古代エジプト文明の始まりについては諸説あるようだが、紀元前3000年頃には第一王朝が生まれていたのだという。「日本書紀」によれば、約2680年前に第一天皇が即位したというから、おおざっぱに言えば、国の記録としてはエジプトのほうが倍の期間存続しているということになる。古代エジプトはクレオパトラ7世の時代が終わる紀元前30年まで続いた。

実際にエジプトを旅してみると、点在する遺跡の壮大さに驚かされる。そして今なお発掘の作業が続けられているというから、考古学者のみならず多くの人々を魅了していることに納得させられるのだ。そして、エジプト料理ってどんなものだったのかと、思いは食べ物にも向かうのだった。

現代エジプト料理の基本はアラブ料理|スープから前菜

エジプト料理は古代エジプト時代から脈々と繋がるものだが、現在のエジプト料理は、7世紀のイスラム化からの影響が強いのだそうだ。それまではビールや豚肉食も存在していたのだが、イスラム教国家となって禁忌となってしまった。さらに、中東、ヨーロッパとの交流の中で他の近隣地域の影響も受け、地中海料理と中東地域の料理も取り込まれてきた。

エジプトの一般的な食事は、サラダとスープの前菜で始まり、肉料理や野菜料理、そしてパンまたは米料理が続く。上の写真は「モロヘイヤのスープ」と「トウモロコシのクリームスープ」だ。エジプトのほとんどが砂漠地帯ではあるが、ナイル川流域には肥沃な土地が広がり、食料が生産されている。

エジプトのスープの中でも特に好まれるのが、モロヘイヤとにんにくの、鶏肉をベースにしたスープだ。モロヘイヤは日本でもお浸しなどで食べられるが、その独特な粘りも面白い野菜。エジプトや中東ではかなり古くから食べられているという。またこの地域ではトウモロコシの栽培も盛んで、コーンクリームスープもよく食べられている。

スープに続くのが野菜料理を中心とした前菜。トマトのサラダ、なすのディップである「バーバー・ガンヌーク」、ハーブ入りのヨーグルト、ひよこ豆とゴマペーストで作る「ホンモス」などが並ぶ。ピタパンに似ているが薄い仕上がりのパン「エイシュ」と共に食べることもある。エイシュは独特な窯で焼かれて膨らむので、それが前菜を入れて食べるポケットになる。

メインの肉料理と魚料理、そして付け合わせ

エジプト料理では、肉か魚料理をメインに、そこに炊いた米を付け合わせにすることが多い。

「サムケ・タジン」はエジプト料理の中でも人気の魚料理だ。巨大淡水魚のナイルパーチが使われることが多い。全長2m、体重は100㎏を超えるものもあるナイルパーチの身は、癖のない白身で日本でも輸入したものが出回っている。トマトと香辛料のソースになるパーチの切り身を入れてタジン鍋で調理する。非常にあっさりとした淡白した身に、いかにも地中海風なソースがよく合う。付け合わせの炊いた米との相性もいい。

パンや米だけでなく、パスタも食される。「Lesan El Asfour」は、米粒のような形をした小さなパスタ、「オルゾ」を使った料理で、その名前は「鳥の舌」を意味するという。料理のベースはトマトと赤ピーマン、それにニンニクと数種のスパイスで、煮込んだ牛肉に茹でたオルゾを合わせてから、オーブンでさらに焼いたものだ。米を食べているように錯覚するほどオルゾの大きさは米に似ていて、それが牛肉からの旨味がしっかりと感じられるソースに絡まってリゾットのような印象でもある。

下の写真は、旅の途中で食べた小ぶりのコシャリだ。他にも料理があるレストランで少しの量で出されたものだが、コシャリ専門店などでは大きな皿に盛られて、コシャリ単品で1食になる。

バスマティ米を炊き、ショートパスタを混ぜ、茹でたレンズマメとひよこ豆も合わせる。その上にスパイスの効いたトマトソースをかけて、揚げた玉ねぎをトッピング。そこに好みでDakka(ダッア)という辛みのあるビネガーをかけ、全体をよく混ぜ合わせて食べる。カイロの街ならどこでもコシャリの店が見つかるほどの国民食だ。

今回はこのコシャリのレシピを紹介する。

エジプトの「コシャリ」のレシピ

コシャリは、①辛みのあるビネガーであるダッア、②コシャリのベースとなる米、パスタ、豆類と各種のトッピング、③スパイシーなトマトソース、の3つをそれぞれ準備してから、それらを盛り合わせて仕上げる。工程は多いが、それぞれのプロセスはシンプルで作りやすい。また、作り置きをして食べてもいいと思う。

<①ダッア>
材料:

・おろしにんにく 1かけ分
・水 大さじ2
・酢 大さじ1
・クミンパウダー 小さじ1/4
・コリアンダーパウダー 小さじ1/4
・チリパウダー 2つまみ
・塩 2つまみ

作り方:
1. 全ての材料を合わせてよく混ぜる。

<②コシャリのベースとトッピング>
材料:

・バスマティ米 1合
・ショートパスタ 1カップ
・ひよこ豆(缶詰) 1/4カップ
・レンズマメ 1/4カップ
・塩 1つまみ
・イタリアンパセリ 適量
・ライム 1/2個
・フライドオニオン 大さじ4

作り方:
1. ひよこ豆は水で洗っておく。パセリはみじん切りにする。
2. バスマティ米とレンズマメを洗って炊飯器に入れ、1合の水加減に大さじ1.5の水を追加し、塩を入れて炊く。早炊きでよい。または鍋で炊く。

3. パスタを商品のパッケージに記載の方法で茹でておく。
4. 炊いた米とレンズマメ、パスタを混ぜておく。

<③トマトソース>
材料:

・トマトの缶詰め 1缶
・にんにく(みじん切り) 2かけ分
・チリパウダー 小さじ1/2
・クミンパウダー 小さじ1/2
・コリアンダーパウダー 小さじ1/2
・チリフレーク 小さじ1/2
・鷹の爪(みじん切り) 1本
・砂糖 小さじ1/2
・酢 大さじ1
・オリーブオイル 大さじ1
・ナツメグパウダー 2つまみ
・塩、こしょう 適量

作り方:
1. 小鍋を中火にかけてオリーブオイルを入れて温まったら、にんにく、チリパウダー、クミンパウダー、コリアンダーパウダー、チリフレーク、鷹の爪、砂糖をいれて1分ほど香りが出る程度に炒める。

2. トマト、酢を入れて弱火にして5分程煮込んだら火からおろして、ナツメグを振り、塩・こしょうで味を整える。

<仕上げ>
コシャリのベースを皿に盛り、トマトソースをかけてフライドオニオンとひよこ豆も乗せて、イタリアンパセリをトッピングする。ライムを振り、好みの量のダッアも振る。

今回は二人分でたっぷりめの量なので、一食に十分だ。全体をよくかき混ぜ、ダッアをかけて食べる。ダッアをかけると多少水分が多くなるが、現地ではそのように食べるのが普通のようだった。スパイシーでありながら、ダッアとライムの爽やかさが加わってすっきりとした味わいに仕上がっている。

コロナ禍を過ぎ、エジプトへの直行便の運航が再開した。また、日本も支援する大エジプト博物館が間もなく開館する。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/