今回注目するのは特定の地域や国ではなく「じゃがいも」だ。これまでに各地で食べたじゃがいもの料理を巡り、スウェーデンの「ヤンソン氏の誘惑」という料理のレシピを紹介する。

ところで、世界の国々の中で、最もじゃがいもを食べている国をご存じだろうか。

一人当たりの年間のじゃがいも消費量が160.45㎏(1,070個)、一日に3個は食べている計算になるのが東欧にある内陸国、ベラルーシでダントツだ。2位以下は、ウクライナ、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタンとやはり内陸国が続き、ようやく6位に海があるポーランドが登場。そしてまたネパール、アゼルバイジャンと、ユーラシア大陸の内陸国が続き、9位にはペルー、10位にベルギーがランクインしている。ちなみに10位のベルギーは1位のベラルーシの半分ほどの消費量(*)だ。

日本は100位で一人平均年間150個を消費してる。一方、アメリカではみんなフライドポテトやポテトチップスをいつも食べているといったイメージがあるかもしれないが意外にも51位。とはいえ日本の倍の消費量である。ざっくりまとめると、じゃがいもはユーラシア大陸の内陸国、ヨーロッパ北部の国々、そして南米でよく食べられていると言える。

南米原産のじゃがいもがヨーロッパへ

じゃがいもの原産地は南米だ。アンデス山脈に反映したインカ帝国の人々が、高地にも生育するじゃがいもの原種を見つけ、その野生種の毒を抜いて乾燥させたものを常食として、また非常食として食べ始めたのだそうだ。そして栽培が始まったのが紀元前5000年。それから長い月日を経て、スペインがインカ帝国を征服した1500年代以降にヨーロッパに伝わったのだ。

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ペルーのマチュピチュ遺跡の麓にあるマチュピチュ村でフライドポテトを食べた。ほくほくとした口当たりに、サクッとした歯ごたえがたまらない。フライドポテトにソーセージの輪切りを合わせた料理や、茹でたポテトにソースをかけたもの、マッシュしたポテトで他の具材を包み込んだ料理などが食べられている。これらの料理は近代になって食べられるようになったものだ。

スペインからフランス、ベルギーへ進みマヨネーズと出会う

スペインがヨーロッパに持ち込んだじゃがいもは、習慣や宗教の関係もあって、当初はあまり人気がなかったようだ。その後、特に飢饉の際の代用食物としても栽培されるようになり、徐々に各国に広がっていった。ちなみに第10位のベルギーでは、一人あたり年間580個を消費している。

ブリュッセルで出合った人気のフリット(フライドポテト)の店は行列が絶えなかった。この店ではマスタードやチリなどのテーストをプラスしたマヨネーズが欠かせない。

フランス北部の街リールはベルギーに近いこともあって食生活が似ており、やはりフリットが人気だ。専門店の店頭ではフライヤーで揚げたアツアツのポテトが次々と売れていく。こちらも基本付け合わせはマヨネーズ。

さて、「フレンチフライ」という名称はベルギーでは使われるがフランスでは使われない。ベルギーの店がプロモーションのために「フレンチ」と呼び始めたという説があるのだそうだ。

ゲルマン系の国々でも国民食に

ドイツと言えばビール、ビールと言えばソーセージにポテトということで、消費量が高いだろうと予想したものの、ランキングでは32位。それでも日本人の3倍近くは食べられている。ジャーマンポテトや、ケチャップにカレー粉をプラスしたソースをフライドポテトにかける「カリーヴルスト」が人気だ。

一人当たりの消費量13位のアイルランドの場合、人々は特にじゃがいもが気に入ってジャガイモばかりを主食にするようになった。しかし大好きなだけに単一の主食源となってしまい、じゃがいもが疫病で壊滅的な被害を受けた1840年代には食糧難となり、1850年代までに100万人が犠牲になったのだそうだ。

第16位のイギリスも同様だが、この国を代表する料理の一つがフィッシュアンドチップスだ。揚げた白身魚とフライドポテトに、モルトビネガーと呼ばれる麦芽酢をかけて食べる。鼻につんと来るビネガーの香りは最初は慣れないかもしれないが、油っ気のあるフライによく合う。

ポーランドからモンゴルへ?

ポーランドの古都クラクフの市場でも、もちろんじゃがいもは売られていた。ポーランドの名物じゃがいも料理と言えばじゃがいものパンケーキだ。気候によって小麦の収穫量が減ったとしてもじゃがいもがある。小麦粉のパンケーキは作れないが、ではじゃがいもで作ってみよう、ということで生まれた料理なのかもしれない。

さて、東ヨーロッパがモンゴル帝国に支配されたのは13世紀のこと。その後も中央アジアとの交易は続いた。その道を経てモンゴルにもじゃがいもは到達したのだろう。雑炊、すいとん、焼きそばなど様々な料理にじゃがいもが使われていた。

一方、イギリスの植民地だったインドやネパールにはイギリスから持ち込まれたのだそうだ。そしてヨーロッパの各国からは、移民たちがアメリカ大陸へとじゃがいもと共に渡った。そして南米ではフライドポテトも食べるようになった。というわけで、ようやく一周まわったということになる。日本へは江戸時代に、第14位のオランダ人により伝えられた。そして、肉じゃがという日本の国民食が生まれることになったわけだ。

スウェーデンの「ヤンソン氏の誘惑」のレシピ

スウェーデンのストックホルムの下町にある居酒屋で初めて本場の「ヤンソン氏の誘惑」を食べた。じゃがいもと玉ねぎとアンチョビを重ねて生クリームを入れてオーブンで焼くというシンプルな料理で、アンチョビのイワシの旨味と、塩漬した塩気が効いていてビールにもよく合う。

ちなにみこの名称はオペラ歌手の名前から来たとか、他に誰かが名付けたのだとか諸説あるが、この名前になる前から料理自体は存在していたらしい。

材料:2人分

・じゃがいも 中4個 皮をむいて、2㎜位の薄さにスライスしする。
・玉ねぎ 小1個 薄切り。
・アンチョビ 10切れ
・生クリーム 100ml
・パン粉 大さじ1
・バター 大さじ1 細かく切っておく
・イタリアンパセリ、ディルなど 適量

今回は二人分で、一人用のグラタン皿二皿分。大きめの耐熱皿で一つ作ってもいい。

作り方:

1. オーブンを200度に余熱しておく。

2. 耐熱皿にバター(分量外)を塗り、スライスしたじゃがいもの半分を敷く。

3. その上に薄切りにした玉ねぎを、さらにアンチョビを敷く。

4. 残りのじゃがいもを乗せる。

5. 上から生クリームを半量ずつ(以下同様)注ぐ。パン粉を全体に振り、バターを散らして乗せたら、アンチョビが漬かっていた液小さじ1を回しかける。

6. オーブンに入れ、最初は中段で焼く。表面が色づいてきたら下段に下げて、合計45分間焼く。

7. 仕上げにイタリアンパセリを飾る。

ホクホクに焼けてパンとも合うし、ワインやビールもいい。今回はジャガイモを薄切りにしたが、棒状にしても良い。

ジャガイモを崩しながら、アンチョビを混ぜて食べる。場所によって塩気が違うのも楽しい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/