「ネイバーフッドストーリー」をコンセプトに、地域に息づく別荘文化を体感できる『ホテルインディゴ軽井沢』。オープンから1年が経ち、国内外の旅人が多く訪れるホテルへ成長している。旅好きの人々の心を掴む理由は何か。その魅力に迫った。

大自然の中に佇むライフスタイル・ブティックホテル

美しい自然と清涼な気候で多くの人を魅了する軽井沢。明治以降、外国人宣教師がサマーハウスを立て始めたことをきっかけに、日本有数の避暑地として発展。現在も西洋文化が息づく別荘地として高い人気を誇る。

そんな軽井沢の別荘文化を至るところで感じられるのが、ホテルインディゴ軽井沢だ。「ホテルインディゴ」とは、イギリス発のIHG ホテルズ&リゾーツが展開するホテルブランドで、洗練されたデザインと自宅のように寛げる快適さが特徴。現在日本には神奈川・箱根、愛知・犬山にも展開し、それぞれの風土を生かしたつくりやサービスを提供している。ホテルインディゴ軽井沢は、2022年2月にオープンした。自然保護に努める軽井沢の風土をベースに、環境に配した作りがなされているのがポイントだ。

JR軽井沢駅から車で約5分の場所に位置。アクセスもいい。

ホテル内の広大な敷地には、浅間山の大自然に溶け込むように木材を基調とした6棟が点在し、それぞれ屋根付きの通路で結んでいる。多くの人が訪れるロビー棟、ダイニング棟、スパ棟では積極的に木材を使用し、うち約80%は長野県産カラマツの間伐材を使用。これは環境保全に貢献していきたいという思いの表れだ。

約1万9000平米という広大な敷地にロビー棟、客室棟など全6棟が建つ。

開放感たっぷりの吹き抜けが印象的なダイニング棟。軽井沢の自然と調和する木材を基調としたデザインだ。

また、客室内にもふんだんに木材があしらわれている。アメニティはオーストラリアの「Biology」のもので100%天然素材。ボトルタイプで、プラスチック削減に配慮。枕元にはオリジナルの木製の小さな時計があり、文字盤をよく見ると可憐なスミレが描かれている。

「軽井沢は春になると小道にたくさんのスミレが咲くんです。そうした軽井沢らしい風景を客室の中にいても感じてもらえたらと思いました」と話すのは、総支配人の原めぐみさんだ。

スパ棟には24時間オープンのフィットネスセンターを併設。ここに並ぶのは美しい家具のようなデザインの「NOHrD」の木製非電動式フィットネスマシーンだ。持続可能な森林から厳選した芯材を用いた運動機器で、モーターは搭載せず、自分の動きで作動するため環境にもやさしく、音も静か。静かな環境の中、モーター音を気にせず、運動に集中できる。

「暖かな火」というおもてなし

また、別荘文化からインスパイアされたホテルインディゴ軽井沢独自のおもてなしもある。それが、寒冷地の別荘を象徴する「火」だ。ロビー棟には大きな暖炉があり、爆ぜる薪の音と暖かな炎のゆらめきでゲストを出迎える。

ロビーには暖炉を囲むようにラウンドソファーが。同じ空間には代官山蔦屋書店のコンシェルジュが選んだ書籍が並ぶライブラリーも。

フォレストガーデンと呼ばれる広々とした中庭にはファイヤーピットがあり、癒しスポットとなっている。ここにはバーも併設し、季節によっては夕方にはホットワインなどドリンクの提供も行っている。ダイナミックな自然を堪能し、炎の暖かさを感じながら飲むワインは格別の味わいだ。

ファイヤーピットを設置した「焚き火ラウンジ※不定期開催」。

ホテルのオールデイダイニング「KAGARIBI」は薪の火を使ったグリル料理を提供するイタリアンレストラン。「フィールローカル」をテーマに信州豚や信州牛、みずみずしい高原野菜など地元の食材をふんだんに使った料理が味わえる。臨場感たっぷりのオープンキッチンからは薪の音が耳に届き、視覚、味覚だけでなく、聴覚でも楽しめる。2フロア吹き抜けで、大きな窓に囲まれた開放感のある空間。テラス席も用意されており、ドッグフレンドリーな軽井沢らしく、こちらのスペースに限りペットとともに食事ができるようになっている。

キッチンの中央に設置された薪グリルで豪快に焼き上げる。

感性が吹き込まれた小さなギャラリー

また、ホテル内ではたくさんのアートとの出合いもある。宿泊棟に設けられた長い廊下はさながらギャラリーのようで、スペイン出身で日本在住のイラストレーター、ルイス・メンドが手がけたアートが点在。客室内には軽井沢に拠点を置くオーストラリア出身の木版画家、テリー・マッケーナの作品がインストールされている。また、ロビー棟の壁面には染織作家の佐伯和子が手がけたタペストリーが。これは夏の軽井沢の木々に降り注ぐ陽の光をモチーフにしているという。スパ棟にはニューヨークで活躍するマーサ・タトルが手がけた浅間山と澄んだ空気をイメージした作品が空間を演出。このようなアートもホスピタリティの一つだ。英気を養うだけでなく、感性を刺激し、豊かな想像力と活力を与えてくれる。

ささいな会話が特別な時間をもたらす

ハードとソフトの両方でネイバーフッドストーリーを感じられる、ホテルインディゴ軽井沢。だが、オープン当初は順調な滑り出しとは言い難かった。

「2022年2月は新型コロナウイルス第7波の真っ只中で、盛大なセレモニーはせず、テープカットのみという静かな船出となりました。正直この先どうなるんだろうという不安の中でのオープンでした」と総支配人の原さん。

長くホテル業界で活躍し、観光業に精通している彼女は、今回の未曾有の危機を経て、ホテルに求められているものの変化を感じていると言う。

ホテルインディゴ軽井沢 総支配人の原めぐみさん。2007年にIHG・ANA・ホテルズグループジャパンに入社。ANAクラウンプラザホテル広島、福岡、金沢、富山のエリア総支配人などを歴任し、2021年2月より現職に。

「体験を重視する傾向が強くなったと思います。つまり、ホテル側は快適な施設さえあればいいというわけでないということです。長い間、制限を強いられたこともあって旅先での触れ合いを求める人が増えている。私たちは『ネイバーフッドストーリー』を軸に掲げていますが、建物やデザインの中に軽井沢らしさを取り入れるだけでなく、触れ合いの中で生まれるネイバーフッドなサービスを提供したい。例えば、『この近くにスミレがたくさん咲いている場所があるんですよ』と伝えることはとても些細なことに思えますが、ウェブや雑誌には載らない貴重な情報です。この地に暮らすスタッフだからこそ話せることであり、アスファルトが続く都心に暮らすゲストがその情報を得たことで、足元に咲く花を楽しみに出かける体験につながります。自然や食、アートなど、スタッフそれぞれの好きな分野を活かし、ちょっとした情報を会話に盛り込みながら、お客さまに素敵な時間をもたらせたら」

敷地内の木々には鳥たちが羽を休ませられるバードハウスを設置している。

ゲストにもスタッフにもやさしいホテルへ

そう話す原さんは業界内ではまだまだ珍しい女性総支配人。社会問題に高い意識を持っており、年配者や外国人も積極的に採用するなど、スタッフの多様性も重視している。

「私自身海外で働いた経験がありますが、国籍だけでなく、年齢やジェンダーに関係なく多様な人材が活躍できるホテルが理想です。スタッフ一人ひとりの個性を認め、理解し、シナジーにつなげていきたい。また、女性の活躍も後押ししたいと思っています。女性が24時間フルサービスの施設の責任者を務めるのは大変ですが、私自身楽しみながら仕事をしています。女性がキャリアを諦めず、安心して仕事に集中できる環境作りもできたら。正直、ホテルとしてはまだまだ力不足なところもありますが」

そう話す原さんに、これからの展望について聞いた。

「オープンして一年が経ち、積極的に新たな試みをしていきたい。その一つがオールデイダイニング〈KAGARIBI〉でスタートした『インディゴ メレンダタイム』のサービスです。イタリアのおやつを意味する『メレンダ』から、インスパイアされ、午後の一息つくのにおすすめのイタリアンスイーツを提供します。また、環境面の改善ももっと力を入れたい。客室内では長らく感染予防のため使い捨てアメニティを採用せざるを得なかったのですが、可能な限りサステナブルな素材に切り替えたいですね」

「インディゴ メレンダタイム」は毎週土、日、祝、14〜16時(LO15.半)の提供。(※繁忙期、貸切日を除く)

豊かな自然の中に佇む、ホテルインディゴ軽井沢。自然を尊重し、人を大事にするホテルは、次のステップに向けて歩みを始めている。


ホテルインディゴ軽井沢


住所:長野県北佐久郡軽井沢町大字長倉字屋敷添18番地39

電話:0267-42-1100


浦本真梨子
一般企業を経て、2015年よりフリーランスのライターとして活動。ライフスタイルやカルチャーの分野を中心にインタビュー、対談、鼎談など会話をもとにした記事を手がける。主な活動媒体に『Casa BRUTUS』(マガジンハウス)、『Numero TOKYO』(扶桑社)、『yoi』(集英社)など。