南アフリカの国土面積は 122万平方キロメートルで、日本の約3.2倍。広大で多様なこの国を満喫するには、ロードトリップは外せない。ケープタウンがある西ケープ州は、少し田舎に行っても主要道路が整備されており、レンタカーで気軽に出かけることができる。本記事では、南アフリカの夏の終わりに訪問した、クライン・カルーとガーデンルートの旅のハイライトを紹介する。

クライン・カルーの星空
ケープタウンを出発し、最初の目的地はクライン・カルー。全長350キロメートル、幅40-60キロメートルの渓谷地帯だ。険しい山肌のテクスチャーと、どこまでも続く山並みの景観が異世界感を作り出す。


クライン・カルーには、バリーデール(Barrydale)、モンテギュー(Montagu)といった趣のある小さな町があるが、今回の旅では町から離れた場所にある宿「The Place」を選んだ。レディスミス(Ladismith)とリバーズデール(Riversdale)の間に位置するこの場所は、100ヘクタールの農地に点在する3棟の一棟貸し宿からなる、個人経営の宿泊施設である。筆者が滞在した「The Studio」はセルフケータリング式で、キッチンやバーベキュー台も完備。もともとはダチョウのヒナ小屋だったそうだ。もとからあった建物の素材感が活かされているが、室内は完全に改装されており清潔で快適。屋外スペースにも、ダイニングテーブル、ソファ、ハンモックなどがあり、ファームステイを満喫することができる。オーナーの特別な計らいで、冷蔵庫には地元産のラム肉が準備されていた。
何もない場所に滞在する魅力の一つが夜の星空。滞在期間中は天候に恵まれ、頭上に広がる天の川を楽しむことができた。肉眼で見たときのインパクトには及ばないが、iPhoneのカメラでも満天の星空を捉えられるほど、空全体が輝いていた。翌朝は、フィンボス(細い灌木)が広がる敷地内を散策し、夜とはまた違った美しさを味わうことができた。
果実味が溢れるジューシーなワイン
クライン・カルーから少し南に下った場所にあるリバーズデールには、「バレイア・ワインズ(Baleia Wines)」のセラーとテイスティングルームがある。ブドウ畑はそこからさらに30キロ以上離れた場所にあり、その地域では唯一のワイン畑だ。「バレイア」とはポルトガル語で鯨という意味で、ワイン畑はホエールウォッチングで有名な海岸から9キロほどの距離にある。ブドウにとってはやや厳しい寒冷な気候と、ミネラルを多く含む土壌で育ったブドウが、海の影響を感じさせる豊かな表現力のあるワインをもたらす。

たとえばソーヴィニヨン・ブランは、ミネラル感と塩気、ジューシーな旨味が感じられるバランスのとれた白ワインだ。赤ワインでは、スペインの品種であるテンプラニーリョやシラーなどを展開。バレイアの赤ワインはタンニンの渋みは少なく、フルーツにかぶりついた時に得られる新鮮さやジューシーさが特徴的だ。

ワインメーカーのGunter Schultzは、南アフリカでワイン作りを学び、オーストラリアやアメリカのソノマ・バレーなどの農園でも働いた経験を持つ。サーフィンが趣味の海好きで、土壌とブドウそのものの味わいを大切にしたワイン作りにこだわっている。テイスティングルームでは、作業の合間に居合わせた彼から直接ワインの紹介を受けた。作り手とカジュアルな会話を楽しみながらテイスティングできるのは、小規模なワイナリーならではの魅力だ。
巨大な「庭」で楽しむハイキングとワイナリー
ガーデンルートは、南アフリカの国内旅行者にも人気があるロードトリップの旅路。西ケープ州のモッセルベイ(Mossel Bay)と東ケープ州のストームズリバーを結ぶ、約200キロのルートだ。ルート上には、海岸に近いナイズナ(Knysna)、ウィルダネス(Wilderness)、プレッテンバーグ・ベイ(Plettenberg Bay)といった町があり、評価の高いレストランやカフェも少なくない。
ガーデンルートという名前は、エリア全体がまさに庭のように豊かな植物で溢れていることに由来する。複数の国立公園があり、ハイキングルートも多数。例えば、ウィルダネス近郊にあるキングフィッシャー・トレイルは、全長約4キロのループトレイルで、折り返し地点には滝がある。出発点に近いエリアは平坦に近く、散歩感覚で楽しめるハイキングルートだ。
また、プレッテンバーグ・ベイ近郊のロバーグ半島にある自然保護地区には、30分のルート、約2時間以内で回れる約4キロのルート、突き出した半島を一周する約4時間のルートがある。筆者は4キロのルートを体験。崖の縁に沿って歩き、砂丘を越えるとビーチに辿り着く。途中、波打ち際で泳ぐアザラシの姿も見ることができた。
ガーデンルートでは、自然の景観に囲まれたワイナリーで「庭」の美しさに浸ることもできる。例えばパックウッド(Packwood)は、メインの通りから少し外れた小高い場所にある。セミオープンのテイスティングルームの前方には芝生の庭が広がり、その先には山の景色が広がるという開放的な空間だ。シャンパンと同様、瓶内二次発酵で作られたキャップ・クラシックがおすすめだ。
また、プレッテンバーグ・ベイからさらに東に進んだ場所にあるブラモンでは、ワイン畑の中でテイスティングや食事を楽しむことができる。ナイズナで宿泊したゲストハウスのオーナーも一押しの空間だ。ここはソーヴィニョン・ブランを使ったキャップ・クラシックを初めて製造したワイナリーでもある。ピクニックスタイルの食事は、多彩なメニューから好みのおつまみや料理を自由に選べる形式だ。
ファーム・トゥー・テーブルの楽しみ
ストーム・リバーの近くでは、チーズ農家、フィンボスフック・チーズ(Fynboshoek Cheese)も訪問。ここでは週末限定で手作りチーズをふんだんに使用したファームスタイルのランチを提供している。フレッシュなモッツァレーラチーズを丸ごと使ったサラダや、8種類のチーズ盛り合わせなどのメニューに使われる材料は全て自家製。チーズメーカーのオーナーは、1997年からこのスタイルでランチを提供しているそうだ。

クライン・カルーや、ガーデンルートの道沿いには、多くのファームスタンド(アフリカーンス語ではパッドスタル(Padstal)という)を多く目にする。地域の食材や農産物を使った加工食品を手にいれることができる、日本の「道の駅」に似た存在だ。
また、ナイズナに近いセッジフィールド(Sedgefield)という町では毎週土曜日にワイルド・オーツ・マーケットが開催されている。野菜やフルーツに加えて、手作りチーズ、オイスター、デリミートなど、様々な地域の食材が並ぶ。地域のベーカリーなども出店していて、地元の人々にも人気がある。南アフリカの農産物の豊かさを実感できる場所だ。
自然も食文化もまるごと楽しめる、クライン・カルーとガーデンルートの旅。南アフリカが初めての人にも、何度も訪れている人にも、ぜひおすすめしたい。
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All Photos by Maki Nakata
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Maki Nakata
Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383








