スイスと聞いて想起するのは、例えばアニメーションの「アルプスの少女ハイジ」。アルプスの山におじいさんと住む貧しいけれど豊かな心を持った女の子の話だ。最近は家庭教師を派遣する企業がハイジをリメイクしたCMをオンエアしているので目にすることも多いだろう。
また1815年以降「永世中立国」という立場を維持していることも教科書レベルで当たり前かもしれない。もしかすると平和でいいなと誤解する人もいるかもしれないが、スイスには兵役義務もあり、その兵力は14万人。周りを隣国に囲まれた重武装している国だ。スイス国内の幹線道路を走っているとしばらく直線が続くことがあるが、そこが滑走路として使われるように作られているのだと教えられた。
一方、観光立国として150年以上前からインバウンドに積極に取り組んできた。対日本のブランディングは「ハイキング」「花」「電車」の3つ。今回は夏のアルプス、ユングフラウを登山列車で訪れ、ハイキングをしながら花を楽しむ旅を紹介する。そしてそこで出会った「アルペン マカロニ」のレシピも紹介しよう。
ユングフラウヨッホ スフィンクス展望台へ
ユングフラウ地方はスイスアルプスとして世界遺産に認定されている。そのユングフラウはユングフラウ山地の最高峰で標高4158m、アイガー3967mとメンヒ4110mを合わせた3つの峰が連なってユングフラウ三峰ともいわれている。
ユングフラウとメンヒの間の稜線部分にあるのがユングフラウヨッホと呼ばれる頂で、標高は3466m。そこにあるスフィンクス展望台から絶景を望むことができる。ここまでの標高に登るのは大変だと思われるかもしれないが、約110年前に開通したユングフラウ鉄道が、スフィンクス展望台に直結するユングフラウヨッホ駅まで乗り入れていているから、ほぼ誰でも登れるというわけだ。
ユングフラウ鉄道に乗るには、麓のグリンデルワルドまたはラウターブルンネン駅から、まずは登山鉄道ヴェンゲルンアルプ鉄道で山の中腹のクライネ シャイデック駅へ登り、そこで乗り換えることになる。2020年には、やはり麓にあるグリンデルワルド グルント駅からユングフラウ鉄道の途中駅アイガーグレッチャー駅を15分で結ぶロープウェイが開通している。
ユンフラウヨッホからは、間近にユングフラウの頂上を望むことができる。旅をしたのは7月の初めだが日中の気温は6度ほどで万年雪が残っていた。それにしても、日本でいえば大正時代に、登山列車でここまで到達できるインフラを整えたとは驚きだ。
分水嶺でもあるユングフラウヨッホから南東に流れるアレッチ氷河は地中海への流れる源で、その氷の厚さは900m。北西側はグリンデルワルドの街だ。ユングフラウに背を向ければ、メンヒの頂を望む。繰り返しになるが、よくもこんなすごいものを作り上げたものだと思わされる。
アイガー グレッチャー駅からクライネ シャイデック駅までを歩く
ユングフラウ駅から一駅乗って、アイガー クレッチャー駅で降りた。ここから更にもう一つ下のクライネ シャイデック駅までのハイキングを楽しむ。
案内板にあるように、たくさんのハイキングのルートが整備されており、ここが各方面への出発地点になっている。
さて、この駅名であるアイガーグレッチャーはアイガーを源としてメンヒとの間を流れ落ちる氷河のことだ。見上げてみればその荒々しい姿が目の前に迫る。一方麓の方を見れば色とりどりの花々と緑に覆われた穏やかな風景で赤い登山列車がのんびり走る。自然の厳しさと穏やかな美しさは、この世のものとは思えないほどのコントラストだった。
冬になれば雪に覆われる土地に春が来て雪が解けて、花が咲き乱れる草原になる。ユングフラウ鉄道がゆっくりと山を登り、また降りてくる。遠くの山を歩く人たちの姿が見える。鳥が悠々と空を飛んで行った。しばらく歩くと山の姿を映す貯水池の向こうに、クライネ シャイデックの駅が見えてきた。
山で食べる「アルペン マカロニ」の由来
クライネ シャイデックのレストランで昼食にした。「アルペン マカロニ」をいただく。
古くからスイスでよく食べられているものはチーズとパン。チーズには700種類、パンには200種類以上と言ったバリエーションがある。その両方を合わせた料理と言えばチーズフォンデュやラクレットが有名だ。また、干し肉やソーセージも食べてきたのだそうだ。
そこにマカロニである。
スイスは山岳地帯にあるものの、古くから交通の要衝だった。南側はイタリアと国境を接している。第2次世界大戦後、イタリアのインフラ整備のために数十万人のイタリア人がやってきたのだという。今でも移民の中ではイタリア人が最も多い。当時の労働者たちはイタリアから持参したマカロニと、スイスのチーズと合わせた料理を作り始め、それがアルペン マカロニと呼ばれるようになったのだそうだ。
茹でたマカロニに、溶かしたチェダーチーズを使ったソースを合わせるだけどいうシンプルな料理だが、体を使う労働者にはエネルギー源としても、また安価ということもあって適していたのだろう。
マカロニとチーズを合わせた料理は、15世紀のイギリスにはすでにあったようだが、イタリアではあまり食べられてはいなかったようだ。現在では主にアメリカやイギリスで、インスタントのパッケージ(マカロニと粉末のソース)、冷凍食品などでも売られていて一般的によく食べられている。一方、アルペンマカロニは20世紀になってから食べられるようになったものだから、アルペンマカロニはイギリス発祥のものだとは言えず、やはりイタリア人労働者が生み出したものだと言えるのではないだろうか。
クライネ シャイデック駅から、緑と黄色の車体のヴェンゲルンアルプ鉄道に乗り、宿泊していたグリンデルワルドに戻った。ターミナルの駅からメインストリートが伸び、レストランやショップ、古くからのホテルも立ち並ぶアルペンリゾートの街で、観光客でにぎわっている。
ホテルのバルコニーからは、目の前にそびえたつアイガーがこちらに倒れこんでくるのではないかという迫力絶景が一望できた。
ジャガイモ入りのマカロニチーズ「アルペン マカロニ」
アメリカやイギリスのマカロニ チーズと異なり、アルペン マカロニにはじゃがいもを入れる。それなら確かにマカロニだけよりも腹持ちがよくなりそうだ。チーズはチェダー、できれば味に深みのある熟成したシャープチェダーがいいが、一般的なものでも構わない。
材料:
・じゃがいも(メイクイーン種) 500g 皮をむき2㎝角に切る
・マカロニ 200g
・シャープチェダーチーズ 200g おろしておく
・バター 20g
・玉ねぎ 200g 1個
・にんにく 1かけ
・牛乳 大さじ3
・生クリーム 大さじ3
・塩 小さじ1/2
1.じゃがいもは皮をむき、1.5㎝角に切る。チェダーチーズはおろしておく。
2.鍋に水を沸騰させ、じゃがいもとマカロニを入れて、マカロニのパッケージに記載されたゆで時間通りに茹でてざるに上げる。水けをきり、鍋に戻してシャープチェダーチーズを振りかけて混ぜる。
3.フライパンを中火にかけてバターを溶かし、にんにくと玉ねぎを入れて茶色に色づくまでゆっくり炒め、2の鍋に入れておく。
4.同じフライパンにそのまま、牛乳と生クリーム、塩を入れて沸騰させる。
5.鍋に4を入れてよく混ぜる。
簡単で素朴な料理だがなかなかイケる。遠い昔の出来事を思いつつ食べるのはまた楽しい。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/