インドで最も面積が大きいラージャスターン州の州都ジャイプール。旧市街の街並みの色にちなんで「ピンク・シティ」という愛称で親しまれているこの都市は、独特な街並みと活気に溢れるカルチャーを楽しむことができる観光地で、インド訪問が初めての人にとっても比較的に気軽に訪問できる場所だ。
映画の中にいるような気分になれる
ジャイプール空港と市内の距離は12キロほど。タクシーを使えば30分程度で市内にアクセスできる。筆者は今回、中心部から少し離れた静かな住宅地に位置するブティックホテルVilla243に滞在。アットホームで落ち着いたインテリアが心地よく、ルーフトップのレストランでは朝食やディナーが提供される。観光するだけではなく、ゆっくりとホテル時間を満喫したい人にとっても適した環境だ。
ジャイプール市内は、車、トラック、バイク、三輪バイクのトゥクトゥクなどさまざまな乗り物が行き来し、歩行者用の道も歩きづらいことが多いため、快適に街を歩き回ることができる場所だとは言えないが、ライドシェアアプリを使えばタクシーやトゥクトゥクを簡単に手配可能。特に日中の移動は両サイドがオープンになっているため開放感があるトゥクトゥクでの移動が気持ちいい。
市内を移動する際に無視することのできない存在が、クラクションの音。到着してすぐはクラクションの音が「騒音」として気になってしまうかもしれないが、慣れてしまえば、その音が街のサウンドトラックのようにも感じられる。ドライバーたちがクラクションを鳴らすのは、基本的にはフレンドリーな警告サインであり、怒りや不満を表しているわけではない。さまざまな乗り物に加え、牛や犬やロバなどの動物、通行人が行き来するため、互いに警告し合う必要があるのだ。
トゥクトゥクで移動しながら街を観察する体験は、まるで映画の中にいるかのような気分をもたらす。店の看板や道路のサインは、デーヴァナーガリー(文字)で表記されたヒンディー語のみで表記されていることが多く、言語の意味を理解しないものにとっては、それが未来的な異世界のように感じられる。旧市街は、ベージュがかったピンク色のベースに、白で輪郭が縁取られた、フォトジェニックなラージャスターン建築が建ち並び、眺めていて飽きることはない。
かわいらしいディティールと壮大な建築が共存
ジャイプールを代表する建築の一つが風の宮殿を意味するハワ・マハール(Hawa Mahal)。1799年に王宮シティパレスの一部として建設されたこの宮殿のもっとも特徴的な部分の一つが、王宮の外に面して作られた953のかわいらしい小窓が並ぶ5階建ての壁面。この小窓は、姿を見られることを許されていなかった王宮の女性たちが、窓から外の暮らしを見て楽しむために設計されたそうだ。また、たくさんの小窓は暑い夏の間の空調としての役割も果たしていた。ハワ・マハールの周辺は、シティ・パレス、ジャンタル・マンタル(天文台)、ジュエリーや布製品の店が立ち並ぶジョハリ・バザール(Johari Bazar)など、観光地が集結している。
ジャイプール周辺にある建築物における象徴的な存在が各所に残された要塞だ。その一つ、中心部からほど近い場所にあるのがナルガール要塞。ナルガールとは虎の住処を意味する。市内から要塞へのアクセスは、要塞の麓までタクシーやトゥクトゥクで行き、ジグザグになった石畳の坂を徒歩で登るルートがおすすめ。そしてナルガール要塞の魅力は、麓に広がるジャイプールの街並みが一望できることだ。一方で、ここにもかわいらしいディティールが施されていたのが印象的であった。
ジャイプールのミュージアムといえば、中心部にあるアルバート・ホール博物館がよく知られているが、インドの工芸に関心がある人にとっては、少し郊外に位置するアノーキ美術館を訪れるのが良い。アノーキ美術館は日本でも販売されているブロックプリント生地を使ったファッション雑貨ブランド、アノーキが運営するこぢんまりとしたアトリエで、ブロックプリントの道具や作業プロセスなどについて学ぶことができる。屋上ではベテラン職人が常時デモンストレーションを行っており、木彫りのスタンプ作りと、そのスタンプを使ったプリント作業が見学できる。アノーキ美術館周辺には、ジオメトリックな建築様式が印象的な階段井戸、パンナ・ミーナ・カ・クンドとアンベール要塞があり、都会の喧騒から離れて雄大な雰囲気を楽しむことができる。
食とデザインのスポットも充実
ジャイプールで外国人に人気のスポットの一つが、ホテルの屋上にあるピーコック・レストラン。孔雀を意味するピーコックのモチーフが内装に使われたかわいらしい空間で、代表的なインド料理やカクテルが楽しめる。同じホテル内にはネイティブ・カクテル・ルームというバーが併設されており、ドリンクメニューも豊富だ。
インド料理に飽きたらオーガニック野菜を使った多国籍料理が楽しめるジャイプール・モダーンがおすすめ。蕎麦サラダやジャックフルーツを使ったタコス、キヌアやマッシュルームを使った一品など、ベジタリアン向けのメニューが充実している。インドのクラフトやファッション、ジュエリーを扱ったコンセプトショップが併設されており、デザイン性のあるユニークなプロダクトを見つけることができる。
自然素材を使ったシンプルなテキスタイル製品を展開するのがニラ・ハウス。スロークラフトを重視し、自然繊維、自然染料、手撚り、手織りといった伝統的な素材や手法にこだわっている。ニラ・ハウスではアーティストを招いたレジデンシープログラムや、一般向けのワークショップなども定期的に開催している。
また、バザールよりも落ち着いた空間でジュエリーを買い求めたい人にとって人気があるのが、ジャイプール在住のフランス人がデザインし、地元の職人と制作するブランドDiane Singhのショップだ。日本人にも人気があるという繊細なデザインのものから、カラフルな石を使った大ぶりのデザインのものまで、センスが溢れるジュエリーが揃っている。それぞれの石の意味の解説もあり、ストーリー性があることも魅力の一つだ。
ジャイプールは都会の騒がしさの中に、さまざまな魅力が詰まった場所。タージ・マハールのあるアグラへの日帰り旅行もできる距離にあり、インドに初めて訪れる人にとってもやさしい観光都市。喧騒が苦手でも、再びインドを訪れてみたいと思わせてくれる魅惑的な空間でもある。
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All Photos by Maki Nakata
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Maki Nakata
Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383