ニュージーランドの国土面積は日本の約4分の3に相当する27万534平方キロメートル、人口は約520万人。国土は主要な島である北島と南島に分かれており、人口の77%が北島で暮らす。今回の記事では、北島の北側に位置する都市オークランド周辺から南端にある首都のウェリントンまでのロードトリップの道中で立ち寄ったスポットを紹介する。

オークランド周辺のワイン地域:クメウとワイマウク

ニュージーランド北島の旅は、オークランド周辺のワイナリー訪問からスタート。ニュージーランドのワイン生産者が発行する最新の年次報告書によると、2023年時点で739のワイナリーが存在する。年間の総生産量は3億6000万リットルで、そのうちの86%が輸出される。ワイナリーの内訳を見ると、全体の87%にあたる646のワイナリーが小規模、つまり年間生産量は20万リットル未満のワイナリーだ。400万リットル以上を生産する大規模ワイナリーは18件のみとなっている。小規模ワイナリーは、国内のみで流通していることも多いため、現地でしか味わうことができないワインが数多く存在する。

ニュージーランドといえば白ワイン品種のソーヴィニヨン・ブランがよく知られている。実際、ワイン用のブドウの栽培面積の65%がソーヴィニヨン・ブランで、次点のピノ・ノワールの約5倍もの栽培面積を占める。ソーヴィニヨン・ブランの主要栽培地域は、南島の北にあるマールボロ地方でニュージーランド全体の同品種の生産量の9割近くがこの地域で生産されている。ちなみに、輸出されるニュージーランドワインの86%がソーヴィニヨン・ブランだそうだ。今回の北島のワイナリー訪問でも、マールボロ地域からのブドウを使って生産されているソーヴィニヨン・ブランが多かった。

オークランドから最初に訪問した地域が、都心から車で25分ぐらいの程近い場所にあるクメウ(Kemeu)地域だ。この地域のワイン生産は19世紀後半に、クロアチア人の入植とともに開始した。現在もいくつかのワイナリーはクロアチア人の子孫によって運営されている。筆者が訪問したソルジャンズ・エステート・ワイナリー(Soljans Estate Winery)はその一つで、1927年にクロアチアから移住してきたソルジャンズ一家が1932年に開始した。

ソルジャンズでは、白、赤、ロゼの他にスパークリングワインとポートワインも展開している。エントリーレベルのエステートレンジは、24ニュージランド・ドル(約2100円)という比較的手頃な価格帯。このワイナリーでは、予約なしでカジュアルなスタンディングスタイルでの試飲を楽しむことができる。リストから希望に応じて、フレンドリーなスタッフが試飲用ワインを提案してくれる。

他に訪問したのがクメウ・リバー(Kumeu River)とウエストブルック・ワイナリー(Westbrook Winery)。クメウ・リバーは旧ユーゴスラビア出身の一家が始めたワイナリーで現在も家族経営。シャルドネ品種に力を入れている。ウエストブルックも旧ユーゴスラビアにルーツを持ち、1937年以降ワイン生産を手掛けているワイナリーだ。1999年に現在の場所であるクメウ地域の少し北のワイマウク(Waimauku)に移転した。ウェストブルックのテイスティングは着席形式。あらかじめ選ばれた5種のワインの試飲もしくは、13種類から自分の好きな3種類を選ぶ方式の2つのテイスティング・オプションがある。白ワインの品種が豊富で、ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネ以外にも、ピノ・グリ、リースリング、イベリア半島の品種であるアルバリーニョなどを展開する。チーズやハムなどの前菜プレートやピザといった食事メニューも豊富で、ワインとのペアリングを楽しむこともできる。

オークランド周辺のワイン地域:マタカナ

オークランドから約70キロメートルの場所にある、もう一つのおすすめのワイン地域がマタカナ(Matakana)だ。ちなみにマタカナはニュージーランドの公用語の一つであるマオリ語で、「注意が必要(distrustful、watchful)」というような意味があるそうだ。

マタカナのワイン地域でおすすめしたいワイナリーの一つが、ブリック・ベイ・ワインズ(Brick Bay Wines)。200エーカーの敷地内には、ワイン畑、テイスティング・ルームやレストランだけでなく、彫刻庭園が広がる。彫刻庭園内には、全長約2キロのトレイルが整備されており、60以上の彫刻作品を楽しむことができる。価格も公開されており、購入することも可能だ。約1600円の入場料がかかるが、自然とアートに囲まれて満足できるトレイルである。

ブリック・ベイのレストランは、開けた土地に広がる開放的な空間で、ランチを楽しむ家族ずれや友人グループで賑わっていた。テイスティングは、レストランのバーカウンターで楽しむことができる。ワインの他に、オリーブオイルや蜂蜜の試食販売もあり、彫刻庭園にある彫刻のミニチュア版などを販売するギフトショップでお土産を買うこともできる。ワインのおすすめは、オフドライのロゼワイン。マルベックがメインで、カベルネ・フランとメルローのブレンドで作られたワインは、フレッシュなベリーの香りと、爽やかなストロベリーのような味わいが楽しめる。

この地域では、他にもマタカナ・エステート(Matakana Estate)や、オマハ・ベイ・ヴィンヤード(Omaha Bay Vineyard)を訪問。オマハ・ベイは小さなワイナリーだが、テイスティング・ルーム奥のレストランからはワイン畑の絶景を望むことができる。また、マタカナの街では毎週土曜日にマーケットが開催され、ワイン以外のローカルな食やクラフト商品を購入することができる。

タウポ湖とトンガリロ国立公園の迫力

島の中心部はアウトドア・アクティビティを楽しめる場所も豊富だ。今回訪問した場所の一つが、オークランドから約270キロメートルの場所にあるタウポ湖(Lake Taupō)。その面積は616平方キロメートルで、ニュージーランド最大の湖だ。タウポ湖周辺では、地熱地帯のトレイルを散策できる場所や、迫力あるフカ滝(Huka Falls)を上から眺めたり、無料の天然温泉を楽しんだりと、気軽に訪れることができる自然スポットが集中する。

タウポ湖のすぐ近くにある北島の人気観光地の一つが、世界遺産にも指定されているトンガリロ国立公園だ。トンガリロ国立公園は、ルアペフ山(2797m)、ナウルホエ山(2291m)、トンガリロ山(1967m)の三火山が今も活発に活動を続けている場所で、ダイナミックな景観が楽しめる。映画『ロード・オブ・ザ・リング』のロケ地としても知られる場所だ。

このトンガリロ公園でぜひ挑戦したいのが、ナウルホエ山とトンガリロ山間を縦走するトンガリロ・アルパイン・クロッシングという名の全長19.4キロメートルの人気のハイキングルート。平均6-8時間ぐらいかけて片道を歩き、終着点からシャトルバスを利用して戻るというのがスタンダードな旅程。ハイキングルートの最も高い地点には、湯気立つクレーターなど火山ならではの地形を眺めたり、硫黄でエメラルドブルーに煌めく湖の水際を歩いたりと、普通のハイキングとは違うユニークな体験ができる。気軽に臨めるハイキングではないが、多くの観光客が訪れる人気のスポットなので、ルートはきちんと整備されており、緊急時のサポート体制も充実している。

ホークス・ベイと、アール・デコの街ネーピア

トンガリロ公園がある内陸部から海側に戻って、次に訪問したのがホークス・ベイ(Hawke’s Bay)地方のネーピア(Napier)という街。ホークス・ベイ地方は、南島のマールボロに次いで、ニュージーランドで2番目に多くワイン生産が行われているワイン地域で、106件のワイナリーが存在する。この地域にあるミッション・エステート・ワイナリーは1851年創業で、現存するニュージーランド最古のワイナリーだ。他にも1896年創業のテ・マタなど、歴史のあるワイナリーがいくつか存在する。

この地域では郊外のワイナリーだけでなく、街中のアーバン・ワイナリーを訪問するのもおすすめだ。例えば、デシベル・ワインはカフェやレストランなどが集中するヘイスティングスの中心部にある、アーバン・ワイナリーの一つ。ロー・インターベンション(介入をあまりしない)の自然派ワインにこだわったワイナリーで、ニュージーランドでは珍しい自然派スパークリングワイン、ペット・ナットも展開する。

街中ワイナリーのもう一つのおすすめが、スミス&シェス(Smith & Sheth)。ここはワイン・ラウンジとして夜まで営業しており、スミス&シェスの他に、ピラミッド・ヴァレーという別のワイナリーのワインも提供する。ソムリエが、客の嗜好などに合わせてワインをセレクションするという仕組みなので、ワイン初心者でも上級者でも、ワインテイスティングを満喫することができる。

ホークス・ベイの沿岸の街ネーピアは、アール・デコの建築が集中する可愛らしい街並みが印象的だ。この街は、1931年の地震に伴って発生した火災でほぼ焼け野原になってしまったという歴史がある。そして街は当時のスタイルであるアール・デコ・スタイルの建築によって再建された。アール・デコは、現在にまで続く街のアイデンティティであり、毎年、ネーピア・アール・デコ・フェスティバルという文化イベントが開催されている。

アットホームなワイン地域:マーティンボロー

ロードトリップの最終目的地である首都のウェリントンから80キロメートルほど離れた場所に、マーティンボロー(Martinborough)というこぢんまりとしたワイン地域がある。小さな地域ではあるが、20以上のセラーが集中し、自転車でのワイナリー巡りも人気だ。

この地域で最初に訪問したのが、ケンブリッジ・ロード・ヴィンヤード(Cambridge Road Vineyard)。2.2ヘクタールのワイン農園では、主にピノ・ノワールとシラーを栽培している。できる限り介入しない自然派製法にこだわり、いわゆるオレンジワインと呼ばれるスキンコンタクトの白ワインも展開している。世界各地でにわかに人気を集めているオレンジワインだが、ニュージーランドのワイナリーシーンにおいてはユニークな存在である。醸造家のランス・レッジウェル(Lance Redgewell)はブドウそのものが持つ風味やテクスチャーをできる限り残すために、発酵に際しては使い込まれた古い樽を使用しているという。

マーティンボローで人気のワイナリーの一つが、ポピーズ・マーティンボロー(Poppies Martinborough)。ラインナップは白ワイン品種が中心で、爽やかであっさりとしたワインが多い。ここではテイスティングだけでなく、季節の素材を使った様々な惣菜を盛り付けた予約限定のデリプレートのランチも人気だ。また、マーティンボロー地区では、毎年11月に地域全体を上げたワインと食のフェスティバル、トーストが開催される。小さい地域ならではと言えるコミュニティ感が魅力的だ。

今回の記事で紹介したのはロードトリップ・ルートの本の一部だが、ニュージーランド観光局のウェブサイトは充実しており、様々なモデルコースが提案されている。例えば、このリンク先は、ネーピアとへースティングから、マーティンボロー、ウェリントンを巡り、その後、南島にフェリーで移動して、ピクトンを経由してブレナムといったワイン地域を訪問する旅程だ。ニュージーランドは比較的小さく、5日程度でも様々な場所を訪問することができるため、短い休暇を利用した旅の目的地としても最適の場所の一つかもしれない。一方で、自然のスポットにしてもワイナリーにしても見どころは豊富なので、また訪れたくなるような国でもある。


All Photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383