アドリア海は地中海にある海域の一つ。地図を見れば、地中海は西のジブラルタル海峡で外海の大西洋と接していて、東側はスエズ運河から紅海を経由してインド洋につながっている。巨大な内海だ。その北側沿岸はヨーロッパ、東は中東、南はアフリカの国と地域が海岸線に並ぶ。

地中海には海域がいくつかあって、例えば、ジブラルタル海峡の手前の部分はアルボラン海、トルコの南岸からギリシャ沿岸のエーゲ海。地中海に突き出たイタリア半島の東側はティレニア海で、東側のバルカン半島と共に囲んでいるのがアドリア海だ。今回は、バルカン半島にあるクロアチアのアドリア海に面した港街を歩いて、地元の漁師料理の一つ「ブロデット」を作る。

クロアチア屈指のリゾート、オパティア

海が入り込んでいるアドリア海の奥、つまりクロアチアの中では西に位置するオパティア(Opatija)は古くからのリゾート地。1900年前後に建設された古いホテルはリノベーションされて、今でも稼働している。その一つ「Hotel Opatija」に宿泊した。1888年に創業し、当時の建物がそのまま使われている全200室の大型ホテルで、カンファレンスなどにも使用されるのだそうだ。いかにもヨーロッパの古いホテルという外観とインテリアがノスタルジックだ。1943年から1991年まで存在した共産主義国家であるユーゴスラビアの一部だったクロアチアで50年近くも生き延びてきたことを思えば、感慨もひとしおだ。

ビーチにはパラソルが並び、遊具のある公園もある。よく晴れた日の夕方の海は穏やかで美しい。

ザダル|城壁に囲まれた要衝の夕日

オパティアから200㎞ほど南へ下ると、クロアチアで最も古くから人が住んでいた港町「ザダル(Zadar)」がある。歴史的にはフランク王国やローマ帝国、その後はヴェネツィア共和国に占領され、19世紀にはイタリア王国、オーストリア帝国、そしてユーゴスラビアの領土になり、一時はイタリア王国に譲渡されたもののまたユーゴスラビアに戻り、1991年のクロアチア独立戦争で現在の状態に落ち着いた、とざっと書いても、なんとも隣国に翻弄され続けた歴史だったのだ。

旧市街は城壁に囲まれている。16世紀から17世紀にかけてヴェネツィア共和国領内の各地に作られた防衛施設で、それらは世界遺産に指定されている。なるほど古くから地勢的に魅力的な場所であったのだと実感させられる。

アドリア海で一番美しいと言われる夕陽を見る人たちが港に並んでいた。広々と広がる地中海を眺めてから旧市街に戻ると、歴史ある教会がいくつも建ち、そのすぐそばに生活が感じられる少し雑然としたアパートがあった。

シベニク|路地裏探索が楽しい

ザダルから50㎞南下した場所にあるのがシベニク(Šibenik)。アドリア海のほぼ中央に位置している。古い建物が、網の目のようにめぐらされた路地裏を作って、急に開けた場所に出れば教会や寺院を見上げることになる。

ヴェネツィア共和国が経済においてその全盛期を迎えたのが14世紀。アドリア海の一番奥にあるヴェネツィアから、アドリア海を経て、東地中海、さらに黒海まで商業で進出していた。だからアドリア海の沿岸には、商業都市である港町が点在する。

洗濯物が風に揺れる小さな広場には、ザダルに生まれてシベニクに没した、15世紀のヴェネツィアを代表する彫刻家であり建築家のJurai Dalmatinacの像が建っていた。

スプリト|ローマ時代の宮殿と中世の街並み

ローマ帝国のディオクレティアヌス帝が退位して4世紀の初めに移り住んだのがスプリト(Split)だったそうだ。そこに作られたディオクレティアヌス宮殿が荘厳かつ雑多で面白い。この宮殿には数千もの人たちが住み、今でも200以上の建築物が残っている。

宮殿を囲む壁の高さを見れば、やはりこの街が重要であり、人々が争ったことを実感する。同時にバルカン半島全体では今でも紛争が存在することも事実だと思い起こされる。しかし、そんなことも忘れてしまうほど、夏には乾燥し冬には湿潤となる地中海性気候はとにかく穏やかな気候だ。そして比較的穏やかな内海での交易、海の恵みにオリーブなどの豊かな農産物と、豊かな土地柄は誰にも魅力的なのだろう。

数種類の魚をトマトベースで仕上げる「ブロデット」のレシピ

クロアチアのドゥブロヴニクもアドリア海の要塞都市の一つ。以前、*ドゥブロヴニクの記事で魚料理の「ブロデット」について書いたが、今回はそのレシピをご紹介したい。

*アドリア海の真珠、クロアチア・ドゥブロヴニクで味わう魚料理と紫のステーキ

ブロデッドは複数の魚をトマトベースで煮込んだ料理。異なる魚から出る旨味がトマトの旨味と相まって何とも言えない深い味わいになる。付け合わせにするのはトウモロコシ粉を使ったポレンタやバゲットも合う。

材料(2人分)

・オリーブオイル 25㏄
・玉ねぎみじん切り 中1個分(180g)
・魚(3から4種の切り身) 500g
・ニンニクみじん切り 2かけ分
・トマトピューレ 200ml
・パセリみじん切り 1束分
・ローリエ 1枚
・白ワイン 50㏄
・白ワインビネガー 大さじ1
・塩・コショウ 適量

今回実際に使ったのは、ブリ、金目鯛、タラとイサキ。見た目の違う魚のほうが面白いと思う。

作り方:

1. 魚を大きめに切っておく。

2. 大きめの鍋にオリーブオイルを入れて中火で温め、玉ねぎを入れて色が透明になるまで炒める。

3. 玉ねぎの上に魚を並べ、蓋をして2分ほど弱火で加熱する。

4. ニンニクのみじん切り、パセリのみじん切り、トマトピューレ―、ローリエ、白ワイン、白ワインビネガーを入れたら、魚がひたひたになるまで水を加えて、弱火で1時間煮込む。

5. 時々鍋を揺らして全体をなじませる。(かき混ぜないこと)

皿に盛り、好みの付け合わせを。海の恵みが深く感じられて地中海が思われる一皿になった。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/