バルセロナに着いた。地中海性気候に属するこの地域には四季があり、訪れた10月は日本の同じ時期と変わらない過ごしやすさで、街歩きにも心地よい季節だった。

バルセロナといえば、建築家アントニ・ガウディが活躍した都市。彼の死から100年以上が経った今もなお建設が続くサグラダ・ファミリアは、この街の象徴であり、世界中の人々を惹きつける観光の目玉でもある。

今回は、サグラダ・ファミリアを訪れ、街に根付いた市場を歩きながら、日常の中に息づくスペインの食文化に触れた。そして最後に、家庭の味として親しまれるスパニッシュ・オムレツ「トルティーヤ」のレシピを紹介したい。

2034年には完成すると言われるサグラダ・ファミリア

上の2枚の写真は、2010年の1月に撮影したものだ。冒頭の現在の写真と比べると、中央の尖塔がまだ姿を見せていないのがわかる。この塔は「イエスの塔」と呼ばれ、2026年に完成予定だ。2025年10月には、その頂部に据えられる十字架の一部が設置された。長さ7.25メートル、重さ24トン——その圧倒的なスケールにはただ驚かされる。今後も細部の装飾や仕上げが進み、2034年頃にはついに全体の完成を迎えるとされている。

サグラダ・ファミリアの中心部にあたる教会堂〈バジリカ〉の内部はすでに完成している。2010年には、当時のローマ教皇ベネディクト16世が式典を執り行い、ここを正式に“バジリカ”として礼拝が許可された。

堂内では、東側に寒色系、西側に暖色系のステンドグラスがしつらわれ、時間帯によって空間全体が異なる光の色に染まる。祭壇にはイエスが掛けられた十字架が掲げられ、30分ごとに鳴り響くパイプオルガンの音が、光に包まれた空間をさらに神聖なものにしていた。

これから10年もたたず完成するのだから、“完成に向かう途中のサグラダ・ファミリア”を見ることができるのもそれまでだ。

バルセロナのローカルな市場を覗く

バルセロナにはいくつかの食品市場がある。なかでも最も有名なのが、ボケリア市場。観光地として名高く、色とりどりの食材が並ぶその通りは、いつも多くの人で賑わっている。ほとんどは観光が目的の客で、生ハムや惣菜、パン、チーズ、ドリンクなど、食べ歩きにぴったりなものが豊富で、カウンターのバルではカキなどのシーフードとワインを楽しむ人々の姿が絶えない。

一方、居住のためのアパートが並ぶ港湾地域にあるのが、バルセロネータ市場。こちらはローカルの日常が息づく落ち着いた雰囲気。周囲には生活用品を扱う店が並び、観光地とは異なる、バルセロナに住む人々のリアルな暮らしを垣間見ることができる。

今回訪れたのは、市街地の中心に位置する、サンタ・カテリーナ市場。ボケリア市場に比べると地元客の割合が多く、併設されたバルにも活気があって心地よい喧騒に包まれていた。

食料品と言えば、肉・魚・野菜と果物だ。精肉店で目立つのはいくつも吊るされた生ハムで、地元の人たちの食卓には欠かせないようだ。肉は目の前の塊から選んで切り分けてくれる。日本のようにあらかじめパック詰めされたものよりもずっと新鮮で、なにしろ旨そうだ。

魚介もまた豊富だ。一尾まるごと、大きな切り身、エビや貝類が氷の上に並べられている。昔は日本のどこにでもあった魚屋を思い出させる。なかでも印象的だったのは、塩漬けにして干されたタラ『バカラオ』。これを戻してマッシュポテトと合わせ、バゲットにのせたピンチョスは定番のひとつ。鰯の燻製や、アンチョビの缶詰など、スペインらしい保存食も多く見られる。

野菜や果物も鮮やかな色合いで美しい。トマトやオレンジなど、まさに“スペインの食材”が並ぶ。

スペインの食料自給率は、カロリーベースで83%。日本の38%と比較しても圧倒的に高い。豚肉など170%以上の自給率を誇り、で輸出も盛んだ。農産物輸出の主要なものは果物・野菜、オリーブオイル、ワイン、豚肉、クロマグロなど、農水産物の多くが世界に出荷されている。改めて「食の豊かさ」を実感し、少しうらやましくも感じた。

市場には惣菜、オリーブ、チーズ、オリーブオイル、スパイスを扱う店も多く並ぶ。ところでスペインでは、1日5回の食事をとる習慣があるという。日本でもおやつを入れたら5食になるが、昼食は時間をかけて家族や友人とゆっくり過ごし、一方夜は軽く済ませることが多い。やはり毎日の生活の中で食を大切にする文化が根付いているのだ。

平日の正午前、市場のバルでは午前中の軽食である『アルムエルソ』を楽しむ人たちが集まっていた。ピンチョスなどの軽食にワインを仲間と楽しんでいる。しっかりと食を楽しむ文化、毎日の食をリスペクトする文化が食料自給力の高さにも表れているように思われる。

さて、まち歩きに多少疲れた午後、午後の軽食メリエンダをとるために街のバルに入った。おやつ代わりにスペインのオムレツ、トルティーヤを注文した。じゃがいがたたっぷり入ったボリュームのある一皿で、ニンニクの効いたアイオリソースが添えられていた。

今回は、マッシュルームとピーマンを加えたトルティーヤのレシピを紹介する。市場で見た新鮮な食材を思い浮かべながら、バルセロナの食卓のようなひと皿を、ぜひ自宅でも楽しんでほしい。

マッシュルームとピーマンのトルティーヤ

トルティーヤはフライパンで作る場合もあるが、今回はオーブンを使って大きなものを作る。焼き具合を調整して、中心部分には少しトロリとした食感を残したい。

材料:4人分

・たまご Mサイズ6個
・じゃがいも  中2個(250g) 皮をむいて薄切りにする
・玉ねぎ 中1個 皮をむいて半分に切ってから薄切りにする
・マッシュルーム 80g 幅3㎜位に切る
・緑ピーマン 1個 へたと種を取って縦5㎜幅に切る
・赤ピーマン 1個 へたと種を取って縦5㎜幅に切る
・オレガノ ドライ小さじ1/2
・オリーブオイル 大さじ3
・塩・黒こしょう 各小さじ1

*直径20㎝程度の耐熱容器で作る

1. 下準備:オーブンを200℃に予熱し、耐熱容器にオリーブオイル(大さじ1)を入れて温めておく。

2. 野菜を炒める:フライパンにオリーブオイル(大さじ2)をひいて中火にかけ、じゃがいもと玉ねぎを入れて10分炒める。やわらかくなってきたら、マッシュルームと赤・緑ピーマンを加え、全体になじむまでさらに3分ほど炒める。

3. 卵液を作る:ボールに卵を割り入れ、空気を含ませるようにしっかりと混ぜる。オレガノ、塩・黒こしょうを加えてよく混ぜる。

4. 焼く:炒めた野菜を卵液のボウルに加えて混ぜ、耐熱容器に流し入れる。200℃のオーブンで表面の中央がしっかり固まるまで、約30分焼く。

焼き上がったら取り出して粗熱を取る。作り置きしておき、食べる前に電子レンジで温めてもおいしい。



All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/