夏のギリシャを旅した。ギリシャ神話の世界が体感できる遺跡やエーゲ海の島々のまばゆい光に包まれた景観、そして地中海性気候で育まれる山海の食材と料理。ギリシャは観光の魅力満載の国だ。今回は、アテネのちょっとワイルドなダウンタウンを歩いて、船で渡ったクレタ島の市場のそばにある地元の食堂で食べたギリシャ料理「ムサカ」、ムサカはちょっと面倒くさいが味も見栄えも最高ということで、そのレシピを紹介する。

それにしても夏のギリシャは暑い。6月だというのに日中には40度を超えるほどだった。昨年はあまりの熱波でアテネの観光スポットの目玉である神殿「アクロポリス」が一時閉鎖されることもあったほどだ。2023年には熱波のために8000件以上の山火事が発生し、アテネまで数キロまで迫ったのだとか。急激な気候変動はギリシャでも顕著なのである。観光業にとっては大きなリスクとなっている。

2023年にギリシャを訪れた観光客数は前年比で15.2%増加し3600万人以上。世界9位の人気の国だ。そして観光業はGDPの13.0%でギリシャ経済の主要産業となっている。

一方、オーバーツーリズムも新たな課題だ。特に地中海のキクラデス諸島では抗議デモが行われるほど。観光で訪れる人が増えれば、水資源に更に負担をかけることとなるというのだ。

アテネのダウンタウンは少しワイルド

アテネの観光地をバスで巡るのは効率的で楽しいが、自分の足で歩き回るのもやっぱり楽しい。ビルの壁画を飾るアートも面白い。

地下鉄を使えば市内のいたるところへアクセスできて便利だが、すりやひったくりが多く、日本人が被害を受けることが多いのだそうだ。アテネに限らないが、都会で人が多い場所では警戒感を緩めれば犯罪者のターゲットになるということだ。

人であふれる観光地と比較すると、ダウンタウンは生活感にあふれていて興味深い。そして汚れているというのも事実。歩道にはまぁまぁごみが落ちているし、ギリシャブルーと白の国旗がペイントされたゴミ回収のコンテナは溢れそうになっていた。

また、おもしろいのは小さなキオスクが多いことだ。スナックとドリンク、ちょっとしたおもちゃや生活用品などが売られていてかわいらしい。

まさに「隙さえあればグラフィティ」。街中あちこちにグラフィティが描かれていて、ポップと言えばそうなのだが、なんとなくラフな街なのだと少し緊張させられる。裏通りでもない普通の通りの歩道に、使用済みの注射器がいくつも放置されていた。

よく食べられている棒状の固いパン「クリスティニア」

街のカフェにはドーナツなどのスナックが売られているが、特に目立ったのが「クリスティニア」だ。小麦粉で作る細長く堅めの焼いたもので、イタリアのグリッシーニに似ている。表面にひまわりの種やゴマなどがくっついている。ホテルの朝食にも必ずと言っていいほど登場して、なかなか美味しい。日本ではなかなかお目にかかることがないが、これはくせになる。

さて、長寿が多いという地中海の食生活が気になる。オリーブオイルをはじめ、グリークサラダのようにたっぷりの野菜にチーズ、豊富なフルーツに穀類やナッツ。全粒を使ったパンと適量のワイン。そんなシンプルな食事が健康にいいとされている。

また、今回の旅でどうしても食べてみたかったものの一つが「ムサカ」だ。グリルしたじゃがいもとなす、牛肉とトマトと玉ねぎのミートソース、そしてホワイトソースの3つを重ねてオーブンで焼いた料理だ。オリーブオイルを使い野菜もたっぷりで、乳製品も肉からのたんぱく質も摂れる。

クレタ島の市場の傍らにある食堂でムサカを食べた。驚いたのはふっくらとした分厚いホワイトソースの層。表面は色よく焼けていて香ばしい。じゃがいもとなすはしっかりと柔らかく、ミートソースのトマトの酸味が味の全体を締めている。これが健康的かと問われれば、日本人にとってはそうでもないかもしれないが、今回はこのムサカを作ってみようと思う。

「ムサカ」レシピ:3つのパーツをれぞれを調理してから重ねて焼く

【材料】

それぞれのパーツごとにまとめた材料。今回は4人分だ。

・なす 5mm位の薄切り 2個
・じゃがいも 5㎜位の角切り 2個
・塩・胡椒 ① 小々
・オリーブオイル ① 大さじ2

・牛ひき肉 200g
・玉ねぎ(中) みじん切り 1/2個分
・オリーブオイル ② 大さじ1
・赤ワイン 50ml
・トマト ざく切り 中1個
・ローリエ 1枚
・ドライオレガノ 小さじ1
・ドライタイム 小さじ1/2
・塩 ② 2つまみ
・胡椒 ② 適量

・ホワイトソース 缶のもの 200ml
・牛乳 100ml
・たまご 1個
・塩 小々
・ピザ用チーズ 150g

じゃがいもとなすの下準備はこのようなイメージで。

【作り方】

1. フライパンにオリーブオイル①の半分(15ml、大さじ1)を入れて温めたら、なすを入れて両面がきつね色になるまで焼き、クッキングペーパーを敷いたバットなどに取り出す。

2. 同じフライパンに、残りのオリーブオイル①(30ml)を入れて温め、じゃがいもを入れて柔らかくなるまで炒めて、塩・胡椒①を振り、1と同様に取り出す。

3. 鍋にオリーブオイル②を入れて温めたら玉ねぎを入れて軽く色づくまで炒め、牛ひき肉を入れ、肉の表面に焼き色がつくまで炒める。赤ワイン、トマト、ローリエ、ドライオレガノ、ドライタイム、塩②、胡椒②を加えて、20分ほど弱火で煮込み、最後に水分が残っていれば中火でしっかり飛ばす。

4. 小鍋にホワイトソースと牛乳、ピザ用チーズを入れて弱火にかけてよく混ぜたら火からおろし10分ほど粗熱を取り、たまご、塩を入れてよく混ぜ合わせる。

5. 耐熱皿に、2のじゃがいも、1のなす、3の牛ひき肉、4のホワイトソースを順番に層になるようにして重ねて、180度に余熱したオーブンに入れて、30分から40分、表面がきつね色になるまで焼く。

焼き上がって粗熱が取れたら皿に取り分ける。使用した耐熱皿は、内容量で2000mlのもの。これで今回の材料で作るとちょうどいいサイズだった。

3つの具の層の比率はこの位がちょうどいいと思う。たまごを入れるおかげで、表面の焼き色がしっかりついて食欲をそそる。暑い夏よりは、秋から冬に作りたい料理だ。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/