モロッコの2つの古都、マラケシュからフェズへ、列車で7時間をかけて移動したのは春の初め。飛行機なら1時間で済むところを、わざわざ列車にしたのは旅を実感したかったからだ。すこし時間をかけて移動すると、旅程そのものが楽しい。一人旅ならなおさらで、じっくりと自分自身と話すというか、それほど大袈裟でもないのだが、他のことに煩わされずにじっくりと、しかものんびりといろんなことに思いを巡らすこともできる。

ブー・ジュルード門から迷宮の旧市街へ

フェズに着いた頃にはもう日が沈んでいて、その日はホテルで休み、翌日旧市街へと出かけた。整然と建物が並び、縦横に規則正しく道が走る新市街を抜けると、広場の向こうに美しい門が建っている。王宮の入り口に立つ「フェズ門」だ。ここから先が旧市街。中世からの混沌とした迷宮が広がる。

門の前には、観光客の群れに動ずることなく凛とした佇まいの一匹の猫がいた。モロッコの古い街には猫が多く、猫が似合う街だ。7世紀の預言者ムハンマドが神の創造物を、特にその中でも猫をあがめよとその信者に告げたのだと言われている。一般的に猫は、イスラム教の間で大切にされているらしい。

フェズ門を過ぎると、19世紀に造られた王立の公園「Jnan Sbil Gardens」がある。手入れが行き届いていて美しい公園は、パブリックな庭園で、フェズの都の繁栄を感じさせる。そして、この素晴らしい造形美の世界の先に、混沌としたフェズの迷宮の様な旧市街の「メディナ」が広がるのだ。

迷宮のメディナで迷いながら歩く

自動車は入ることができないメディア内での運搬はロバも担う。ガスのボンベをいくつも背中に乗せたロバを見かけた。市場には、野菜・果物、肉・魚、香辛料、加工食品の店が並ぶ。1つの市場というわけではなく、あちこちに点在している。

加工食品の店を覗いてみる。まずは山盛りに積まれたデーツ(ナツメヤシ)を甘く干したものが目を引く。デーツは日本で売られているソースの主原料だ。様々な色と大きさのオリーブがボトルに詰められている。「コーブ」と呼ばれるパンなど主食の一つであるパンが積まれている。スィーツの店には、薄い生地を重ねて糖蜜に漬けたヴァクラバをはじめ、甘いアラブの菓子が並ぶ。

メディナに通い始めて3日目くらいには、どうにか土地勘もできてきたが、新しい角を曲がればまた新しい迷路が始まるのだからきりがない。「よそ者」には、まったく身動きが取れなくなるようなメディナの防衛力は計り知れないのだった。

メディナは人々の生活の場所なので、携帯電話のショップが集まる一角もあれば小さなモスクも点在している。カフェもあるし、道具屋が囲む広場もある。皮革加工の工場もあったりと、一つの経済圏としてまとまっているのが興味深い。

メディナのすぐそばには広場があり、日が暮れる前には子供たちが遊んでいた。

モロッコ料理といえば、タジンとクスクス

モロッコ料理で有名なものといえば「タジン」と「クスクス」だ。タジンはタジン鍋で作る料理で、クスクスは米粒よりも小さなパスタのこと。

夜遅めにフェズに到着してすぐに食べたのがチキンのタジンだった。鶏肉と野菜の一人用の鍋といった様子で、スパイスが香ばしくエキゾチックな味わいだ。タジンを使った料理は多様で面白い。羊や魚、野菜を使って様々に調理する。

クスクスは2層構造のクスクス用の鍋で作る。上には肉や野菜の具が乗り、下にはその味を吸ったスープが落ちてクスクスを調理する。こちらも様々な素材や味付けで楽しめる。特に羊肉はいかにもモロッコらしい味わいだ。

モロッコのタジン・ソウイリを作る

今回は鶏肉とたまごを使った、「タジン・ソウイリ」に挑戦してみよう。玉ねぎも加えるから、もろっこの親子丼の具といったところ。ただし、レモンを塩漬けにして発酵させた「塩レモン」も使うので、さっぱりした味わいに仕上がる。これをパンと一緒にいただく。

材料:2人分

・鶏もも肉 1枚 200g
・鶏むね肉 1枚 200g
・たまご 2個
・オリーブ 100g 半分に切る
・玉ねぎ 1/2個 薄切り
・にんにくみじん切り 小さじ1
・パセリ 1カップ みじん切り
・しょうが みじん切り 小さじ1
・サフラン 1つまみ
・植物油 大さじ1
・塩 1つまみ
・黒コショウ 小さじ1/2
・塩レモン 大さじ2 粗みじん切り

塩レモンを作るには、レモンとレモンの量の15%から20%の塩を清潔な瓶に詰めて冷暗所に6週間保存する。低温調理器があれば60度で24時間で出来上がる。乳酸発酵しているので長期保存が可能だ。

作り方:

1. 鶏肉は大きめの一口大に切ってフライパンに並べ、にんにく、パセリ、しょうが、サフラン、玉ねぎを上から乗せて、植物油を入れ、さらに水をひたひたになるまで足してふたをし、20分間煮込む。

2. 鶏肉を取り出し、残っている煮汁を程度に煮詰める。水分が飛んで、ソース状になればよい。

3. 玉子を割って混ぜ、塩、パセリ、オリーブ、塩レモンを加える。

4. タジン鍋またはオーブンで使える耐熱容器に鶏肉を並べて、卵液を回しかけて、煮汁も回しかけたら、180度のオーブンで表面が固まり始めるまで10分焼き、取り出して蓋をする。

パンと一緒に食べる。シンプルなパンなら何でもよい。また、地中海沿岸で好まれるチリペースト「ハリッサ」もよく合う。今回はコーブスというシンプルなモロッコパンを焼いてみた。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/