タイの観光地といえば、南部のプーケット島やサムイ島、パタヤなどのビーチリゾート、そしてASEAN経済の主要都市であり、2024年に最も多くの観光客が訪れた都市であるバンコク や、その近隣の古都アユタヤが思い浮かぶ。しかし、地図を眺めてみると、タイの国土は東部や北部にも広がっており、インドシナ半島の中心部を占めていることに気づく。
タイ最北部に位置するチェンライを訪れた。かつて麻薬の製造で悪名高かった「ゴールデン・トライアングル」は、タイ、ラオス、ミャンマーの3か国がメコン川とルアック川の合流点で接する地域である 。チェンライはタイ側のその近隣の街である。
今回は、クリーンなイメージに変貌を遂げたチェンライで、特に人気のある3つの建造物(2つの寺院と1つの美術館)を訪れ、ゴールデン・トライアングルまで足を伸ばす。また、現地で出会った、ココナッツミルクを使わない豚肉のカレー「ケーン・ハン・レイ」のレシピを紹介する。
アーティストがデザインした3つの建造物
チェンライを旅するなら、訪れる際にぜひ見ておきたい3つの美しい建造物がある。まず一つ目は「ワット・ロンクン」、通称ホワイト・テンプルだ。タイを代表する芸術家の一人であるチャルムチャイ・コーシッピパットが設計し、1997年に建設が始まったが、現在も未完成のままだ。もともと彼は仏陀の肖像を現代アートの手法で描く画家として世界的に成功を収め、その後、故郷であるチェンライにこの寺院を私費で建立した。2011年にはタイのNational Artistの称号が与えられた。
青空に映える白い建物には複雑なオーナメントが施されており、表面に埋め込まれた小さな鏡のタイルがキラキラと光を反射して幻想的な美しさを放ち、この世のものとは思えないような美しさだ。内部の壁画には、ハリウッド映画や日本のアニメのキャラクターがこっそりと描かれていて面白い。金の仏堂もまた迫力がある。
次に、ブルー・テンプルとも呼ばれる「ワット・ロンスアテン」は、コーシピパットの弟子のスラーノックの設計によるもので、全体が青色で統一されている。2005年に以前存在した寺院の跡地に建設が始まり、メインの仏堂は2016年に完成した。この建物も新しくモダンなデザインで、サイケデリックなイメージが斬新だ。
最後に、「バーン・ダム・ミュージアム」、通称ブラック・ハウス。チェンライ出身で視覚芸術の人間国宝と称される芸術家アチャーン・タワン・ダッチャニーの作品や彼のコレクションが、広大な敷地内に点在するタイ北部建築様式の25を超える建物に展示されている。性的な描写を含む作品もあり、自由で興味深い。
観光開発が進むゴールデントライアングル
タイでは2000年初頭に麻薬掃討作戦が始まり、ケシ栽培は全面禁止になっている。今では川沿いにリゾートホテルが点在し、広大な茶畑を見渡すカフェも人気だ。川を見下ろす公園には仏像が建ち、穏やかな夕暮れだった。
タイ、ミャンマー、ラオスの3国が川を隔てて隣接する地域は「ゴールデン・トライアングル」として知られてる。中国では10世紀にはアヘンが薬として使用されていたが、その原材料はケシの実。19世紀半ばには、イギリスが中国にアヘンを流通させて富を得るようになり、その結果中毒者を生んだ。そのような状況から抜け出そうとしたアヘン戦争で清が負けると、更にアヘンの生産量は増えて、中毒者の数は20世紀の初頭まで増え続けたのだそうだ。
その後麻薬が規制されるようになったものの、それに反してゴールデン・トライアングルではケシの栽培が続けられ、アヘンからヘロインが精製されるようになり、同地域は世界的に悪名高い麻薬生産地となった。もともと、特にミャンマーは主要なケシ栽培国であり、今でも世界で最もアヘンが生産される地域のままなのだそうだ。
タイでは1970年代から2000年にかけて、政府主導の麻薬撲滅作戦が行われ、ケシ栽培は大幅に削減された。 現在、ゴールデン・トライアングルのタイ側では、川沿いにリゾートホテルが点在し、広大な茶畑を見渡すカフェも人気を博している。川を見下ろす公園には仏像が建てられ、訪れる人々が穏やかに過ごしていた。
ココナツを使わないのはココナツが育たなかったから
タイ料理の中でも人気が高いのがカレー。グリーンカレー、レッドカレー、イエローカレー、マッサマンカレー、プーパッポンカレーなど種類も様々だ。今回チェンライでいただいたのは「ケーン・ハン・レイ(แกงฮังเล)」という北部タイの伝統的なカレー料理。通常、タイ米を炊いたものと一緒に食べるが、小麦粉で作る小さなナン似たパンと合わせても美味しくいただける。
さてこのケーン・ハン・レイ、タイカレーでよく使われるココナッツミルクを使わない。それは北部タイの気候がココナッツの栽培に適していないためだ。代わりに、ミャンマー(旧ビルマ)やインドの影響を受けた乾燥スパイスを使用する。一般的に手に入るカレー粉に含まれるスパイスで十分だ。また、欠かせないのが独特の酸味をもつタマリンド。タマリンドは木になる実で、アジア食材店で手に入るタマリンドペーストを使う。もし手に入らなければプルーンで代用することもできる。
「ケーン・ハン・レイ(แกงฮังเล)」のレシピ
材料:4人分
・豚のバラ肉塊 500g 厚さ5㎜位に切る
・玉ねぎ 1/2個 粗みじん切り
・タイ レッドカレーペースト 大さじ2
・カレー粉 大さじ1
・タマリンドペースト 50ml なければプルーン2個を叩いたもの
・しょうが 大さじ2 みじん切り
・にんにく 大さじ1 みじん切り
・醤油 小さじ1
・砂糖 大さじ2
・ナンプラー 小さじ1
・らっきょう 4個 粗みじん切り
・パクチー 1株 葉は取り、根と茎はそぎ切り
・ジャスミンライス 適量 炊いておく
・植物油 大さじ1
・水 200ml
ジャスミンライスは軽く洗って1合に対して200mlの水で炊く。炊飯器で日本米と同じように炊いてもよい。
作り方:
1. 鍋を中火にかけて、植物油を入れて温め、にんにくを入れてしんなりするまで炒めたら、タイレッドカレーペースト、カレーパウダーを入れて、香りが出るまで炒める。
2. 1に豚肉、しょうが、にんにく、パクチーの根と茎を入れて、豚肉の表面の色が変わるまで炒めたら、タマリンドペースト、醤油、砂糖、水を入れて蓋をして弱火で20分煮る。
3. ナンプラーとらっきょうを入れて蓋をせずに弱火で10分煮込む。
4. 皿に盛り、パクチーを飾る。
タマリンドの酸っぱさが赤唐辛子ベースのカレーペーストによく合って、爽やかな辛さだ。現地ではしょうがは長く切るのだが、今回はより他の具に合い易くなるようにみじん切りにした。もっと辛いものが好みなら、カレーペーストの量を増やすといい。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/