夏の北海道には、日本の他の地域にはない旨いものがある。広大な大地が育む農産物なら、札幌の大通公園に出る屋台でも名をはせるトウモロコシ、美唄では最近になって始まった夏採りアスパラガスが春の物とは異なる色と食感で認知されてきた。メロンなら、富良野、夕張、共和といった産地でそれぞれの特徴があるものをいただける。さらに海産物なら函館近海で獲れるスルメイカ、それに根室の花咲ガニは夏が旬。北海島海老は6月から始まる1か月間が夏の漁期だそうだ。また、夏に甘みが増すホタテは猿払村が日本一の漁獲量を誇る。

今回の旅は「利尻島と礼文島」。北海道の北の果て稚内の西の沖に並ぶ兄弟のような二つの島に、旨いウニがある。夏に漁がおこなわれるウニは、まさに旬。二つの島出会った旨いものと、「海産物の酢の物」のレシピを紹介したいと思う。

利尻島と礼文島のウニはなぜ旨いのか!

利尻島の真ん中には標高1,721メートルの利尻富士がそびえる。島のどこからでも見ることができるが雲に隠れている日が多く、数日間の滞在の間に一度も姿を現さないということも多いそうだ。

島の周囲は60キロメートルほど。サイクリングロードが整備されていて、自転車で回ることもできる。稚内からのフェリーが到着する鴛泊港は島の北にあるが、そこから時計回りに南下して5時の位置辺りにあるのが利尻島で一番大きな湖沼、「オタトマリ沼」だ。ここは利尻富士が湖面に写る逆さ利尻富士が見れることでも人気だが、訪れた日は雲の中だった。仕方なく湖畔の食堂に入ると、ウニ丼があった。

今年はウニが不漁で、街の食堂にメニューはあってもウニがないという日がままあるのだそうだ。「あった」ということでいただいてみる。最初の一口で、これは東京で食べたウニとも、他の地域で食べたものと比べても格段に旨味が凄い。

礼文島では、フェリーふ頭にある食堂でウニ丼に遭遇して、ここでもまたいただいた。やはり他のどの地域で食べるものよりも格段に旨い。

海沿いの通りを歩いていると、小さな船で昆布を獲る漁師がいた。少し沖を見てみると、数席の小舟が浮かんでいる。浜には砂利を敷き詰めた昆布を干す場所があり、黒々とした昆布が並んでいる。昆布は朝から夕方までの数時間干すそうで、その後成形されて商品として束ねられるのだそうだ。夕方になって干場でまとめられた昆布の表面は白さを帯びていた。

利尻と礼文は「利尻昆布」の産地だ。ずばり、この地のウニが旨いのは利尻昆布を食べているからなのだ。かつて利尻昆布は北前船によって日本海側を進み、京都の出汁文化の後ろ盾となってきた。ウニは雑食性で、主にコンブ・ワカメ・カジメなどの海藻類を食べて育つ。ウニが最高級昆布と言われる利尻昆布を食べて育つのだから旨いに決まっているのである。

ところが、今年(2024年)の昆布生産量は金額で2割減になると予測されている。海水温の上昇と担い手不足によるものだそうだ。どうかウニのためにも、昆布が豊富な北の海を維持してもらいたい。

島の旨いもの、名物料理の数々

礼文島で旨いと評判なのが「ほっけのちゃんちゃん焼き」。ちゃんちゃん焼きといえば、鉄板で作る、鮭と野菜を味噌味で焼いたものが思い浮かぶが、ほっけの場合は網の上にほっけを並べ、そこにねぎが入った味噌を乗せて焼き始めた。ほっけの皮の上で焼けた身を崩して、乗せておいた味噌をあえて食べる。身を食べ終わる頃には皮がちょうどパリパリになって、また旨い。

ほっけは鮮度の足が速い魚で、例えば東京などでは生のものはめったにお目にかかることがない。干物で食べるものとはちがって、新鮮なほっけは細かな繊維がほろほろと崩れ、口に入れればふわっとした食感。あっさりとした味は上品ともいえるほどだ。

礼文では「糠ほっけ」もいただいた。生のほっけの内臓と頭を取り糠漬けにして、寒風に干して作るのだそうだ。いただいたものはさらに燻製にしたもので、皮を取った身を切っていただく。ほっけ独特の香りが燻製されてさらに旨さが増えているようだ。

その他に、利尻では新鮮なホタテの貝柱、ヒモ、キモも入った酢の物をいただいた。「この辺りでは夏は、海のものを酢のものでさっぱり食べるんです」と地元の人が教えてくれた。

「ギスコの醤油漬け」は北海道の珍味の一つ。地元ではスーパーでも売られている。ギス(ツマグロカジカ)という魚は日本近海の深海に生息しているのだそうだ。醤油漬けのギスコは、粒立ちがしっかりしていてプチプチとカズノコのようだが、粒がほぐれている。これが地元の日本酒によく合う。

スケトウダラの新鮮な白子を使った練り物が「たちかま」。白子の鮮度がいいうちに作らなければならないということで、北海道ならではだ。スライスして刺身にしたり、焼いたり、また酢の物にもする。クリーミーな食感が何とも言えない。

夏の利尻・礼文で楽しむ登山、トレッキング、ハイキング

海に浮かんだように見える利尻富士。海抜0メートルから登り始める1,700メートルを超える登山は本格的な装備が必要だ。礼文島は島全体が海岸線からすぐにせり上がった地形で、礼文岳へのトレッキングや、いくつかのハイキングのコースが整備されている。特に夏は利尻島の固有種も含めて、多くの高山植物の花々が咲き誇る。「花の浮島」と呼ばれている。

礼文島に滞在中に歩いたハイキングコースの一つが4時間を要すると案内されている「岬めぐりコース」だ。3つの岬を巡るが、登っては降り、また登りといった高低差に疲れはするが気分がいい。

旨いものを食べて自然の中で体を動かす。こんなに気持ちがいいことはない。

すっきりといただく海鮮の酢の物のレシピ

タコの酢の物なら日本全国でおなじみだが、今回はホタテも。そして北の名物、練りものの「たちかま」は手に入りにくいので、すり身団子も一緒に酢の物にしてみる。きゅうりとわかめは定番の具材。すべてを一つに盛ってちょっと贅沢に。

酢の物の汁は塩味を控えて、そのまま飲んでしまってもいいくらいにした。

具は、ホタテの貝柱、茹でダコ、それにすり身団子をメインに、胡瓜にわかめも。柑橘は冬なら柚子だがレモンを用意した。

材料:2人分

・鰹出汁(冷えたもの) 100ml
・酢 70ml
・みりん 50ml
・薄口醤油 大さじ1
・濃口醤油 小さじ1
・塩 小さじ1/2
・レモン 1/4個
・帆立の貝柱(刺身用) 2個分
・茹でた蛸(刺身用) 50
・すり身団子 2個から4個(大きさによる)
・胡瓜 1/2本
・わかめ 40g
・塩 小さじ1/2

作り方:

1. 鰹出汁、酢、みりん、淡口醤油、濃い口しょうゆ、塩小さじ1/2を混ぜて冷蔵庫で冷やしておく。

2. 胡瓜は薄切りにしてボールに入れて、塩小さじ1/2をまぶして揉み、水で洗って絞る。

3. 帆立の貝柱は3から4切れに、蛸も同じくらいの厚さに切る。

4. すり身団子、わかめは食べやすい大きさに切る。

5. 食べる直前に、二つの器に分けて具を入れて、それぞれ1の半量を入れてレモンを添える。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/