台湾には「吃喝玩樂」(チー・ホ・ワン・ロー)という言葉があるのだそうだ。その意味は「飲み食い遊び楽しむ」と辞書にあるが、もう少しかみ砕くと「飲むこと食べることを楽しんで、憂うことなく陽気に生きていきましょう」ということのようだ。

その言葉のとおり、台湾は「食の宝庫」「グルメパラダイス」などと言われるが、良い意味で食に貪欲な人がたくさんいるように思われる。長い歴史の中で、中国本土から台湾に渡ってきた人たちが台湾に持ち込んだ、多様な中華料理のスタイルが取り込まれ「台湾の中華料理」が創り出されてきた。

台湾の街で庶民の食を満たす「夜市」や、まちの食堂で食べることができる台湾の日常食は、中華料理としてはかなりあっさりとしている。基本的には薄味。流行りによっては辛い料理など刺激的なものも登場するようだが、やさしい味付けが主流だ。

日本との関係も深い、台湾中南部の嘉儀

台湾は中央から東岸側が南北に標高が高い土地で、西側に平地が開けている。北から、台北、台中、嘉儀、台南、高雄といった都市を結んで、台湾の新幹線「臺灣高鐵」が走る。今回は台北から在来の台湾鐡道に乗って、嘉義へ向かった。

嘉義駅を出て振り返ると、その駅舎の美しさに目を奪われる。1933年に竣工した建物は、1945年には米軍の攻撃のため大半を喪失した後、1949年に修復され、後にエレベーターを含む部分は駅舎の美観を損ねることなく増築されたのだそうだ。日本統治時代に建てられたその姿はモダンで、旅情を感じさせてくれる。

嘉義の目抜き通りが交わるラウンドアバウトの中心には、野球の投手像が建っている。ユニフォームには「KANO」の文字。嘉義農林学校の略称だ。日本統治下の1931年、台湾代表として甲子園に出場し準優勝までこまを進めたものの、対中京商業高校との決勝戦で敗れ準決勝を記録した。その銅像は、当時のエース呉明捷さんだ。その後早稲田大学に進学し、日本で社会人野球の選手として活躍した。1931年の甲子園出場にかかわる物語は、2014年に台湾映画「KANO 1931海の向こうの甲子園」として映画化され、日本でも公開された。

嘉義名物グルメは「火鶏肉飯」

そんな嘉義の名物料理と言えば「火鶏肉飯」。「火鶏」は七面鳥のこと。蒸した七面鳥の身を裂いて、それを炊いた米の上にのせ、しょうゆベースのたれを回しかけるといういたってシンプルな料理だが、嘉義には火鶏肉飯の店が数多くある。

「東門雛肉飯」もその一つ。路面店で朝10時から夜8時30分まで開いている。あっさりとしたたれがご飯に絡んでうまい。かなり塩味が控えめだが、鶏の旨味とたれの旨味がちょうどいい。ここではあさり入りの茶碗蒸しも食べた。

先ほどの銅像のあるラウンドアバウトから南へ延びる文化路は、日が暮れてくると夜市になる。屋台が立ち並ぶが、路面店も道へと軒を伸ばして営業している。

「阿霞火雞肉飯」は人気の火鶏肉飯の店で、店頭には七面鳥の肉をほぐしている店員がいた。間口は狭いが奥にはテーブル席があって賑わっていた。

こちらの火鶏肉飯はしっかりとした醤油だれが揚げ玉ねぎに浸みてこれまた絶品。苳菜(セロリの葉)に海老が入った「苳菜蝦仁湯」というスープはすっきりしていながらも海老の出汁が感じられてよく合う。

阿霞火雞肉飯のすぐそばにあるのが「郭家雞肉飯」。こちらは圧倒的にあっさりとした見た目でありながら、塩ベースのたれの旨味がしっかりと感じられる。

「魚丸湯」、白身魚の団子が入ったスープはギリギリで絶妙な塩加減だ。どの店もそうだが小皿料理も準備されていて、ここでは「燙青菜」、茹でたキャベツもいただいた。

「鶏肉飯」を作って食べる|鶏肉を使ったレシピ

日本では残念ながら七面鳥が手に入りにくいので、今回紹介するレシピでは鶏むね肉を使う。また、味付けは現地のもので言えば阿霞火雞肉飯のように、醤油だれでしっかりめにした。

材料:2人分

・鶏むね肉 1枚(200~150g)
・ねぎ(青い部分) 1把分
・しょうが 薄切り6枚
・酒 大さじ1
・赤唐辛子 1本
・醤油 小さじ2
・ピーナッツオイル 小さじ2
・砂糖 小さじ1
・フライドオニオン 小さじ2
・パクチー 適量

作り方:

1. 密閉性の高い鍋(鋳物の鍋など)に鶏むね肉と、ひたひたになる量の水と酒を入れ、ざっくりと切ったねぎをしょうがを入れたら中火にかけて、沸騰したら火を止めてそのまま30分間放置する。ゆでた汁は大さじ1を取っておく。(残りはスープとして使うとよい。)

2. 鶏胸肉を取り出して粗熱を取ったら、繊維に沿って割く。

3. 赤唐辛子、醤油、ピーナッツオイル、砂糖、ゆで汁大さじ1を入れてよく混ぜる。

4. ご飯器に盛り、鶏肉、フライドオニオンとパクチーを乗せて、3のたれを回しかける。

本場の物よりもたっぷりと鶏肉をご飯に乗せるようにした。これだけで完結した一品にしたかったからだ。調味料の割合は自分なりに調整して、自分なりの味で楽しむのも楽しいだろう。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/