フランスの「エコターブル」ラベルを知っているだろうか? エコターブルは、持続可能な外食を推進するフランスの民間認証制度だ。2019年にパリの数店で導入が始まり、現在では全国200軒に広がっている。パリ地域ではレストラン、テイクアウトのランチ販売、菓子店、ケータリングサービスなど90軒が認証を取得済み。

フランスでは、食の分野のサステナビリティ化が刻々と進んでいる。とりわけ、家庭での食習慣がエコの観点から見直されている様子はよく耳にする。しかし、環境負荷削減に積極的に取り組むレストランとなると、手軽に見つかる状況ではない。何万もの飲食店があるパリ地域において現時点で90軒といえば、ほんの一握り。持続可能性が社会全体で一層重視されている今、エコ化を進めている飲食店を増やして広く知らせ、消費者にもっと利用してもらおうとねらっている。

エコターブルラベルは1から3まで3段階ある。取得を希望する場合、食材の仕入れ先、健康、廃棄物、倫理や社会といった8つのカテゴリーの150の質問にオンラインで回答し、1か月分の請求書(食材購入や再生可能エネルギー使用など)を提出する。これらが有料で審査され、基準に達すればラベルが付与される。ラベル1だと、「食材の15%は有機的または持続可能な方法で生産されている」「メニューに少なくとも 1種類のベジタリアン料理がある」「食べきれなかった分を持ち帰ってもらえる容器を用意している」などの項目を満たしている。

偶然、エコターブル認証のレストランへ

筆者は、昨年、エコターブルのことを知った。パリを訪問中、空腹時に「Achi」という名のレストランが目に留まり、中へ。注文した料理の素材の新鮮さと味付けに感激し、サービスも雰囲気も非常によく、後日調べてみたら、Achiはエコターブルラベル2を取得していた。

エコターブル取得店Achiのホタテ貝とロマネスコ(カリフラワー類)を使った一品

Achiは、自家畑で有機栽培した野菜を使う「サステナブルな畑から、そのままテーブルへ」を基本コンセプトに、2021年夏にオープンした。ワインやビールも自然派を集めている。座席数は控えめで一部がガラス天井になっており、開放感に浸りながら食事ができるのがいい。

昨年パリを再訪することになり、またAchiへと思ったが、ラベルを取得している別のレストランを試したくなった。エコターブルのサイト内に、全国のラベル取得店一覧があるので便利だ。

検索すると、クレープ専門店、ピザレストランやアフリカ料理店、唐揚げ専門店「ナカツ(中津)」(オーナーはフランス人)など、パリの様々な店が表示された。持続可能性を追求していることでも知られているラグジュアリーなレストラン「ル・ムーリス・アラン・デュカス」、リサイクルをコンセプトにした肩肘張らない雰囲気の施設「ラ・ルシクルリー」内のレストランなどがラベル3を取得していることもわかった。

ラベル3になると、「食材の最低50%は有機的または持続可能な方法で生産されている」「食品廃棄物はリサイクルしている」「肉は持続可能な方法で飼育された、100%国産」などをクリアしている。その上、「環境に優しい洗剤を使用」「再生可能エネルギーを使用」「ゼロウェイストの実践」「店に大量生産のドリンクなし」などの特別な項目を最低2つ満たしている。

食べたい料理と雰囲気の点で、最終的にラベル2取得の2店を選んだ。

ランチとディナーを、認証取得の店で

ランチは、高品質のフランス産の肉が堪能できる「Bien Élevé」(2016年開業)にした。肉類の生産はCO2排出量が多いため、フランスでも肉食を減らす人が確実に増えていると聞く。Bien Élevéは肉食を減らす潮流に賛同しつつ、肉料理にするなら上質な国産肉にこだわってほしいと考えている。

ランチメニューは前菜、メイン、デザート(それぞれ3~4種あり)から選べる。前菜はトマトをふんだんに使ったパイ、菊芋のスープなど。メインは切り身魚のソテー(ニンジンやズッキーニ、ナッツ、柑橘類など時期によって違う食材が付く)、タルタルステーキ、季節の野菜を使ったベジタリアン料理など。

ステーキ肉のセレクションは黒板に手書きされている。肉の種類、部位、重量(200g、400gなど)を、フレンドリーなスタッフが説明してくれた。付け合わせは、牛脂で揚げたフライドポテト、旬の野菜、またはドレッシングをあしらったベビーポテトから1つ選べる。ソースも選べる。今回は子牛肉を選んだ。ボリューム満点だがお腹がとても空いていれば1人でもいいだろう。普通の空腹具合であれば誰かと行き、シェアするのがいい。

ちなみに、こちらのグルメサイトでは、Bien Elevéは、パリ界隈のステーキレストラン約1600店の中でかなり上位(29位)に入っている。

ディナーは「Orgueil」を選んだ。若手シェフEloi Spinnler氏の「ゼロウェイストの料理を提供したい」という願いが実現した店だ(2022年4月開業)。

数か国で経験を積んだSpinnler氏は、グルメ・レストラン(ハイレベルなレストラン)では選び抜いた材料の食べられる部分(多い場合で食材の30%)をあっさり廃棄してしまう様子を見てきた。廃棄物ゼロで贅沢な味を創造し、かつ手頃な値段でも楽しんでもらうにはどうしたらよいかと考えた末、小さいグルメ・レストラン(10席)と広めのビストロの2つの場所を1つ屋根の下に置く設計にした。

Orgueilのドアをくぐるとバーカウンターをそなえた空間があり、キッチンの一部が見える奥のほうまで食事スペースが続く。このエリアがビストロだ。もう1つのグルメ・レストランは「Speakeasy」と名付けられ、ビストロの背後にあるが、鏡で仕切られていてビストロからは見えない。Speakeasyへは、キッチンから出入りするという凝った演出だ。

Orgueilの食材は可能な限り地産の旬のもの。仕入れ先は環境を考慮した栽培や生産にこだわる小規模生産者だ。ビストロでは料理がチョイスでき、Speakeasyはコース料理のみ。ビストロもSpeakeasyも同じ食材を使い、調理の仕方を工夫して違いを出している。

筆者はビストロで、友人と4品を味わった(訪問した夜、Speakeasyは満席だった)。野菜は「マリネ風味の卵黄とルバーブ(茎が紅色の野菜)をのせたマッシュポテト」、シーフードは「タラと白桃のセビチェ(生の魚介類のサラダ)、肉は2品で「ジャガイモ、ホウレンソウと鳩肉のパイ」「味噌風味のソースをあしらった豚肉のグリル」。自分では思いつかない食材の組み合わせや味で楽しませてもらった。

軽食チェーン店も認証取得

レストラン以外で、エコターブル認証を取得した店にも行ってみた。通りかかったリヨン駅内のサンドイッチ店「picto」は、それほど目立つ場所になかったが行列ができていた。pictoはチェーン店で、パリに7店舗を構える(2015年開業)。認証を1つ得ており、同店サイトでもそのことをアピールしている。

有機バゲット、放し飼いの豚で作るハム、有機リンゴジュースなど、食材の生産者についての情報を公開している。pictoでは各シーズンに入手可能な野菜のみを使うため、年に数回サンドイッチの風味を変更する。今回はおやつを購入した。次回はサンドイッチを買ってみよう。

エコターブルラベルは、経営側にとってはなかなか厳しい基準だろう。しかし、この認証がさらに広まれば、町にとってはサステナブルな観光のアピールにもなる。フランスの旅で「エコターブル店巡り」が新しい旅のスタイルになる日が来るかもしれない。


Écotable  

■ 訪問した4店
Achi
BIEN ÉLEVÉ
ORGUEIL
picto


Photos by Satomi Iwasawa

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/