旅先で“ちょっと変わった体験“を重視する人が増え、パリで観光客向けの「1回完結型の料理やお菓子の講座」が人気だ。何年も前から盛況だと知っていて、ようやく参加した。

パン屋や洋菓子店、料理学校などあちらこちらで、1年中、よりどりみどりの講座が開催されている。パン(バゲット、クロワッサン、パン・オ・レザンなどの菓子パン)作りにしようか、お菓子(マドレーヌ、ミルフィーユやタルト、シュークリームやエクレアなど)のほうがいいか、洗練されたフランスらしい料理にも挑戦してみたい、とかなり迷った。講座で習った後に自宅で作ることを考え、家族のためにもゲストを招いたときのためにも、より華やかで明るい気分になれるお菓子「マカロン」に決めた。

料理でもお菓子でも、多くの講座は英語、少人数制、講師は料理やお菓子作りを本格的に学んだ人だ。料金は様々。場所や時間も多様なので、滞在日程に合う講座はきっと見つかるだろう。1人でも参加できる講座は多い。

今回は、パリ市庁舎から徒歩数分のスクール「ラ・キュイジーヌ・パリ」を選んだ。ここはほぼ毎日、パンとお菓子と料理の講座があり、参加者たちからのコメントはポジティブなものばかり。ヨーロッパの国々をいろいろ旅したが、お菓子講座の参加は初めてだったため、少しドキドキしつつスクールに向かった。

セーヌ川を臨む「ラ・キュイジーヌ・パリ」のダイニングルーム

キッチンは、スクール2階のダイニングルーム横にある。今回の参加者は8人。キッチンで大きい調理台を囲み、スクールのエプロンを着け、ネームプレートを貼り、簡単な自己紹介をした。筆者も含め、皆、お菓子作りの初心者だ。2組の親子はアメリカから、さらに1組の親子はオーストラリアからパリに観光に来ていた。オーストラリアの2人はリピーターだ。以前このスクールで2人で受けた講座が、とても楽しかったという。8人は2人1組に分かれ、4ペアでマカロン作りを進めた。

2種類のガナシュを挟んだマカロン

マカロン作りは難しそうと思っていたが、比較的、簡単だった(もちろん、道具が揃っており、講師の助けが大きい役割を果たした)。手順は大きく分けて、生地作りと、2枚の生地に挟むガナッシュ(チョコレートベースのクリーム)作りだ。

まずはガナッシュ作りから。講座では2種類のガナッシュを作った。

ガナッシュの材料(マカロン35個分 写真に写ったガナッシュは下記の分量以上です)
*生クリームは乳脂肪分35%以下は不向き

<ミルクチョコレート風味>
・ミルクチョコレート 200g
・生クリーム 100g
・バター(常温で溶かしておく) 40g

<ピスタチオ風味>
・ホワイトチョコレート 300g
・生クリーム 120g
・バター(常温で溶かしておく) 80g
・ピスタチオペースト 45g

1. ボウルを2つ用意。それぞれに各チョコレートを入れ、湯銭で溶かす。

2. 生クリームを沸騰直前まで温め、それぞれのチョコレートに数回に分けて入れ、なめらかになるまで混ぜる。ポイントは、ゴムべらの動かし方。大きく回転させるのではなく、ボウルの中心にへらを置き、中心の辺りで回して混ぜるようにする。

3. 生クリームを混ぜ終えたら、今度はバターを混ぜる。ホワイトチョコレートのほうには、一緒にピスタチオペーストも入れる。つやが出るくらいに混ざったら終了。それぞれ、冷蔵庫で40分以上冷やす。 

講師のヘルプで、マカロナージュも成功

マカロン生地は、粉類とメレンゲを混ぜて焼いたもの。最大の山場は、2つの混ぜ方だ。この混ぜる作業はマカロナージュと呼ばれる。今回のメレンゲはシロップを加える「イタリアンメレンゲ」だ。マカロンには、砂糖を数回に分けて加えて泡立てる「フレンチメレンゲ」も使われる。

イタリアンメレンゲはフレンチメレンゲよりも気泡が安定しているため、マカロナージュが失敗しにくいともいわれるが、ラ・キュイジーヌ・パリによると一概にはいえない(メレンゲ自体というより作る人の技能にかかっている)とのこと。イタリアンメレンゲのシロップの温度調整が面倒なら、フレンチメレンゲで作ってみるといいだろう。

生地材料(マカロン35個分 搾って成形する際の加減で個数は前後する) 
*スタンドミキサーと温度計使用

<粉類>
・アーモンドパウダー(アーモンドプードル) 250g
・粉糖 250g
・卵白 92g
・粉末の食品色素

<イタリアンメレンゲ……熱いシロップを加えて作るメレンゲ> 
・卵白 92g
・グラニュー糖 250g
・水 62g


  
4. イタリアンメレンゲを作ろう。グラニュー糖と水を鍋に入れ、温める。(温度計で測り)110℃になった時点で、卵白をセットしておいたスタンドミキサーのスイッチを入れて攪拌を始める。鍋の中身が118℃に到達したら火からおろし、ミキサーの卵白に注ぐ。

ミキサーのボウルにふれ、もう熱くないと感じられる程度(50℃ほど)になるまで混ぜる。できあがったかどうかの見極めは、すくい上げて、メレンゲの先が少し下を向く程度。

5. 次は粉類の着色だ。アーモンドパウダーと粉糖をふるってボウルに入れる。食品色素を卵白に溶かしてボウルに入れ、よく混ぜる。

6. いよいよマカロナージュだ。メレンゲを3回に分けて、着色した粉類と混ぜる。3分の1のメレンゲを粉類のボウルに入れ、ボウルを反時計回りに回すと同時に、ゴムべらで時計回りに、ボウルの側面をこするようにして(マカロンの気泡を完全に潰さないようにしつつ)大きく混ぜていく。残りの3分の2を2回に分けてボウルに入れ、混ぜる。生地をすくって、ゆっくり“リボン状に垂れる”状態ができあがりの目安。

混ぜ過ぎないようにと気を遣った。光沢が出たところで、もう大丈夫かと思ったら、「あともう少し混ぜて」と講師からアドバイスを受けた。ほかの人たちも同様だった。見極めには、やはり経験が必要だ。

7. 混ぜた生地を絞り袋に入れ、クッキングシートを敷いた天板に絞り出す。上から抑えつけるように絞り、生地中心部から口金を離していくのがポイント(初心者がしがちな渦巻き型に絞り出すのは間違い)。円型の型紙は使わなかったので、皆、目分量で絞っていた。生地は絞ると少し広がるので、1枚ずつ間隔を開けることも大切。

天板を少し浮かせ、調理台にポンと数回落とし、生地の形を整える。生地表面が乾くまで、15〜30分おく。

8. 予熱したオーブンで、160℃で約12分焼く。生地をさわり天板から動かなければ、よい焼き加減。オーブンから取り出し、天板に並べたまま冷ます。生地の膨らみが若干不足した印象だったのは、イタリアンメレンゲのため。イタリアンメレンゲを使うと薄めに仕上がるという。

9. 粗熱が取れた生地を、似たサイズ同士並べ、ガナッシュを絞り、2枚1組にする。2枚をほんの少しひねるようにして重ねると奇麗な形になる。


 
つるりとした表面の、しっとりした食感のマカロンが完成した。マカロンは失敗すると、生地がひび割れたり空洞化したり、ピエ(生地の下部にできるデコボコした部分)が出なかったり出過ぎたりするそう。というわけで、とても奇麗な出来栄えに、参加者たちには笑顔があふれていた。筆者は、箱に詰めて持ち帰ったマカロンを、パリに住んでいる友人にプレゼントした。手作りしたことに感激してくれて、こちらも嬉しくなった。

家庭でマカロナージュや焼き加減がうまく再現できるかはひとまず置いておき、講座はパリ滞在の思い出に鮮やかな色を添えてくれた。

La Cuisine Paris 

筆者は、2時間マカロン講座「イタリアンメレンゲで作るマカロン ガナッシュ2種類」に参加しました。スクールの2024年の予定では、2時間マカロン講座はプライベート向きとなり、一般向きは、3時間マカロン講座「フレンチメレンゲとイタリアンメレンゲで作るマカロン ガナッシュ4種類」(109ユーロ)のみとのことです。最新情報は、スクールのサイトでご確認ください。


Photos by Satomi Iwasawa

岩澤里美
ライター、エッセイスト | スイス・チューリヒ(ドイツ語圏)在住。
イギリスの大学院で学び、2001年にチーズとアルプスの現在の地へ。
共同通信のチューリヒ通信員として活動したのち、フリーランスで執筆を始める。
ヨーロッパ各地での取材を続け、ファーストクラス機内誌、ビジネス系雑誌/サイト、旬のカルチャーをとらえたサイトなどで連載多数。
おうちごはん好きな家族のために料理にも励んでいる。
HP https://www.satomi-iwasawa.com/