行ってみたい海外旅行先の調査ランキングがあれば、常に上位にランクインしているシンガポール。アジアの国々やハワイなどのリゾートとともに上位の常連だ。東京から航空機で約8時間ほどで行くことができ、アジア域内では比較的距離があるものの、時差はプラス1時間だけ。長いフライトでもジェットラグによる体の負担は少ない。ほぼ赤道直下に位置し、1年を通して高温多湿な熱帯モンスーン気候で雨季と乾季がある。温帯に属する日本とは全く異なる気候とエキゾチックな雰囲気も魅力だ。

シンガポールは東京23区の面積程の大きさ。イギリスや日本の植民地時代を終えて、第2次世界大戦後に独立した。その後、圧倒的な経済発展を遂げ、国民一人当たりのGDPは世界6位(2022年)でアメリカ合衆国をしのぐ。日本から見ると、最近日本円は対シンガポールドルで値下がりしていることもあり、何もかも物価が高いように感じられるが、こと食べるものに関しては、ローカルな人たちが気軽に楽しめる店、比較的リーズナブルな料理も多い。

プラナカン文化が香るカトン地区へ

シンガポール中心部の高層ビル群から離れると、中層の住宅ビルや低層の建物が広がる。ビジネス街からバスで東へほんの30分ほど走ると、古くからの建物が残るノスタルジックな地域、カトンへ到着。プラナカンマンションはプラナカンの人々が住んだり、または商売をしていたコロニアルな趣の建物で、その鮮やかな色合いに目を奪われる。

プラナカンは、その昔中国からやってきた男性労働者が、マレー半島の女性と結ばれて生まれた文化。当時、中国から海外に出ることは女性には許されていなかったそうだ。プラナカンの食文化は中国、特に海南省の料理とマレーの料理が出会い生まれた、マレー半島特有のもの。海南の男性たちは日常的に厨房に入り料理をする習慣があったので、マレーの妻との日常のやり取りから独特でおいしいクリエイティブな料理が生まれたのだという。

青いご飯とインドネシアナッツとチキン

カトンにあるレストランで「アヤム ブア ケルアック」というプラナカンならではの料理を食べた。「チキンカレー」と言えば確かにそうなのだがかなり独特だ。まず驚いたのはごはんが青いこと。これは「バタフライ ピー」という植物の実と共に炊いたもので、鮮やかでブルーにご飯が染まる。これだけを食べても、普通に炊かれたご飯と味は変わらない。

添えられた煮込み料理はタマリンドを使った甘酸っぱいソースがベース。チキンと共に黒くて丸いものが入っている。それが「ブア ケルアック」。インドネシアで栽培されているものが多いらしく、「インドネシアン ナッツ」とお店の人は呼んでいたが、調べてみると英語でPangium、日本語ならパンギノキの実のことだ。パンギノキは18mもの高さに育つらしく、その実には毒素が含まれるために、調理の前に5日間ほど水に浸けるのだそうだ。

かたい殻から中身を出して砕いて、えび、鶏肉と豚肉を細かくたたいたものと調味料と混ぜたものを丸めてから、からの中に戻す。それを、鶏肉と、ハーブや調味料と共にタマリンドのグレービーで煮込んで作る。実の中の詰め物は繊維質を感じられるものの全体にふっくらと仕上がっていて、独特のうっすらとした苦みがおもしろい。鶏肉は柔らかく煮込まれていて、一緒に食べるとまた楽しい。最初は驚いた青いご飯も、具と一緒に食べるうちに当たり前のようになってくる。

作るのに手間がかかる料理ではあるが、家庭によっては今でも作られているそうだ。ブア ケルアックは、東南アジア、特にシンガポール、マレーシア、インドネシア以外では手に入りにくいので、現地で見つけたらぜひ食べてみてほしい。

紙で包んで揚げるペーパーチキン

もう一つ、シンガポール以外では見かけない料理が「ペーパーチキン」だ。1950年代にシンガポールのある店で生まれたと言われるこの料理は、代表的なシンガポール料理の一つになった。下味をつけた鶏肉を一口大に切り、数個ずつを紙に包んで油で揚げたものだ。

フレンチの巨匠、ポール・ボキューズも旨いといったというペーパーチキンを食べることができる「ヒルマン レストラン」へ出かけた。大阪に支店を持ったことがあるという中華料理の店で、特にペーパーチキンが人気だという。

紙に包むという調理法のいいところは、具材の旨味をまったくもって無駄にしないということだ。ペーパーチキンの場合、鶏肉から出てくる肉汁が中に閉じ込められたまま調理され、テーブルまで運ばれてくる。ご飯の上でその紙包みを開いて、肉汁をご飯にしみさせて楽しむという食べ方がおすすめということで試してみた。

紙包みを開くと湯気がでてあつあつ。シンプルな調理法ながら、鶏の旨味がしっかりと感じられて、その肉汁はご飯によく合う。今回はペーパーチキンのレシピを紹介したい。日本にある食材で作ることができるので、ぜひ自宅で味わってほしい。

オーブンで作るペーパーチキン

このレシピでは揚げずにオーブンで焼く。この方法だと紙に包むのが簡単で、揚げ油を使用しないので比較的あっさり調理できる。その代わり、マリネ液にごま油も加えてコクを出す。

材料:8袋分

・鶏もも肉(2枚) 500g 一口大に切る
・しょうが 20g 千切り
・万能ねぎ 3本 小口切り
・オイスターソース 小さじ1
・醤油 小さじ1
・酒 小さじ2
・ごま油 小さじ1
・砂糖 小さじ1
・白こしょう 少々
・塩 小さじ1

下準備:
• 鶏肉は一口大に切っておく。
• しょうがは千切りに、万能ねぎは小口切りにしておく。

作り方:
1. しょうがと万能ねぎ、すべての調味料を合わせ、鶏肉によく合えて冷蔵庫で2時間以上置く。

2. 10㎝×20㎝角に切ったオーブンシートを半分に折り、袋状になるように両脇の2辺を2回折り込んで材料の1/8を入れて、上になっている合わせ目も折り込みとじる。

3. 200度で余熱したオーブンに入れて30分焼く。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/