イタリア第2の都市ミラノは、ファッションとデザインの町。近年は、とりわけ食品の分野でのゼロ・ウエイストに熱心に取り組み、注目されている。

10年ほど前までは、生ゴミの回収はレストランやスーパー、ホテルなどの商業系施設(学校も含む)のみで実施されていた。家庭の生ごみも回収する政策が導入され、茶色いごみコンテナに入れた定期回収が広がったことで、2019年の生ゴミ回収量は1人当たり年間110kgに達した(回収後は、バイオガスの製造や園芸・農業の肥料として使われる)。同年のEU平均の1人約19kgと比べ、大きく前進している。

ミラノが食品廃棄の削減でヨーロッパ、また世界のお手本として注目されるようになったのは、2015年のミラノ万博で食をテーマにしたことも関係している。サステナブルな食料についての会議も開催され、世界の多数の都市が参加し、食品廃棄物の削減に関してそれぞれが行動しつつ、都市間で協力し合っていこうと確認し合った。

2019年1月には、「ゼロ・ウエイスト・ハブ(またはネイバーフッド・ハブ)」という政策も始まった。ミラノで、主にスーパーや社員食堂から売れ残った食品を回収し、困っている市民に配給している。回収した食品を保管・管理する施設はハブと呼ばれ、現在までに5か所が開設。昨年、回収された食品はその5か所で計290トン(5万8千食)を超えたという。この政策は、 英国ウィリアム皇太子によって創設された環境賞「アースショット賞」の第1回目(2021年)を受賞した。

また、イタリアでは、飲食店で食べ切れなかった食事を客が持ち帰る習慣はなかったというが、この数年で強く奨励され、ミラノでも実践されている。

そんなミラノで、食品関連でのゼロ・ウエイストの店や、エコ志向のグリーンなカフェが人気だと聞いて訪れてみた。訪問した3軒ともミラノ中央駅から近く、アクセスしやすい。ミラノ旅行で歴史的な観光スポットやショッピングを楽しむ合間に、3軒のような素朴な店に寄ってみるのも旅の思い出を深めるのでは。

Røst

ゼロ・ウエイストのレストラン「Røst」

Røstは、広さ65平方メートルの小さいレストラン。「主役は食と食べる人」との考え方から、内装は控えめなアンビアンスだ。ミラノと上海を拠点にする建築スタジオがデザインした。暖かみのあるマルサラレッドと深い緑の色調はなんだか親友の家のようで、とても落ち着く。壁には、食材の生産者たちを描いた皿が飾られている。Røstのøをかたどっているのが面白い。奥にはキッチンが見えるテーブル席があり、外にはゆったりと座れるテラス席も用意されていた。天気がよければ、外で食べるのもいい。

Røstは、ミラノ万博における食品廃棄物問題への関心の高まりがきっかけでオープンした。ゼロ・ウエイスト志向で、食材をまるごと使った料理を提供している。野菜はもちろん、肉も舌や肝臓もすべて調理する。魚料理もある。季節の食材を使っているため、メニューもそれに合わせて都度変わる。料理のスタイルは伝統的な北イタリア料理としているが、創作料理のようにも感じられた。

ワインの選定にも配慮していて、すべて、オーガニック、バイオダイナミック、自然農法で作られたワインだ。イタリア産を多めに揃えている。

まずは、ワイングラスを片手にメニューをじっくり眺めた。白ワインを希望すると、スタッフが北イタリア産「CANTINA MARTINELLI – PANTAGRUELE」を勧めてくれた。樽で2、3年熟成させたワインだという。熟したフルーツやオークの濃厚な香りがしたが甘くなく、ミネラル感と塩分もあるしっかりとした風味だった。コクのある料理とよく合うとのことで、選んだ料理との相性はとてもよかった。

前菜は4種類あった。スタッフのお勧めは、ミラノの伝統料理「モンデギーリ」とベニスの伝統料理「干し鱈(タラ)のペースト」の2つで、迷わずそれらを注文した。

モンデギーリは、余った肉にほかの素材を足したミートボール。パン粉を付けて揚げたり、焼いたり、ソースで煮込んだりと食べ方はいろいろらしいが、Røstでは揚げたものが2個出てきた。牛たん、ソーセージの余り肉、パンなどにアクセントとしてレモンの皮が加えてあり、もっと食べられそうなほどさっぱりした味だった。モンデギーリは実はB級グルメのカテゴリーに入るというが、そんなことは感じなかった。鱈はイタリアでよく食べられている食材だ。Røstでは、煮込んでペースト状にした鱈にフェンネル(セリ科の野菜)のパウダーがたっぷりと振りかけられていた。ジェラ―トのように美しく、味も濃厚な魚の風味が楽しめた。

ミラノの伝統料理「モンデギーリ」とベニスの伝統料理「干し鱈(タラ)のペースト」

メインディッシュは、野菜料理と肉料理を1品ずつにした。野菜はホワイトアスパラガスのソースがけで、南イタリア産のアーモンドとコーヒーの粉をあしらったもの。アスパラガスは軽く茹でて焼いてあり、歯ごたえがとてもよかった。ソースも、パンに付けてお皿に何も残らない状態まで食べ切った。

肉料理は牛たんだ。Røstでは、厚切りにしたステーキで赤玉ねぎとケッパー(木のつぼみを酢漬け)がたっぷりのっていた。肉の焼き加減は丁度よく、絶妙な柔らかさに仕上がっており、赤玉ねぎとケッパーの酸っぱさが味を引き締めた。日本では牛たん焼きはポピュラーだが、ヨーロッパでも焼いた牛たんが食べられる店があるのだと知った。

ここの料理は基本的にシェアして食べるというコンセプトのため、1人で何皿も注文すると多過ぎるかもしれない。干し鱈のペーストとホワイトアスパラガスを、半量(半額)にしてくれた心遣いが嬉しかった。また、メニューにはないハムなどを前菜に注文していた客もいたので、食材があれば隠れた一品もオーダーできる。

でこぼこ青果の販売店「Bella Dentro」

 
ミラノには、オーガニック食品店やバルクショップ(容器を減らすための量り売り店)があり、環境に配慮した食品も買える。量り売りは必要な分量だけ購入でき、包装済みの食品を買って余らせ、捨ててしまうことを防げるという利点もある。2020年秋にオープンしたBella Dentroも、食品廃棄物の削減に貢献している。この店では、規格から外れた形態の野菜や果物を国内の農家から直接買い付けて販売している。Bella Dentroとは「美しい中身」という意味。規格外でも品質や味の差はなく、おいしいということを表現している。

Bella Dentro

店内の青果は、確かに傷がついていたり形が一様ではない。でも、2個がくっついたハート型のナスや傷が多めのリンゴなどを見ていると、捨てられるのはもったいないと思えて買いたくなってくる。イタリアで親しまれている花ズッキーニもあり、季節に合った地産の青果が置かれているのがわかる。ちなみに、緑色の模様が入った店内の白い棚は、古い冷蔵庫と使い捨てカトラリーでできた再生プラスチックパネルだ。

Bella Dentro は、1988年生まれの男女が、農産物の流通で大量の青果が廃棄されている現状をルポルタージュで見て、ショックを受けたことがきっかけだったという。見た目やサイズがルールに合わない青果は、廃棄せざるを得ない。2人は、廃棄される青果の価値、またその生産者たちの労力の価値も見直すべきだと考え、仕事を辞め、収穫ボランティアをするなどして国内の農場を中心に調査を重ねた。そして、ミラノの街路で巡回販売をしてから、実店舗をオープンさせた。

Bella Dentroは、でこぼこ野菜で作ったジャムやジュース、チップスも販売しているので、お土産にしてもいいだろう。ジュースを買って飲んでみたが、ピューレのように濃くて驚いた。

社会的な影響をさらに高めようと、身体的および精神的障害のある人たちがジャムなどの製造にかかわっている。小さい店ながら環境的、経済的、社会的に持続可能な解決策を実践しているのは素晴らしく、今後も続いてほしいと思った。

再利用品を取り入れたカフェ「Upcycle Bike Café」

 
Upcycle Bike Caféは、新鮮な旬の食材を可能な限り無駄なく使った料理を提供している。こだわりはお茶の時間のケーキにも見られ、プラム、バナナ、ニンジン、ギネスビールなど様々な風味の手作りのパウンドケーキが並んでいた。

Upcycle Bike Café

ミラノ大学、ミラノ工科大学から歩いて10分かからないところにあるためだろう、ラップトップを持参した大学生らしき若者のグループが目立った。1人で黙々と仕事をしている人たちもいてコワーキングスペースのような雰囲気もあるが、犬を連れた老夫婦や家族連れもいて、地元の人たちが気軽に来ている様子がうかがえた(ガラスの壁越しの隣のスペースは、カフェとは別のコワーキングスペース)。

自転車をテーマにしたカフェは、インテリアでもゼロ・ウエイストを実践している。家具に建設現場の古い板や配管パイプが使われており、椅子にも年季を感じた。アップサイクル品のデザインのぬくもりと、朗らかなスタッフの対応が気持ちよく、居心地は抜群だった。


■ Røst
ランチは金・土・日のみ 夜は火~日 月曜休み
(*人気の店なので、ランチでもオンライン予約をおすすめ)

■ Bella Dentro
火~土9:30~13:30|15:30~19:30(土曜は19時閉店) 月・日曜休み
(Google検索で表示される、もう1店舗(Viale Lazio 5)は、閉店中)

■ Upcycle Bike Café
毎日営業

【そのほか、ミラノ中央駅に近いエコ志向の飲食店】

■ PROPAGANDA ALIMENTARE (Upcycle Bike Caféから徒歩7分)
ゼロ・ウエイスト志向のレストラン 

■ Soulgreen
ビーガン料理が充実。プラスチックフリーの店。貧困状態にある子どもたちに食事と水を届けるチャリティープログラムに参加している。 

■ LùBar
トロピカルな雰囲気のカフェ&バー

■ Fioraio Bianchi Caffè
花屋の中のカフェ  

■ oTTo
「シンプル」と「ナチュラル」をコンセプトにした植木がアクセントのカフェ  

Photos by Satomi Iwasawa

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/