中国共産党が、国内5か所に経済特区を設けて対外開放を始めるため、「改革開放」政策を採択したのは1978年のこと。深圳(広東省)、珠海(広東省)、汕頭(広東省)、廈門(福建省)、そして海南省が経済特区として指定された。1990年代には資本主義経済への転換のスピードが加速して、2001年には世界貿易機関(WTO)に加盟。北京オリンピックが開催されたのは2008年のことだった。2010年に日本を抜いて世界第2位の経済大国となって以降、その地位を維持している。
景観保護地区として受け継がれる胡同の街並み
歴史ある中国の都、北京の旧城内の中心には、かつて皇帝が暮らし政治を司った故宮(紫禁城)があり、その周りには「胡同」と呼ばれる伝統的な路地が広がっている。20世紀末には経済発展に伴い胡同は開発の危機に瀕していたが、2008年のオリンピックを契機に、景観保全や文化遺産の保護に注力する動きが強まった。胡同にある「四合院」と呼ばれる古くからの住宅は近代的な設備を整えた住居としてリノベーションされ、商業施設等としても再利用されている。
実際に北京の中心部を歩くと、胡同の伝統的な街並みは意外なほど残っていて、人々が生活を続けている。写真のように、胡同の中にはリノベーション途中のものもあった。
人の住むところには「食」あり。中国東北部に位置する北京で、地元の料理を食べ歩いた。
中国北部の食は小麦料理にあり
国土面積が広い中国。北部では小麦が主食とされ、麺類やパン(饅頭)が多く消費されている。一方、南部は米が主食だ。中国の四大料理は「北京料理(華北料理)」、「四川料理(川菜)」、「上海料理(蘇菜)」、「広東料理(粤菜)」で、北京料理と四川料理は小麦が多く使われる。上海料理と広東料理には近海で獲れる海産物が多く使われる一方、北京料理と四川料理は肉料理中心だ。ざっくり言うと「北京料理は小麦を多用する肉料理中心」ということになる。日本では特に北京ダックが有名。小麦を使った麺や餃子も多く、濃い味付けが特徴だ。歴代の王朝の首都だったこともあり、宮廷料理の影響を受けて豪華で手間のかかる料理も多く、多国籍の影響も見られる。
小麦の麺を使う麺料理
北京の旧城内は、歴史的な建造物以外に高い建物は少ない。北京でも日本にあるようなコンビニエンスストアも増えてきてはいるが、特に旧城内の胡同には地元の小さな商店「便利市場」が多く点在していて、早朝から深夜まで営業している。そして食堂は胡同の周りのあちこちにある。宿泊したホテルのそばにある刀削麺の店に入った。ここでいただいたのは「牛肉麺」。あっさりとしたしょうゆベースのスープに、うどんに似た小麦粉の麺がたっぷりで、煮込まれた牛肉とねぎが乗っている。刀削麺は小麦粉を練った高まりを肩の上に乗せて、それを刀のような刃物で削って湯の中に入れて作るのが昔からのやり方だが、この店の厨房では機械が麺を削っていた。
刀削麺を使った牛肉麺は市内あちこちの店で見られるが、同様にどこにでもあるのが「炸醤麺」、ジャージャン麵だ。使う麺は包丁で切った「切麺」で、こちらは汁なし。豚のひき肉を黄醤(中国の味噌で八丁味噌に似ている)や甜面醤を使って炒めた肉みそ、きゅうりやもやしなどの野菜が乗る。それをぐるぐると混ぜて食べる。昔ながらのシンプルな炸醤麺以外にも、例えば13種の具を使ったものなどもあり、若い人たちを中心に人気があるようだ。盛岡の「じゃじゃ麺」、韓国の「チャジャンミョン」は中国から渡った炸醤麺が独自に進化したものだ。
朝食に定番の「煎餅」にランチには「水餃子」、そして「包子」
朝食によく食べられているという「煎餅果子」は見た目はクレープのようで、卵を入れた小麦の生地を薄く焼き、みそだれを塗り、キャベツやレタス、ソーセージを乗せて包んだものだ。ハンディで手軽に食べることができてボリュームもたっぷりだ。
旨いと評判の水餃子の店に、ちょうど昼食時に入った。中心から少し離れたオフィスも多い地域のこの店は近隣で働く人たちで一杯だった。豚肉とえびが入ったものを6つ頼む。この店では6個単位で頼めるようだが、目の前の瘦せ型のサラリーマンが一人で18個をぺろりと平らげていて驚いた。
「牛街」というイスラム教徒が多い地域に出かけると、西域の食も楽しめる。「吐魯番餐丁」という店ではその名の通りウィグル系の食が楽しめる。早朝から朝食を提供していてそのメニューも面白い。温めた豆乳「豆漿」に羊肉を使った「肉包子」を選んだ。北京では羊を使った料理も多く、串に刺して焼いたものも人気だ。
肉入りのお焼きのような「門釘肉餅」
もう一つ、あちこちで見かけたのが「門釘肉餅」を売る店だ。日本のお焼きのような形状で、餃子のような小麦粉の皮で牛肉とねぎの餡が包まれている。肉汁がたっぷりでボリュームがある。日本ではお目にかかることがなかったが、北京ではよく食べられているようだ。門の金具に形が似ていることから「門釘」という名になったのだという。今回はこの料理のレシピを紹介する。
北京の肉おやき!「門釘肉餅」のレシピ
門釘肉餅の大きさはちょうど日本のお焼きほどで、皮は小麦粉。形は円柱型に整えて、フライパンで香ばしく焼く。
餡には水分のある調味料を含ませているので、肉汁が旨い。
材料:直径8㎝位のもの6個分
・牛ひき肉 130g
・ねぎみじん切り 60g
・しょうがみじん切り 10g
・ごま油 小さじ1
・花椒(ホワジャオ) 3g
・熱湯 60ml
・五香粉 小さじ1/2
・十三香(手に入れば) 小さじ1/2
・醤油 小さじ2
・紹興酒 大さじ1/2
・塩 小さじ1/4
・オイスターソース 大さじ1
・植物油 小さじ1
・小さじ2
・大さじ1
・薄力粉 50g
・強力粉 50g
・ぬるま湯
「五香粉(ウーシャンフェン)」は日本のスーパーなどでも手に入るが、「十三香」は中華食材専門店で売られている。今回入手したものには、八角、ウイキョウ(英語名「フェンネル」)、山椒、ガランガル(しょうがに似ている)、オレンジピール、黒コショウ、ナツメグ、シナモン、しょうが、甘草(漢方に使われる生薬)、クローブ、ビャクシ(ししうどの根)、シャジン(根が朝鮮人参に似ている生薬)が配合されている。メーカーによって配合は異なるらしい。この十三香、少量使用するだけでいかにも中華料理と言った仕上がりになるので、中華料理を作ることがあればぜひプラスしてみてほしい。
作り方:餡と皮を作り、包んで焼く
1. ボールに薄力粉と強力粉を入れる。ぬるま湯を入れながら最初は箸で混ぜてから手で混ぜ、まとまってきたら植物油小さじ1を加えて更によく捏ねる。丸くまとめてラップをかけ、室温で30分寝かせる。
2. 小さな耐熱容器に、熱湯60mlと花椒を入れて冷めるまでおいて「花椒水」を作る。
3. 別のボールに牛ひき肉、ごま油を入れて全体に含ませるように混ぜたら、2の花椒水を入れ粘りが出るまで混ぜる。五香粉、十三香、おろししょうが、醤油、紹興酒、塩、オイスターソースを入れて更に練り、最後に植物油小さじ2を入れてよく混ぜ、冷蔵庫に入れて3時間冷やす。
4. 粉を振った台に1を出して、長く伸ばして2つに切り、更に3つに分ける。それぞれを丸めて、上から押して直径5㎝にして並べ、濡れ布巾をかけて10分休ませる。
5. 3にねぎのみじん切りを入れて混ぜておき、4の皮を直径10㎝伸ばして手に乗せ、餡の1/6量を乗せたら、皮のはしをつまみながら閉じる。
6. フライパンを温めて、植物油大さじ1を入れたら、6を入れて中火で8分焼き、ひっくり返して2分焼いたら、水を入れてふたをして更に6分焼く。
しっかり目に味をつけているが、好みで醤油、チリソースなどをつけてもいい。
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All Photos by Atsushi Ishiguro
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石黒アツシ
20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/