南アメリカの北西部に位置するコロンビアは、南米12ヶ国のうちエクアドル、ペルー、ブラジル、ベネズエラの4ヶ国そして、中米のパナマと国境を接する。コーヒー豆の産地としてよく知られており、コロンビアのコーヒーの生産規模は世界第3位である。主要産業は農業と鉱業で、コーヒーのほかに、石炭、切り花などが日本へも輸出されている主要貿易品目だ。1810年にスペインから独立したコロンビアだが、現在もスペイン語とカトリックの影響が残る。一方で、スペインとは異なる風土が育んだ独自の雰囲気があり、中東や東南アジアを彷彿とさせるような場所もある。今回、筆者は、初めての南米大陸訪問で、コロンビアの首都ボゴタ(Bogotá)と第2の都市、メデジン(Medellín)を訪問した。

自然の色が作り出す、目に優しい景観

ボゴタもメデジンも大都市ではあるが、東京やシンガポール、もしくはナイロビなどの新興都市の景観に比べると、長閑さが感じられる。その理由が、オレンジがかった茶色のレンガと瓦屋根を使った低層の住居と、どっしりとした存在感がある樹木が植えられた大通りの散歩道や、都市の各所に点在する公園の存在ではないかと思う。また、どちらの街も山の景観に囲まれているため、建物の背景には常に山並みがあるという点も、ゆったりとした景観を生み出している理由であろう。

例えば、ボゴタのチコ地区と呼ばれる地域は、いわゆる観光地ではなく、比較的裕福な層向けの住宅や商業施設がある場所だが、その地域の南端にはエル・ビレイ公園という細長くて広い公園がある。公園を端から端までを、のんびりと散歩する人や自転車で通り抜けて行く人がいれば、放し飼いの状態で自由に駆け回る犬たちがいたりする。小さな子ども向けの遊び場があれば、体を鍛える人々が集まる本格的な屋外ジムもある。ベンチに座って休憩するのもありだし、ピクニックにも良さそうな公園だ。

またボゴタの観光地からほど近い場所にあるモンセラーテ丘は、ボゴタの街を一望できるおすすめスポットだ。ロープウェイやケーブルカーを使っていくこともできるし、徒歩で頂上を目指すこともできる。ボゴタ市自体の標高が2625メートルで、世界の都市の中で3番目に標高が高く、モンセラーテの頂上は3152メートルという高さである。

一方、メデジンでは都会の真ん中にあるメデジン植物園がおすすめだ。主要道路とメトロの最寄り駅がある場所は都会の喧騒という雰囲気が漂うが、入り口の緑のトンネルを抜けて植物園に一歩足を踏み入れると、そこには別世界が広がる。植物園は約6.5万平米で、都会にいながら気軽にマイナスイオンを感じることができるような場所だ。街中ではあまり見かけないような黒やオレンジの毛をしたリスが駆け回っていたりもする。

植物園は常時無料で開放されており、誰でもいつでも気軽に訪れることができる。園内には植物を模したような形の高い天蓋が設置された広場があり、そこではヨガクラスなども開催されていた。緑で覆われた建物が特徴的なレストランやカフェもあり、休日をゆっくりと過ごすのにも良さそうだ。

日曜日の自転車&歩行者天国

毎週日曜日と祝日、ボゴタでは朝7時から午後2時まで、メデジンでは朝7時から午後1時までの間、各都市は主要道路の一部において車の通行が禁止され、道路が自転車や歩行者に開放される。この自転車・歩行者天国は、自転車レーンを意味するシクロビア(Ciclovía)と呼ばれて、イベント化されていて、沿道にはバイクを整備や飲食販売のテントなども出現する。ボゴタのシクロビアは元々1974年に始まった歴史のあるイベントで、50年近く続いている。ボゴタのシクロビアの全長は128キロメートルと、都市の広範にわたっている。

多くのサイクリストやランナーが行き交う様子は、まるでマラソン大会などのスポーツイベントが開催されているかのようだが、もちろん事前の登録などは要らず、誰でも自転車・歩行者天国を利用することができる。都市の各所に設置されたシティ・サイクルをレンタルすれば、旅行者でも気軽に地元住民のような気分を味わうことができる。犬の散歩をしている人も多く、とても和やかな雰囲気である。政府のデータによれば、平均で150万人がこのシクロビアに参加しているとのことだ。また、シクロビアはアクティブで健康的な市民生活を応援する効果的なプログラムだとして、WHOからも高く評価されている。

筆者もアプリで簡単に登録できるシティ・サイクルを利用して、早朝のサイクリングを楽しんだ。交差する道路に関しては、基本的に車が通行しているため、信号待ちは発生するが、ゆっくりとしたペースで街並みを楽しむには最適な手段だ。また、信号があることによって、過度なスピードを出すことができないため、子どもや歩行している人たちも安全に道路を歩くことができる。

日本の銀座の歩行者天国などは、買い物を楽しむ人々のためのものだが、道路を思い切って開放することによって、より健康なアクティビティを促進できるというのは画期的な取り組みである。ボゴタやメデジンのような、取り組みが今後もっと他の都市にも波及してほしいと思う。

異なる食習慣のための選択肢も豊富

コロンビアの食文化は豊富で、地域によっても料理に特色があるが、伝統的な料理は米、ジャガイモやとうもろこしなどの穀物をふんだんに使ったものや、肉や魚を揚げたものなど、比較的どっしりとした料理が多い印象だ。しかしながら、フルーツや野菜は豊富に手に入るので、ヘルシーな食の選択肢も意外と豊富だ。ベジタリアンやビーガンのための選択肢もあり、植物由来の材料だけを使用したビーガン向けのレストランもある。スーパーマーケットには、豆腐や大豆由来の代替肉も売られている。

一方、炭水化物を控えたい人にとっての選択肢も少なくない。地元のアボカドは、たいていハズレはなくクリーミーなものが手に入るし、ナッツ類も簡単に手に入る。乳製品に関しては、脂肪分が高めのギリシャヨーグルトの種類も豊富で、チーズ類も国産品・輸入品の両方が売られている。チーズに関しては、国産品のものは、割とあっさりしたタイプの生チーズや、スナックサイズで梨の形をしたケソ・ペラ(梨チーズ)と呼ばれるモッツァレーラに似た食感のものなどが多く販売されている。日本でいうとプロセスチーズのような味と食感のものが多く、欧州のチーズに慣れている人にとっては、もの足りない感じもあるが、地元の人たちの間では、そのまま食べるのだけではなく、熱したり、パンやデザートにしたりして食べられているようだ。

また、コーヒーとカカオの産地ならではと言える良質なコーヒーやチョコレートの種類も豊富だ。チョコレートに関しては、ミルクチョコレートよりも、カカオ含有量が70%前後のダークチョコレートが主流で、カカオの素朴な味わいを楽しむことができる。

メデジンは、欧米からのデジタルノマドにも人気が高い都市で、駐在する外国人も少なくない。住む人が多様化することによって、食文化も多様化しているのかもしれない。メデジンで外国からの訪問客に人気のエリアには、さまざまなカフェやベーカリー、クラフトビールのバーなどが集まり賑わっている。緑に囲まれた屋外席やテラス、ルーフトップの選択肢も豊富だ。

都会からの自然への誘い

ボゴタやメデジンは、歩いていると道端にピンク色をしたバナナが生っている木に遭遇したりして、都市にいながらもコロンビアのトロピカルな魅力を感じることができる場所だ。さらに都市の中心部から、ほんの少し離れた場所でも、自然の中でユニークな体験を楽しむことができる。

例えば、アーバン・コーヒー・ツアーでは、メデジン市内にて小規模のコーヒー栽培農家を訪問し、コーヒーの収穫から抽出に至るまでの一連の流れを学ぶことができる。コロンビアは手摘み収穫が行われている唯一のコーヒー生産国だそうだ。高品質のクラフトコーヒーに関しては、手摘み収穫、浸水、脱肉、発酵、乾燥、脱穀、選別、焙煎、挽きという全てのプロセスが手作業で行われている。1杯のコーヒーを作るために70粒ものコーヒー果実を収穫する必要があるそうだ。本物のクラフトコーヒーがいかに貴重なものであるかを知ることができる体験だ。

一方で、日帰り旅行でも都会とは全く違った風景を楽しむこともできる。メデジンから東に車で2時間ほどの距離にあるグアタペ(Guatapé)という町は、ペニョール湖の入り江状の地形の一角にある。街中にある住居の壁はどれもカラフルに塗装されていて、そのポップな景観が観光客に人気。そして、この童話の世界のような楽しい住宅の景観と対比的にそびえたつのが、高さ220メートルの巨大な一枚岩。岩の壁面にはジグザグ上の階段が設置されていて、頂上まで登ることができる。岩の上は展望台になっていて、湖と入り江の雄大な景観を一望することができる特別な場所である。

新興国コロンビアは、今後ますます経済発展し、デジタルノマドや外国からの訪問客も増えていくだろう。しかし、ショッピングモールや高層ビルばかりが増えて、都市がどんどんと拡大して周囲の自然を破壊していくのではなく、今まだ残されている大自然と大都会が交差したような、少しのんびりとした雰囲気が、これからも維持されていくことを願う。


All Photos by Maki Nakata

Maki Nakata

Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383