのフード

コペンハーゲン初の手作りキャラメルの工房「Karamelleriet」では、様々な風味のキャラメルを売っている。箱入りや容器入りもあるし、量り売りだと好きな風味を好きなだけ袋に詰めることができる。銅鍋で直火で長時間煮込んだ色とりどりのキャラメルは、どれも甘過ぎず、深い味わいだ。お土産にぴったりだ。

通りには2軒の酒屋がある。家族経営の「Den Sidste Dråbe」では、デンマーク産のワインを使ったベルモット(ワインを主原料とした甘味果実酒)、デンマーク産の最高級リキュール、デンマーク産のノンアルコール飲料などが揃う。また、ヨーロッパ諸国産の自然派ワインを取りそろえた「Terroiristen」で、ナチュラルワインを買ってみてもいいかもしれない。

再びコペンハーゲンを訪れることがあれば、またヤースボー通りに行きたい。今回行かなかったレストランをいくつか試してみたい。 


Photos by Satomi Iwasawa 

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/