アフリカ大陸最南端のケープ半島を旅した。現在日本からの直行便はないので、アジア、中東、ヨーロッパのいずれかの空港を経由することになる。乗り換え時間を含めると20時間以上かかる距離だ。ヨハネスブルグを経由してケープタウンに到着した。ここからケープ半島を南下してアフリカ大陸南端にある岬、喜望峰へ。その帰りミニでは海洋性の野生生物のコロニーを訪れる。そして南アメリカのソウルフードといわれる「ビルトン」と「チャカラカ」のレシピを紹介する。
ケープタウンで冷たい南風を遮るテーブルマウンテン
ケープタウンは港町。ウォーターフロントの海抜は数メートルだ。そこから南にほんの数キロメートル入ると、いきなりそり立つのが標高1086メートルのテーブルマウンテンだ。その名の通りテーブルのように頂上が広く平らに見える巨大な岩で、この岩のおかげで冷たい南風が街の中心に入って来るのを遮られるのだそうだ。南半球では北向きの窓から日が差し、冷たい風は南から吹いてくる。
1652年にオランダの東インド会社がヨーロッパとアジアを結ぶ航路のベースをこの地に設置した後、総督が住む城塞「キャッスル・オブ・グッド・ホープ」が作られた。その中庭に入ると周りの現代的な建物は視界から遮られていて、テーブルマウンテンがこちらを見下ろしていた。
1929年にはロープウェイが完成し、その後1997年には現在のものにアップグレードされて誰でもその頂上に立つことができる。頂上は決して平らではなくごつごつとした岩が続き、「テーブル」という名前の印象とは全く異なる景色だ。5月のこの日は秋の終盤で、ケープタウンの街と沖のロベン島、さらに北に伸びる海岸線が穏やかな陽の光に輝いていた。
希望峰へ、そしてペンギンとアザラシ
ケープタウンから車で3時間ほど走ると希望峰に到着する。(ちなみにアフリカ大陸最南端は喜望峰ではなく150㎞ほど離れたアガラス岬。)喜望峰が発見されたのは1488年。ポルトガルのバーソロミュー・ディアスがポルトガル王ジョアン2世に命ぜられアジアを結ぶアフリカ周回航路の発見の遠征をあきらめた帰路の途中だったそうだ。後にヴァスコ・ダ・ガマがインドまで到達したのは1498年。そういった史実は多くの人が教科書で学んだものであるが、目の当たりにすると大航海時代のロマンを感じる。
喜望峰を離れて半島の東沿岸を車で1時間ほど北上したボルダーズ・ビーチにはペンギンのコロニーがある。ここにいるのはケープ・ペンギンという種類で、目元のピンク色が愛らしい。ペンギンが生息するコロニーは、南極大陸、亜南極の島、南米大陸の南端、ニュージーランドの南島、そしてこのケープ半島といった南半球の低緯度の地域に存在する。コロニーではペンギンの生活する環境を広く保護しているのだが、地球全体に影響を与える温暖化の影響から免れることはできない。実際に生活するペンギンを目の当たりにすると、気候変動の悪影響について切実に考えさせられる。ケープ・ペンギンは国際自然保護連合の保全状況を示すレッドリストの「絶滅寸前」にカテゴライズされている。
ケープタウンに戻る直前、テーブルマウンテン国立公園を挟んだ20㎞ほど南にあるドイカー島に立ち寄る。とても小さな島で、岩場が海面から出ているといった印象だ。ここはミナミアフリカオットセイのコロニー。一見アザラシかと間違うほどの最大サイズのオットセイだ。カワウも多く飛来していて、なんだか賑やかな様子だった。気温が高い9月から4月にはシュノーケリングでアフリカオットセイと泳ぐアクティビティが人気なのだそうだ。
南アフリカ名物の干し肉「Biltong」ビルトン
ケープタウンのシー・ポイントという高級住宅街にあるマーケットに出かけた。店舗のケースに並ぶ山盛りの干し肉。ビーフ・ジャーキーのようにみえる。これは「Biltong」ビルトンという大航海時代の船に積まれていた保存食で南アフリカの特産だ。牛肉、鶏肉、ダチョウ、豚肉などを塩とスパイスを入れた酢につけておいてから乾燥させたものだ。日本でも売られているビーフ・ジャーキーと比較するとより柔らかい。また、スモーキーなジャージーに対してビルトンには酢の酸味が感じられる。含まれる脂はビルトンの方が少ないそうだ。
「Groot vet(グルートフェット)」は牛肉の中でCランクの肉を使ったもので厚い脂身の層がある。「Droëwors(ドリーワース)」はソーセージ上にしたものだ。他にマリネ液にチャツネやはちみつをプラスしたものもある。肉の味と歯ごたえを楽しみながら飲むビールはまた格別だ。
新鮮な魚介を使ったシーフード
イギリスの植民地だった時期が長かったこともあり、料理にはイギリスの影響も色濃く残っている。街ではフィッシュ・アンド・チップスをよく見かける。そして、新鮮な魚介類に恵まれたケープタウンのウォーターフロントでは、再開発された商業施設内に多くのシーフードレストランが並ぶ。
典型的なシーフード・プラッターには、白身魚のグリル、海老、イカのフリッター(「カラマリ」)、ムール貝のチャウダーなどが盛り込まれていた。サイドメニューには「チャカラカ(Chakalaka)」を選んだ。チャカラカは、タマネギやトマト、豆類、野菜をスパイスで炒め煮したもので、南アフリカの伝統料理のひとつ。
鉱山で働いていた労働者たちが、ありあわせの食材で作り始めたのがルーツだという。野菜の甘みとスパイスの辛味のバランスが絶妙で、これはサイドディッシュではなくメインでもいける味わいだ。ということで、今回はチャカラカのレシピを紹介する。
南アのソウルフード、野菜と豆の煮込み「チャカラカ」
現地ではクスクスと共に提供されていて旨かったので今回はクスクスと盛り付ける。トーストと食べることもあるそうだ。
材料:4皿分
・にんじん(大) 1本 チーズおろしなどでシュレッドしたもの
・赤と黄色のピーマン 粗みじん切り
・トマト ざく切り
・赤玉ねぎ 1/2個 粗みじん切り
・パクチー 粗みじん切り(一部取り置き)
・ひよこ豆(缶詰) 200g
・にんにく 1かけ みじん切り
・しょうが 大さじ2 みじん切り
・鷹の爪 1本 みじん切り
・ローリエ 1枚
・乾燥タイム 小さじ2
・カレー粉 小さじ2
・パプリカパウダー 小さじ1
・ターメリック 小さじ1/2
・トマトペースト 大さじ1
・リンゴ酢 大さじ1
・オリーブオイル 30ml
・水 200ml
・塩
ニンジンは粗いチーズグレーターでおろしておく。
作り方:
1. 鍋にオリーブオイルを入れて中火で温めて、弱火にして赤玉ねぎ、鷹の爪、にんにく、しょうがを入れて、玉ねぎが柔らかくなるまでゆっくり炒める。
2. ローリエ、タイム、カレー粉、パプリカパウダー、ターメリックを加えて香りが出るまでさらに炒める。
3. 人参、ピーマン、トマト、トマトペーストを入れて全体にしっとり落ち着くまで5分ほど炒める。
4. リンゴ酢と水を加え、ひよこ豆を入れてて蓋をして、極弱火にして30分ほどひよこ豆が柔らかくなるまで煮る。途中で水分が足りなくなったら、ひたひたになる程度に水を足す。
5. 蓋を開けて水分がほとんどなくなるまで煮込む。
6. 塩で味を整え、皿に盛り取り置いたパクチーを飾る。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/