ルーマニアの首都ブカレストを訪れたのは2019年の7月だった。スカッと晴れた空は気持ちよく、湿度は低く過ごしやすい。夏の盛りでも25度に届く日は少なく、冬も氷点下数度。東京と比べると一年を通して5度ほど気温が低いといった印象だ。

冒頭の写真はブカレストの中心にある「革命広場」で、背景は旧共産党本部の建物だ。そしてその前に建つのは1989年の革命の犠牲者慰霊投で、血が滴るような赤いペイントが何とも言えない激しさを感じさせる。今回は、ブカレストの街を歩いて、様々な時代の用途も異なる建物を眺めてみる。そして市場の食堂で食べたルーマニアならではの肉料理「ミティティ」のレシピを紹介する。

東欧のパリ|19世紀以降の建物

革命広場から北へ100mほどにある、窓がついた大きなドームを乗せた建物が「アテネ音楽堂」だ。
フランスの建築家アルベール・ガルロンの設計で完成したのは1897年。それ以前の1888年に音楽堂としてはオープンしたものの、工事も続けられたのだそうだ。ルーマニア代表的な作曲家であるジョルジュ・エネスクの名前を冠した交響楽団の本拠地であり、同じく彼の名前の元に開催される音楽祭の会場でもある。

「Ar Cub」はブカレストの文化施設で、アートのエギジビションや音楽イベントなどが開催される。その建物が完成したのは1934年。アールデコの装飾的な外観が美しい。もともとはブカレスト市の職員のためのレクリエーションとカンファレンスのために作られたものだ。

小さくて見た目がかわいい教会建築の数々

ブカレストの中心を歩いているとふと目の前に現れたのが「聖アントニオ教会」だ。ブカレストに現存する一番古い宗教建築で、1852年に描かれたフレスコ画が有名だ。ブカレストには壮大な教会はなく、比較的小さく魅力的にまとまっているものが多い。この教会も庭も含めて姿が美しい。

「聖ディミトリエポスタ」はルーマニア正教会の教会で、1500年頃にはこの場所にあったと言われている。1802年の地震に続いた1804年の火事で焼失したが、1819年に現在の姿に再建されたそうだ。

レンガの外壁がエレガントな「クレツレスク教会」もルーマニア正教会の教会。1722年に完成したその壁は、当時は塗られていたそうだ。共産主義時代に破壊されるかもしれなかった建物のひとつ。

「バティステイ教会」が完成したのは1654年だが、1738年の地震で木造の建物は崩壊し、1763年に地元の精肉業者により再建された。彼は創建者としてここに埋葬されているそうだ。

見ごたえのある邸宅と世界一美しい書店

ルーマニアで最も美しいと言われている邸宅の一つでアールヌーボー様式。ディミトリエ・ラコヴィシ通りにある。20世紀の初めに著名な地理学者が住み、現在は地理研究所として使われている。

バティトティノ通りと、チューダー・アルゲジ通りの交差する場所にあるこの邸宅は、第一次大戦時代の新ルーマニア様式の建築で、その審美的な建築様式が評価されているそうだ。

これは、ルーマニアで最初の女性建築家ヴァージニア・アンドレスキュ・ハレットの家で、曲線的なデザインが魅力的だ。

ブカレストの書店「カルトゥレシュティ・カルーセル」は20世紀初頭に建築された銀行の建物を2015年にリノベーションしたもの。天窓から入る光が明るく内部を照らして、回廊のように中央の吹き抜けを囲むフロアを優しく包んでいる。

オボーのマーケットホールでミミティを食べる

1942年に完成した、オボー地区にある屋内市場もまた面白い。いかにも共産主義時代の市場で、そっけのない建物だ。そのすぐ外には食べ物とビールを提供する店がある。

マーケットでの買い物帰りと思われる人たちが、昼からビールを楽しんでいた。

そこで焼かれているのが「Mititei」ミティティだ。オスマントルコの統治時代にトルコ料理の影響を受けて生まれた食べ物でよく食べられている。食感は皮のないソーセージ。ひき肉にスパイス、ビーフストックと重曹を入れて練るので、ふんわりとしながらもしっかりと形が整っている。

オーブンで焼くミティティのレシピ

牛肉だけよりも合い挽き肉のほうが脂が多いのでいい。重曹を入れることによって、ふっくらとしつつも形がまとまるようになる。ビーフストックは、ビーフコンソメそのほかのビーフのスープで。

材料:
・牛豚あいびき肉 400g
・にんにく 1かけ(みじん切り)
・塩 小さじ1
・こしょう 適量
・タイム 小さじ1
・アニス 小さじ1/2
・オールスパイス 小さじ1/2
・コリアンダー 小さじ1/2
・パプリカ 小さじ1/2
・ビーフストック 100ml
・重曹 小さじ1(ビーフスープ100mlに溶かしておく)
・マスタード 適量

作り方:
1. ボールに牛豚合いびき肉を入れて、塩、こしょう、ハーブとスパイス全てを入れてよく捏ねる。

2. ビーフスープに溶かした重曹を加えてよく混ぜて、ビーフスープを少しずつ加えながら捏ねる。ラップをかけて冷蔵庫で3時間以上寝かせる。

3. 2を絞り袋に入れて、出口を1.5㎝位の直径になるように切り、オーブンのトレイにクッキングシートを敷いて、その上に5㎝位の長さになるようにして絞る。

4. 230度に余熱したオーブンで、12分焼く。

肉だねは冷蔵庫に入れておくことによって肉に水分が入りまとめやすくなる。好みで、トマト、キュウリなどの野菜、フライドポテトなどを付け合わせにする。パンにはさんで食べてもおいしい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/