テキサスと言えば真っ先にカウ・ボーイを思い浮かべる人も多いだろう。確かに歴史的に牧畜業が盛んだった。その後、19世紀末から20世紀初頭にかけて油田が開発され経済が発展した。最近ではシリコンバレーなどのIT系企業が、より環境の良い(住宅価格などが安く、税率も低い)テキサスに本社を移転しているのだそうだ。

今回はテキサス州の州都であるオースティンでその歴史を訪ねて、テックス・メックス(Tex-Mex:テキサス州周辺で発達した米国風のメキシコ料理)の代表格であるタコスを食べる。そして牛肉を使ったタコスのレシピを紹介する。

6つの国が治めてきたテキサス州

オースティンの目抜き通りはコングレス・アベニュー。中心部の南を流れるコロラド川から北へ、テキサス州会議事堂までまっすぐ延びる広い道だ。全米50州の州会議場の中では最大の建物で、緑が豊かな庭も美しい。

4階建ての建物の中央にあるドームの上には自由の女神像が街を見下ろしていて、ドームの壁には後にアメリカ合衆国大統領になったジョージ・W・ブッシュを含む歴代の州知事の肖像画が並ぶ。ドームの下の床には、テキサスを治めてきた6つの国の紋章が刻まれている。「シックス・フラッグス・オーバー・テキサス」と呼ばれるのはスペイン、フランス、メキシコ、テキサス、アメリカ合衆国(南北戦争以前と戦争後から現在まで)、南北戦争時のアメリカ連合国の6つだ。植民地時代の欧米2か国はともかく、一度はメキシコだったこと、その後テキサス共和国という独立国家であったという歴史は興味深い。

メキシコの影響が深い食文化

「テックス・メックス」はメキシコの影響を受けた料理で、特にテキサス州の料理を指す。テキサスはスペイン領(1690年~1821年)とメキシコ領(1821年~1836年)を合わせて約150年にわたり統治されたが、テックス・メックス料理はスペイン料理というよりメキシコ料理とアメリカ料理の融合によって生まれたものだ。

市内にはいくつもテックス・メックスの店がある。朝早くから「ブレックファスト・タコス」を提供するのが面白い。ブレックファストに使う具はいわゆるアメリカン・ブレックファスト、ベーコン、トマト、レタス、たまごなどもある。そしてランチタイムになると、本格的なタコスが楽しめる。

コングレス・アベニューを南下して、コロラド川にぶつかる直前、ザ・ライン・オースティンというホテルの1階にある「ヴェラクルズ・オール・ナチュラル」という店に入った。建物の街塀の「Remember the Ladies」と書かれたアートが目を引く。

小さめのテイクアウトのウィンドウもあるが、店の正面にはオープンなダイニングスペースがあり、中に入ると開放的な空間に心地の良い風が感じられた。カウンターにあるメニューから、店員が勧めてくれたタコスを3つと、グリーンスムージーをオーダーした。3つというのは店員が勧めてくれた一人がしっかり食べたい時の数だった。

タコスは、グリーンのチリがのる「シュリンプ・マチャ」、薄肉の豚肉を重ねて固めて焼き削ぐ「アル・パストール」、テキサスの放牧と言えば牛ということで「グリルド・ステーキ」だ。3つのチリソースが準備されている。ハラペーニョの「ヴェルデ」、小さめの赤い唐辛子アルボルを使った「ロジャ」、「モルカジェテ」はロースとトマトを使ったマイルドなもの。

どのタコスも、いかにもなスパイスが効いている。そこに好みのサルサをプラスして、自分なりの味を楽しむことができる。

サウス・コングレスのセルフ・ガイド・ツアーを歩く

タコスを食べた後、コングレス・アベニューをコロラド川の南側に渡れば、そこから先の通りはコングレス・サウス・アベニューと名を変える。このあたりは昔からの住宅地でもあり、地元のクラブなども点在するエリアだ。「プリザヴェーション・オースティン」という歴史を保護する団体が、歴史を訪ねて散歩ができる地図をいくつも公開していて、その一つ「サウス・コングレス」を頼りに歩くことにした。

全部で15のポイントを巡る。その二つ目がこの「オースティン・モーテル」だった。1930年代にオープンしたこのレトロなモーテルは今でも営業中だ。

1800年代後半以降の、歴史的な建造物が残っている。ここは1920年代から活躍しMLBの殿堂入りもした野球選手ウィリアム・ウェルス(Willie Wells)が生まれ育った家だ。

音楽を楽しむことができる歴史的なクラブもある。その一つ「Cボーイズ・ハート&ソウル(C-Boy’s Heart & Soul)」1930年代以来オースティンの音楽シーンで定番となっている。「コンチネンタル・クラブ(The Continental Club)」はオースティンの伝説的な音楽ヴェニューの一つだ。

ビーフ・ステーキのタコスのレシピ

今回紹介するレシピは、ヴェラクルズで食べたビーフ・ステーキのタコスをベースにしたもの。タコスにもステーキというのがいかにもテキサスらしい。下味をつけてから焼き、フレッシュな野菜もはさむ。サルサソースは日本の唐辛子を、ハラペーニョはピクルスになったものを使う。

サルサの材料

具の材料

材料:
・牛ステーキ肉 300g サシが入っていないもの
・パプリカ粉 小さじ1
・塩 小さじ1
・黒こしょう 小さじ1
・植物油 小さじ2
・アボカド 1個 薄切り
・紫玉ねぎ 1/2個 薄切り
・パクチー 2株 葉を取り、茎は2㎝位のそぎ切り
・粉チーズ 大さじ2
・ライム 1個 8等分の串切り
・トルティーヤ 4枚

<サルサソース>
・唐辛子 4本
・トマト缶 1/2
・にんにく 2かけ
・塩 小さじ1/2
・ハラペーニョのピクルス 8切れ
・乾燥オレガノ 小さじ1/2

1. パプリカ、塩、こしょうを合わせて、牛ステーキ肉の全体に揉みこむ。

2. フライパンを強火で温め植物油をひき、牛ステーキ肉の両面を2分ずつ焼いたら取り出し、アルミフォイルに包んで余熱で落ち着かせておく。

揉みこんだものが多少焦げる。

3. トルティーヤをトースターまたはフライパンで軽く焼いて焼き目をつける。

4. 2のステーキを、1㎝位のダイス型に切る。

5. サルサソースの材料をフードプロセッサーにかける。

6. トルティーヤに、ステーキを乗せ、アボカド、紫玉ねぎ、パクチー、粉チーズをトッピングして、ライムを絞りかけてサルサソースを添える。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/