真夏のヨーロッパを旅するなら、熱波の影響を受けにくい北欧がいいかもしれない。南欧や中央ヨーロッパでは、日中の気温が40度を超える日も少なくない。その点、北欧は比較的涼しく過ごしやすい。せっかく北欧を訪れるなら、ノルウェーのフィヨルドを船で巡る旅はいかがだろう。氷河に削られ、水深1,300メートルを超えるといわれるソグネ・フィヨルドへ、オスロから出かけた。

オスロから特急で港町ベルゲンへ

ノルウェーの首都オスロから始まる一泊二日の旅。初日は正午過ぎの列車で西へ向かい、夕方には港町ベルゲンに到着して一泊。翌日はローカル列車とバスを乗り継ぎ、フィヨルドの港グドヴァンゲンで観光船に乗り換えてフロム港へ。そこから「世界で最も美しい鉄道」と称されるフロム鉄道に乗り、山岳地帯を抜けてミュルダル駅へ。さらに特急列車でオスロに戻ると深夜になるという行程だ。

オスロ駅で事前予約したすべてのチケットを受け取り、旅が始まる。特急列車はベルゲンまで7時間をかけて、ゆったりと走る。

オスロの町を抜けて間もなく、車窓には壮大な自然が広がる。真っ青な空、雪をいただく山々、それを映す静かな湖。圧倒される美しさだが、これは旅の序章にすぎない。

長旅を快適にする車内サービスも充実している。サンドウィッチやピザなどの軽食から、ミートボールやラム肉料理といった温かいメニューまで揃う。購入したチキンと野菜のラップサンドは素朴ながら丁寧に作られており、旅の腹ごしらえにちょうどいい。

夜8時近くになっても、7月の北欧はまだまだ明るい。この時期の日没は午後10時半を過ぎ、さらに長い薄暮が続く。ベルゲンは13世紀にはノルウェーの首都として栄え、その後も交易の要衝として重要な地位を保ってきた。北海の海産物が集まる漁港としても知られ、港沿いには新鮮なシーフードを楽しめる店が並ぶ。

ベルゲンからフィヨルドへ

翌朝、ベルゲンからローカル線でボス駅へ。そこからバスに乗り換え、約90分かけてグドヴァンゲンへ向かう。車窓に次々と現れる美しい景色に息をのむ。そしてこれから乗り込むフィヨルドのボートに期待が膨らむ。

グドヴァンゲンはフィヨルドを目前にした小さな港町。ここからフロムまで観光船で約1時間、絶景が続く。途中、他の観光船やカヤックを楽しむ人々とすれ違う。切り立った標高1,000メートルの断崖の途中では、山羊が草を食む姿も。

周囲は驚くほど静かで、ボートのエンジン音さえ自然の中に吸い込まれていくようだった。

世界で最も美しい鉄道 フロム鉄道に乗る

フロム港で下船すると、すぐそばに鉄道駅がある。グドヴァンゲンと比べると賑やかで、土産物屋や食堂がいくつか並ぶ。昼時、カフェテリアでソーセージを注文した。ある統計によると、ノルウェーでは年間一人あたり約120本のソーセージを食べるという。大きめのウィンナーソーセージが主流で、たっぷりのマッシュポテトとサラダと一緒に提供された。

フロムから山間部を走るフロム鉄道は勾配のあるくねくねと曲がる線路を進み、標高865mのミュルダル駅へと向かう。1時間ほどの行程の途中、ショース滝で停車してホームに出る。ここではダンサーが岩山の上で音楽に合わせてパフォーマンスを披露するというアトラクションが繰り広げられる。

ミュルダル駅に到着後、特急列車に乗り換え、約5時間でオスロへ戻る。夕食は車内でビールとホットドッグ。この日2本目のソーセージだった。

たらの干物「バカラオ」の生産と輸出

以前ポルトガルを旅した際、「バカリャウ(Bacalhau)」という塩漬け干しタラの料理に出会った。2日ほど水で戻し、コロッケやリゾットなどに使われるポルトガル伝統食材だ。植民地時代には世界各地へ広まり、マカオにも似た料理がある。

オスロ滞在中、シーフードレストランで「バカラオ(Bacalau)」を発見。店の人に聞くと、ノルウェーはバカラオの一大生産地で、ポルトガルにも輸出しているという。注文した料理は、塩抜きされてふっくら戻ったタラをジャガイモや野菜とともにトマトソースで煮込んだもので、滋味あふれる味わいだった。

その名もバカラウという料理をいただいた。すっかり塩が抜けて身はふっくらと柔らかさを取り戻ったバカラウが、ジャガイモなどの野菜と一緒にトマトソースで煮込まれている。きっちり時間をかけて戻したタラは一層の旨味を得ているようだった。

最近は日本でも手に入れることができるバカリヤウを使って、ノルウェー料理のバカラウを作ってみる。

ノルウェー風バカラウのレシピ

バカリヤウを水で戻すのに2日ほどかかる。また戻した身から骨と皮をとるという地道な作業もあるが、それはそれで楽しい。オリーブオイルでバカラウと野菜を煮込んだ料理で、サワークリームがよく合う。

材料:

・干しだら 300g 商品の指示に従って戻す。
・むらさき玉ねぎ 1個 1㎝位のざく切りにする
・トマト缶(ダイスカット) 200g 1缶
・ジャガイモ 300g 3㎝角位に切る
・新じゃがなら洗って皮つきで
・ブラックオリーブ 40g
・パプリカ 1個 1㎝位の角切りにする
・にんにく 2かけ みじん切り
・赤唐辛子 1本 みじん切り
・オリーブオイル 100ml
・塩 適量 小さじ1程度から
・イタリアンパセリ 2株
・粗びきこしょう 適量
・サワークリーム 100ml

作り方:

1. 干しだらを商品の指示に従って水に入れて戻す(2日ほどかかる)。戻ったら、皮と骨を取り、一口大に切る。

2. 鍋にオリーブオイル、にんにく、赤唐辛子を入れて中火で温め、香りが出たら弱火で1分加熱。

3. むらさき玉ねぎを加えて、弱火のまま時々かき混ぜながら表面が透明になり始めるまで炒める。(完全に柔らかくならなくてよい)。

4. 鍋にトマトとじゃがいもを加えてざっくり混ぜて、蓋をして弱火で20分くらい、時々かき混ぜながら、じゃがいもに串が通るくらい柔らかくなるまで煮る。

5. 干しだらを加えて10分煮込んだら、パプリカとブラックオリーブを加えてさらに5分煮込み、まず塩小さじ1を入れて、塩味を確認しながら必要であればさらに塩を加えて味を整える。

6. 器に盛り、イタリアンパセリを乗せて、粗びきこしょうを振り、サワークリームを添える。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/