イスラエル第一の都市、テルアビブの南東60㎞ほどに位置するエルサレム。東側はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区に含まれアラブ人が住み、西側はイスラエルの一部でユダヤ人が住む。そして、城壁に囲まれたエルサレム旧市街、東エルサレムに含まれる。

この旧市街は、イスラム教、ユダヤ教、キリスト教の聖地であり、3つの宗教のシンボリックな建物が狭い土地に隣り合うように建つ。城壁の中は、ムスリム街区、ユダヤ人街区、キリスト教徒街区、アルメニア人街区と4つの街区に明確に分かれているものの、いずれの街区へも行き来は自由だ。

城壁の中に入るための門は11あり、北西側の中央にあるダマスカス門は最も人通りが多く、その造形も美しい。

旧市街に入ると市場があり、人々が住む場所なのだと再認識させられる。3つの宗教の聖地であることから、この狭い街に、宗教を異にする人たちがそれぞれの信じるものを大切にしつつ、隣り合って生活しているという状況のみを聞けば平和的な街ともいえるのかもしれないが、それぞれの尊厳を貫く姿勢は真剣で、いつ何があるかわからないという緊張感がある。

3つの宗教それぞれの重要な聖地と史跡

エルサレム旧市街には、3つの宗教それぞれにとって重要な聖地や史跡がある。

古代エルサレムのユダヤ教の礼拝の中心「エルサレム神殿」。その残された壁の一部が「嘆きの壁だ」。ユダヤ戦争中の紀元70年には、ローマ帝国軍によってユダヤ人は虐殺され、この地から追われた。それを嘆くのがこの壁なのだという。

この神殿の跡はイスラム教の聖地である「神殿の丘」となり、7世紀の終わりには「岩のドーム」が作られた。ここにはイスラム教のみならず、ユダヤ教とキリスト教にも重要な「聖なる岩」が祀られていて、岩のドームはそれを覆った記念堂である。

この旧市街にはイエス・キリストが十字架を背負ってゴルゴダの丘までを歩いた「ヴィア・ドロローサ」、「苦難の道」がある。キリストが処刑されたゴルゴダの丘は旧市街の中にあり、そのゴルゴダの丘とされる場所にはキリストの墓がある「聖墳墓教会」が建つ。

学生の頃に学ぶ世界史や、現在もニュースで報じられることの多いエルサレム。旧市街では人類史の「現場」を実感させられ、圧巻だ。

新市街の市場を歩いてユダヤ教の料理を

旧市街を出て、ユダヤ人が住む新市街の「マハネ・イェフダ市場」へ出かけてみる。食料品を中心とした小売りの市場で、いくつかのレストランが併設されている。

野菜は店頭に山積みになっていて、欲しいものを店の人に伝えて買う仕組みになっているようで、多くの人が集まっていた。精肉店にはパックに個包装された肉が売られ、肉の加工品店にはハムやソーセージが並ぶ。ユダヤ教向けだから、豚肉やそれを原料とした加工品はもちろん売られていない。

様々なチーズもショーケースに並んでいた。また、鮮魚も売られているが、すべてうろこがある魚だ。また燻製されたサバもあった。ユダヤ教ではうろこがある魚以外の海産物を食べることは禁忌の一つだ。

色とりどりの香辛料が並ぶ店もある。特に「ザタール」は中東の定番のスパイスミックスで、タイム、白ごま、スーマック、オレガノなどが配合されて、店頭に山盛りになっていた。また、木の実や種も種類が豊富で面白い。ドライフルーツの店も多く、客たちは味見をしながら品定めをしていた。

パン屋には、中東ならではフラットブレッドや様々なパンが売られている。スィーツの店にはヴァクラバや焼き菓子が並び、どれも美しく、そして美味しそうだ。店頭に円柱形に形成されて並ぶのは「ハルヴァ」という菓子で、穀物やゴマ、野菜または果物を油脂と砂糖を加えたもの。ピスタチオ、クルミ、アーモンド、松の実などを加えたものや、カルダモン、シナモン、サフラン、ナツメグ菜との香辛料を使ったものもある。

市場に併設されているレストランで大型のアジのグリルを食べた。表面はカリッと、中はふんわりと焼かれていて、塩・胡椒がちょうどいい。ヨーグルトとミントのソースがよく合う。

中東の定番フムスと焼きパプリカのレシピ

今回紹介するのは、中東から地中海沿岸のアラブの食文化の定番「フムス」。ひよこ豆とごまのペーストをクリーミーに仕上げて、オリーブオイルをかける。また、パプリカを焼いたものをトッピングして、一つの料理として仕上げてみる。

ひよこ豆とゴマペーストでフムス

味の決め手はおいしいオリーブオイルと新鮮なレモン。ニンニクは必須だが、クミンはなくてもいい。

材料:
・ひよこ豆(缶詰) 200g
・にんにく 1かけ
・レモンジュース 40ml
・白ゴマペースト 40ml
・塩 小さじ1
・オリーブオイル 30ml
・クミン(パウダー) 小さじ1/2

作り方:
1. ひよこ豆を鍋に入れ、水を2㎝位かかるように入れる。沸騰させたら中火で20分ほど茹でて、ひよこ豆の皮を取る。100ml程度の茹で汁はとっておく。

2. フードプロセッサーに、ひよこ豆、にんにく、レモンジュース、白ゴマペースト、塩、ゆで汁大さじ1を入れて柔らかくなるまでピューレ状にする。途中で水分が少ないようであれば、大さじ1/2の茹で汁を追加する。

3. 2を混ぜながら、クミンとオリーブオイルを入れて、全体に混ざれば出来上がり。

パプリカをグリルで焼き盛り付ける

フムスには、白ワインビネガーで和えた焼きパプリカ、ひよこ豆、パセリをトッピングする。

材料:
・パプリカ 2個
・オリーブオイル 大さじ3
・コーシャソルト
・白ワインビネガー 大さじ2
・フムス 480cc
・ひよこ豆 大さじ2
・パセリ(粗みじん切り) 大さじ1
・チリフレーク

作り方:
1. 縦二つに切ったパプリカをクッキングシートにのせ、オーブンのグリルまたは魚を焼くグリルに入れる。大さじ1のオリーブオイルを回しかけて塩を振り、皮が黒く焦げるまで焼く。

2. オーブンを180度に設定し、大さじ1のオリーブオイルを回しかけて20分焼く。

3. 粗熱が取れたら、皮を取り、2cm角に切り、ボールに入れて白ワインビネガーを入れてトスして回す。

4. フムスを皿に平らに、中央を窪ませて入れたら、3の半分を載せ、ひよこ豆、オリーブオイル大さじ1を回しかけ、パセリ、チリフレークを振りかける。

クリーミーなフムスに、香ばしいパプリカがよく合う。これを好みのパンに乗せて食べてもいい。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/