南北に長いベトナム。ベトナム戦争が終わるまで、南ベトナムの首都としてサイゴンと呼ばれたホーチミンへ旅した。前回訪問したのが2006年だったので、実に17年ぶりになる。どんな発展を遂げているのかという興味もあったが、やはり気になるのはそこに生きる人たちと食文化だ。

この記事ではベトナム南部の米食とおかずにフォーカスを当てて、鶏手羽先のグリルをベトナム風にグリルして白米に乗せて食べる料理のレシピを紹介したい。

HMCは第2のシンガポールを狙えるか

ホーチミンに到着してまず驚いたのは、林立する高層ビル街だった。ベトナムは2010年以降、コロナのパンデミックまで5%後半~7%台の経済成長率を持続しているが、それを象徴する都市がホーチミンであり、その人口はベトナム一位の900万人。人口の増加も続いている。

上の写真は古いアパートメントをリノベーションして利用し、若い世代を中心に人気があるリノベアパートメントの一つ「グエンフエ通り42番地アパート」。高層ビル街にあるこのビルの存在が示すのは、急速に発展する経済と、少し前のベトナムに対するノスタルジックな思いで、その相反するものが両立している姿が興味深い。

さて、ホーチミンの市街地から少し歩けば昔ながらの住宅地が広がる。商店があり市場があり、バイクが忙しく行き交い、いかにもホーチミンらしい賑やかさがある。咲き乱れるミモザの木の下にあるカフェには平日の昼間から人が集い、なにやら日々の話題を話しながらコーヒーを飲んでいた。

夜になると、都心部にある24時間営業の露店のヌードルショップに人々が並び、歩道に設置されたテーブルで食べたり、持ち帰ったりしている。

人々はみな礼儀正しく、フレンドリーで親切だが、必要以上に距離を縮めてくることもなくて快適だ。日本人の気質に近いかもしれないが、もっとあっけらかんと明るいように感じられる。

ローカルが日頃食する「Cơm tấm」(コムタム)」を食べる

ホーチミンを歩いていると、あちこちで見かけるのが「Cơm tấm」(コムタム)」の店だ。ホーチミンに到着してまず出かけたのが「コムタム トアンキュー」という店。インテリアはファーストフード店然としている。この店はコムタムに使うブロークンライス、砕米のメーカーが運営している店だ。

砕米は精米の過程で発生した砕けてしまった米で、これをうまく炊くとそれはそれで美味しく楽しめるだそうだ。特に「おかずのっけご飯」的なコムタムに使うと、おかずのソースが砕けた米に絡んでいい。

この店で食べたのは鶏もも肉をグリルしたものをのせたコムタム。にんにくと唐辛子、大根とにんじんのピクルス、チリソースは定番のコンディメントだ。鶏もも肉の旨みと甘辛いソースが、砕米にいい具合に浸みて旨い。

住宅街のローカルな店でコムタムを

うねうねと蛇がのたうつように流れるサイゴン川を渡れば住宅が密集する地域で、ホーチミンの中心部と比較するとかなり生活感がある。車が入ることができない路地にあるコムタムが旨いと聞いた店に出かけた。

昼時を過ぎていたので混んではいなかったがこの辺りでは人気の店で、店頭には炭火で肉を焼くグリルがあり期待が膨らむ。

豚肉のグリルに蒸し鶏、豚の脂を揚げたもの、それにチャーチュンというひき肉が入ったたまご焼きに目玉焼きも乗せてもらった。ごはんはもちろん砕米で、付け合わせにはキュウリに大根とニンジンのピクルス。これに野菜と高菜漬けのちょっと酸っぱいスープがついてくる。

豚肉はカリッと焼かれていて香ばしさが食欲をそそる。しっとりと蒸された鶏肉はあっさりした仕上がり。豚の脂はしつこくはない。たまご焼きは塩味がしっかりついていてごはんが進む。そして、スープを飲み終えると、店のおじさんがにっこりと微笑みながらもう一杯注いできてくれた。

レシピ|鶏手羽のベトナム風グリルのせごはん

日本に帰ってから、肉をグリルしたものをご飯に乗せるというベトナムのコムタムのスタイルで、鶏手羽肉をベトナム風にグリルしたものを作ってみた。肉をつけだれに漬けて置き、それを魚焼きグリルで色よく焼く。付け合わせはキュウリにトマト。ライムを絞ればいかにもエスニックな仕上がりになる。

材料:(2人分)

・鶏手羽 8本
・ご飯 300g

<つけだれ>
・ニンニク 小さじ1 すりおろし
・しょうが 小さじ1 すりおろし
・玉ねぎ 1/4 すりおろし
・五香粉 小さじ1/2
・砂糖 小さじ1
・こしょう 小さじ1/4
・ピーナッツオイル 小さじ1 なければ植物油
・パプリカ 小さじ1/4
・ニョクマム 大さじ1
・醤油 小さじ2

<トッピング等>
・ピーナッツ 適量 粗みじん切り
・ライム 1/2個 2つに切る
・万能ねぎ 4本 輪切り
・トマト、きゅうり 適量 輪切り
・チリソース 適量

作り方:
1. にんにく、しょうが、玉ねぎ、五香粉、砂糖、こしょう、ピーナッツオイル、パプリカ粉、ニョクマム、しょうゆをビニール袋に入れてよく混ぜる。

2. 鶏手羽を入れて軽く揉みこんだら冷蔵庫に入れて1時間以上漬ける。

3. 魚焼きグリルを中火にして、2の鶏手羽を乗せて8分ほど焼いて表面がパリッとしてきたらつけ汁を表面に塗り、更に5分ほどかけて色よく焼く。

4. 皿にご飯を盛りその上に2の鶏手羽を乗せて、トマト・きゅうりも乗せ、チリソース、ライムを添える。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/