ベトナム中部に位置するホイアンは、ユネスコ世界文化遺産に登録された旧市街の街並みで知られる観光地。15世紀から19世紀にかけて貿易港として栄えたホイアンは、中国、日本、欧州の影響が地域の文化と融合し、独特の味わいと雰囲気が漂う場所だ。9月から1月ごろまでは雨季にあたり、観光のローシーズンではあるが、筆者が訪問した10月中旬でも街は閑散とした雰囲気はなく、比較的天気にも恵まれたため、街歩きを楽しむことができた。

クリエイティブな感性を刺激する、気ままな街歩き

最寄りのダナン空港から1時間弱のドライブで到着するホイアンの旧市街は、バイクや自転車以外の車両の走行が制限されており、一部の場所は歩行者天国になっているため、のんびりと街歩きを楽しむことができる。昔ながらの建築が維持されてはいるが、ほぼ全ての建物がレストラン、ショップ、ギャラリーになっており、観光客を飽きさせない。

ホイアンはテイラーメイドの服が気軽に買えることでも知られているが、実際に多くの仕立屋が軒を連ねている。数日しか滞在しない観光客のために、即日・翌日仕上げのサービスを提供しているのも驚きだ。グーグル地図のレビューでは、評判の高い店も少なくない。時間をかけて生地のクオリティをしっかりと吟味することができれば、満足できる服が仕立てられそうな雰囲気だ。

また、服の仕立屋以外にも、レザークラフトの工房も多く見かけた。小さな店構えだが、その場でレザーのカバンや小物、ジャケットを作って販売している。ホイアンはレザージャケットが活躍しそうな気候ではないので、ほぼ観光客向けであろう。

仕立屋の数と同じぐらい、限りなく本物に見える(あるいは違法に入手した本物かもしれない)偽物のスポーツブランドの商品を扱ったようなお土産ショップが軒を連ねているが、その雑多なショップの中にベトナム人クリエイティブな感性を感じることができるお店があったりするのが面白い。

例えば、TiredCityというブランドのショップが街中に2件ある。TiredCityは、ベトナムの若手アーティストとコラボレーションしたデザイン雑貨を展開しているブランドで、2016年以降、200以上のアーティストと商品開発を行っており、ハノイでも11店舗展開しているようだ。販売しているのはアートポスター、ポストカード、Tシャツなどだが、ベトナムの伝統とモダンさが融合したようなキッチュなイラストがプリントされていて、見ているだけでも楽しい。

ベトナムの現代アートと伝統テキスタイルとの出会い

旧市街の小さな路地の一角には、アートハウスギャラリーという名の画廊がある。筆者が訪問した際はちょうどオーナーのVu Trong Anhが在廊しており、自身の絵画を制作しながら店番をしていた。ギャラリーは、ちょうどAnh氏の学生時代からのアーティスト仲間で友人でもあるĐặng Văn Tứnの作品の個展が終わったばかりで、彼の絵画を多く目にすることができた。

Tứn氏は、女性の体と花をモチーフにしたダイナミックな筆使いと繊細な色使いが特徴的な絵画を制作する。価格は1000〜2000ドルぐらい。ベトナムの物価から考えたら高価だが、特別な旅の思い出の品を求めている人にとっては割安な値段設定なのかもしれない。ホイアンは観光に来る場所なので、その場でアートを買おうという人は多くはないが、アーティストの創作活動にとってはホイアンの、のんびりとした空気が良いのだとギャラリストのAnh氏は語っていた。

そしてベトナムの豊かなテキスタイル文化を垣間見ることができるのが、Lan Nguyenと彼女のパートナーであるイギリス出身のSam Potterが手掛けるデザインブランドHARTのショップだ。2人は以前、語学学校を営んでいたが、パンデミックをきっかけにホイアンに移住し、HARTの事業を始めたそうだ。ホイアンには、ファッション雑貨に特化したKimono by HARTと、インテリア雑貨に特化したHART Upcycled Home Décorの2店舗を構えている。HARTはベトナム各地の少数民族が引き継いできた手織の布を使ったファッションやインテリア雑貨やジュエリーなどを扱っている。

インテリア雑貨を扱うHARTショップの目の前には、フランス人写真家のRéhahnが自身のプロジェクトとして何年もかけてベトナム中を周り、54の少数民族の民族衣装を取材し、収集した衣装と写真のコレクションを展示する博物館、Precious Heritage Museumがある。HARTと博物館のコレクションは直接的には関係していないが、双方を訪問することで、ベトナムの少数民族のテキスタイル文化に対する理解が深まる。

テキスタイル素材は、シルク、綿、ヘンプ(大麻)など様々で、制作工程は原材料を生産し、糸を紡ぐところから作業が始まる。多くの民族は文字文化を持たない幾何学的な記号のようなものが、コミュニケーションツールとして使われてきた。その記号がテキスタイルの文様として使われているそうだ。

ランタンが彩るホイアンの夜景と火を吹くダナンの橋

ホイアンの夜の街並みを特徴づけるのが、色とりどりのテキスタイルで作られたランタン。お店の軒先や木には多数のランタンが吊るされていて、とても可愛らしい情景だ。旧暦14日にあたる満月の日は、毎月ランタン祭りが開催される。ランタン祭りといっても、そこまで大々的なイベントが行われるわけではないが、日没ごろから21時までの間、旧市街の照明がほぼランタンだけになるというのが、メインのアトラクションだ。

ランタン祭りはリバーサイドでも楽しめるが、少し暗くなった旧市街を歩き回るというのもおすすめ。通常は、旧市街の店先は蛍光灯のような白いギラギラした明かりで埋め尽くされているので、ランタン祭りの時はぼんやりと照らされた街の景観を楽しむことができる。

一方、隣街のダナンでは、ホイアンとは違って高層ビルが立ち並んだ都会の夜景を味わうことができる。ダナン市内の中央に架かるドラゴン・ブリッジは、その名の通りドラゴンの身体が波打つように装飾されている橋。夜になると橋はライトアップされ、週末や祝日の夜9時には、ドラゴンが口から火と水を吹くという驚きのエンターテインメントが見物できる。ショーは10分程度だが、開始時間が近くなると橋の周りには人だかりができ、大晦日のような雰囲気になる。

自分の好きな休憩スポットが見つかる街

ホイアンは小さな街だが、数多くの小さなカフェ、ティールーム、バーが存在しているので、いくつかを巡って自分のお気に入りを見つけるのも楽しみの一つだ。大抵の場所にWifiが完備されており、大きめのカフェではコンセントも充実しているため、リモートワーカーにとってもありがたい。

ホイアンでのおすすめは、The Inner Hoian by ÀlaとMoments Hoi Anだ。どちらも専用の金属のドリッパーで入れるベトナム式の濃いコーヒーや、カフェラテなどのエスプレッソドリンクの他に、抹茶やココナツミルクを使ったドリンク、フレッシュジュースなどを楽しむことができる。The Inner Hoianは、細い路地を入った場所に位置した隠れ家的な存在だ。アウトドアのテラス席とクーラーが効いたスペースが両方ある。Momentsは旧市街の好立地にあるが、人の出入りが多く混雑している1階に比べて、2階は空いていることが多く、ゆっくりと作業できる穴場だ。

ダナンでのおすすめは、ミーケビーチからほど近い場所にあるLighthouse というカフェ。朝の7時半からディナータイムの夜10時半まで営業している。倉庫のように天井が高い建物の内部が、いくつかのメザニンに分かれていて、それぞれのテーブルも大きく、ゆったりと仕事できる空間だ。WiFiやコンセントも完備されているため、日中は常にリモートワーカーたちで賑わっている。メニューも、コーヒー、サイフォン式で淹れるお茶、スムージーといった多様なドリンクから、クロワッサン、サンドイッチ、パスタ、サラダ、そのほかのメインディッシュまで充実している。

ダナンは、リスボンやメキシコシティのように多様な都会のアトラクションがあるわけではないが、ビーチ好きのデジタルノマド(海外を転々とするリモートワーカー)たちにも人気があるようだ。WiFiやコンセントが完備されたカフェやワークスペースが豊富にあり、手軽な価格で利用できる宿泊施設や飲食店が充実していることもポイントが高い。

日本からダナンへは直行便が就航している。成田空港からの飛行時間は約6時間、日本との時差も2時間なので、日本在住のリモートワーカーにとっても、訪問しやすい場所だ。都市と田舎の良さが融合したような少しのんびりとした街の雰囲気が好きな人には、ぜひおすすめしたい。


All Photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383