アメリカ合衆国ルイジアナ州最大の都市であるニューオリンズは、メキシコ湾に近い北東側に位置し、アメリカ南部を代表する都市の一つである。そして、ミシシッピ川はニューオリンズ近郊で海にそそぐ。アメリカ第2の長さを誇るその源流は、ミネソタ州北部のイタスカ湖にある。支流や運河なども含めたミシシッピ河川システムは、現在も物流や交通の要である。
メキシコ湾からカリブ海を経由し、更に北大西洋を東に進めばアフリカ大陸に到達する。そこから黒人奴隷がアメリカ大陸にやって来るようになったのは16世紀後半から17世紀の初めのこと。奴隷制度は250年近く続いた。ニューオリンズ近郊には大規模な農場が広がり、そこで労働させられた黒人奴隷が多くいた。
19世紀後半から20世紀初頭にかけて、アフリカ系音楽やヨーロッパ音楽の融合からジャズが発展したのも、ここニューオリンズだ。多様なルーツがミックスした独特な食文化も発展してきた。今回はミシシッピ川のクルーズと食事、そして伝統的な「レッドビーンズアンドライス (Red Beans and Rice)」のレシピを紹介する。
旧市街の中心を歩いてベニエを食べる
ニューオリンズの旧市街地は「フレンチ・クォーター」と呼ばれ、歴史を感じさせる建物が立ち並んでいる。かつてフランス植民地時代に建てられた建物の多くは、1788年と1794年の大火で失われたが、その後スペイン統治時代に再建され、現在もスペイン風の建築が多く残っている。
その中心に位置するのがジャクソン・スクウェア。広場の隣には、北米で最古級の現役大聖堂であるセント・ルイス大聖堂が立ち、美しい佇まいを見せている。広場の中央には、米英戦争の英雄であり第7代大統領となったアンドリュー・ジャクソンが馬に乗った勇ましい像が据えられている。
広場を挟んで向かい側にあるのが、1862年創業の「カフェ・デュ・モンド」。この店の名物は「ベニエ」と呼ばれる四角いドーナツのような揚げ菓子だ。ベニエとはフランス語で「揚げたもの」を指し、柔らかい生地の中にたっぷりの粉砂糖がかけられている。ルイジアナは19世紀に砂糖生産が盛んだった土地でもあり、この甘いデリカシーはその歴史を象徴しているとも言える。
ジャズが生まれた街
日本でも知らない人がいないほどの名曲「この素晴らしき世界」を歌ったのが、ルイ・アームストロング(作詞・作曲はジョージ・ダグラスとジョージ・デヴィット・ワイス)。ニューオリンズの貧しい居住区に生まれ、20代の初めにはシカゴへ移ったという。彼の名前を冠した公園「ルイ・アームストロング・パーク」にはトランペットを持った彼の銅像が建っている。この公園内にあるコンゴ・スクウェアは、19世紀初頭、黒人奴隷たちが週末に集まり、音楽やダンスを行ったという歴史的に重要な場所だ。
少し歩けば「ニュー・オリンズ・ジャズ・ミュージアム」がある。ルイ・アームストロングをはじめ、この街にゆかりのあるアーティストとのエピソードと共に、初期のジャズの歴史が展示されている。
フレンチ・クォーターで一番盛り上がる通りである「バーボン・ストリート」には多くのライブハウスが並び、夜な夜なライブ演奏で盛り上がる。通りでは昼も夜も、デキシーランド・ジャズのバンドが小気味のいいリズムとホーン・セクションの厚みのあるサウンドを聴かせてくれる。
ミシシッピ川の観光ボートに乗ってみる
ミシシッピ川を3時間ほど航行する観光ボートに乗ってみた。船内にはアメリカ各地からの観光客が多く、賑やかな雰囲気だ。このボートはかつて運行されていた蒸気船の姿を模しているが、現在は石油燃料を使用している。
ボートがゆっくりと進むミシシッピ川は穏やかで、河畔には観光地として保存されているプランテーションや砂糖の精製工場、軍の施設も見られる。中には貨物ターミナルや製油所もあり、ミシシッピ川が今なお物流の要として機能していることを実感させられる。
ボートではランチまたはディナーを楽しめる。広いダイニングではジャズのコンボがクラッシックな名曲を演奏していた。古いジャズを聴きながら食事をしていると、日本人であってもどこかノスタルジックな気分になるのは不思議だ。
ここではあらかじめセットされたプレートメニューをいただいた。ジャンバラヤ、コーンブレッド、ナマズのから揚げ、レッドビーンズとチョリソーの煮物、それにパンプディングが並ぶ。いずれもシンプルで典型的な南部料理。どれも素朴でランチにはちょうどいい。特にレッドビーンズとチョリソーの煮物とライスが旨い。豆や米を使った料理は黒人奴隷たちによるアフリカからの影響を受けており、ここルイジアナの多文化的な歴史を感じさせる一品だ。
レッドビーンズとライスのレシピ
英語なら「Red Beans and Rice」と呼ばれるこの料理。この料理にはブロス(鶏がらスープなど)は使わないのだが奥深い味になる。それはチョリソー・ソーセージの旨味と、ハーブと香辛料のおかげだ。
材料:4人分
・レッドキドニービーンズ(缶詰) 300g
・チョリソー 300g 厚さ5㎜位の輪切り
・玉ねぎ 1/2個 みじん切り
・ピーマン 1個 粗みじん切り
・セロリ 20㎝ 薄切り
・にんにく 1かけ みじん切り
・ローリエ 1枚
・パセリ 大さじ1 みじん切り
・セージ 8枚 みじん切り(ドライの場合は小さじ1/4)
・ケイジャンパウダー 小さじ1
・タイム(ドライ) 小さじ1/2
・カイエンヌペッパー 小さじ1/4
・オリーブオイル 大さじ2
・ライス 適量
・水 300ml
最後まで一つの鍋で作る。ライスはバスマティ米などの長粒米がいいが、日本の米を炊いたものでもおいしい。
作り方:
1.厚手の鍋にオリーブオイルを入れて温めたら、玉ねぎ、ピーマン、セロリ、にんにくを入れて、玉ねぎが透明になるまで炒める。
2.レッドキドニービーンズと、ローリエ、パセリ(小さじ1はとっておく)、タイム、セージ、ケイジャンパウダー、カイエンヌペッパー、水300mlを入れて蓋をして沸騰させたら、弱火にして40分煮込む。
3.ソーセージを加えて蓋をして20分煮込む。
4.器にライスと共に盛り付けて取り分けておいたパセリを振る。
コールスローを合わせてみた。ピリリとした辛さが食欲をそそる。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/