マレー半島を地図で見ると、インドシナ半島から南に延びる細長い半島だ。北はタイランド湾とアンダマン海にはさまれた最も狭い土地であるクラ地峡から、南はシンガポール島を望むジョホール海峡沿いのジョーホールバルまで、南北の長さは約1,100㎞もある。マレー半島の北部はミャンマーとタイの一部で、それ以外はマレーシアだ。その南端はほぼ赤道の北緯1度。ユーラシア大陸の一部なので、北極圏まで地続きなのだ。

日本の秋の初めの頃、マレーシアを旅した。とはいえ、マレーシアは熱帯気候に属するので、一年を通して夏だ。10月は雨が多めで気温は高く蒸し暑い。1週間ほどかけて、クアラルンプール、ペナン、マラッカを巡った。

マレー半島ならではのプラナカン文化

マレーシアは多民族国家で、マレー系が約70%、中国系約23%、インド系が約7%。宗教の教徒数はイスラム教が61%、仏教20%、ヒンドゥー教が6%、そしてキリスト教9%の順となっている。

どの街を歩いていても、イスラム教の祈りの時間には、近くにあるモスクの塔に据え付けられたスピーカーから祈りが聞こえてくる。一方、中華系の食堂に入れば仏具が祀られる棚があり、すぐそばにヒンドゥー教の寺があったりする。他民族が共に住みながら「協調」といった雰囲気が感じられる。

古くから、ポルトガル、オランダ、イギリス、日本の植民地の時代を経験して、貿易の要衝として近隣諸国との交流も盛んだった。元からマレーに住んでいた人たちは、中国、インドからやってきた人たちを受けいれて今のマレーシアになった。「国=単一民族」ではないのだなとあらためて思わされる。

さて、「プラナカン」は、マレー半島に渡ってきた中華系の移民が、現地の女性と結婚して始まった中華系マレーともいえる人たちのことで、その生活の様式は「プラナカン文化」と呼ばれる。特にプラナカンの料理は世界中ここにしかなくて独特だ。ココナッツミルクやレモングラスなどのハーブを使うマレー料理と、中国、主に海南から渡ってきた男たちが伝えた中国南部の料理が融合したのだ。海南では昔から男性も料理をする習慣があったのだという。マレーの女性と海南出身の男性が、あぁでもないこうでもないと、一緒に厨房に立ち、今のプラナカン料理の元が生まれたのかと想像するとなんだか愛おしい。

マレーシアでよく食べられる3つの料理を簡単に紹介したい。

「チキンライス」は、鶏を茹でた出汁で米を炊き、そこにその鶏をぶつ切りにして乗せたものだ。シンガポールチキンライスや、タイならカオマンガイと呼ばれる。ペナンで食べたものは、しっとりと茹で上げられた鶏が、その出汁とターメリックで炊いた黄色いご飯上に乗り、ねぎと人参がトッピングされていた。サンバルというチリソースを好みで付けながら食べる。どの店でも、あらかじめ茹でられた鶏と炊かれたご飯が準備されていて、オーダーするとすぐにテーブルに運ばれてくる。

「バクテー」は「肉骨茶」と書く。豚肉をこしょう、八角、シナモン、クローブ、にんにくなどの中華系の生薬と共に煮込んだ料理だ。もともと庶民の料理で、豚肉の安い部位、骨のついた部位や内臓などを煮込んだものだという。足の骨とその周りの肉を使ったバクテーを食べてみた。骨から出る出汁感と、様々な生薬、特にこしょうが刺激的で食欲をそそる。

「ラクサ」はマレー半島やインドネシアでもポピュラーな麺料理で、各地に様々なバリエーションがある。マラッカのものは「ニョニャラクサ」と呼ばれる。海老出汁を使ったスープにココナッツミルク、トッピングには「ラクサの葉」を使う。いかにも東南アジアといった味わいだが、中国から渡来した男たちが持ち込んだ中華麺を使う点でやはりクロス・エスニシティだ。

串に刺した肉を焼くサテー

クアラルンプールの繁華街「ブギッ・ビッタン」という地区にある「アロー通り」は200メートルほど続く屋台街。海鮮料理や、中華料理、タイ料理、新鮮な果物など様々な料理や食材を楽しめる。ざわついていながらもそれほどの喧騒ではなく、だれもが落ち着いて食事を楽しんでいるようだ。

ビールを飲みながら軽くつまむのなら「サテー」がいい。下味をつけた豚肉、鶏肉、牛肉、羊肉を串に刺して直火で焼いたもので、ピーナッツ、唐辛子にココナッツミルク、砂糖などをミックスしたソースに漬けて食べる。羊肉と鶏肉のサテーを食べてみた。

一見日本の焼き鳥のようだが、下味のスパイスが効いていて、いかにもマレーシアらしい味わいだ。タイ、インドネシア、フィリピン、シンガポール、インドネシアといった国々でもポピュラーな料理だが、地図を見ればその国々はみな南シナ海の南の部分に面しているし、いずれもココナッツの生産国であるということを知れば、なるほどと納得させられる。

ペナンのナイトマーケットを訪れた。プラナカン・マンションといった、プラナカンの商人たちの屋敷も残るペナンのジョージタウンでは、昔から続くプラナカン文化を肌で感じることができる。この街全体が、世界遺産に登録されている。

牛肉のサテーは、こんがりと焼けて香ばしさも加わって味わい深い。ちなみに、イスラム教徒は豚肉を食べないが牛肉、鶏肉はOK。ハラルとして適正に処理・料理されたものを食べるので、豚肉を料理する場所で料理されるものは食べない。一方ヒンズー教徒は牛肉を食べない。ちょっと複雑だが、さすが多民族文化ということで、「Pork Free」とはっきり示したハラルの店も多く見かけた。

というわけで、今回は豚のサテーを作ってみよう。

レシピ:マレーシアのポーク・サテー

材料:

・豚肉(肩ロース) 300g

<マリネ液>
・カレー粉 大さじ1
・塩 小さじ1/2
・砂糖 小さじ1/2
・にんにく 1かけ
・ココナッツミルク 大さじ2

<ソース>
・ココナッツミルク 100ml
・チリパウダー 大さじ1
・ナンプラー 大さじ1
・砂糖 大さじ2
・ピーナッツバター 50ml
 ※串を20本用意する。

作り方:

1. 豚肉を8㎜×20㎜程度の角に切り、カレー粉、塩、砂糖、にんにく、ココナッツミルク(大さじ2)を混ぜたマリネ液に1時間以上漬けておく。串は水に浸けておく。

2. 1の豚肉を串にさし、魚焼きグリルの中央部分で9〜10分、中まで火が通ってうっすら焼き目がつくまで焼く。(日本の焼き鳥と比べると、一つの串に刺す肉の量は少な目にする)

3. ココナッツミルク(100ml)、チリパウダー、ナンプラー、砂糖、ピーナッツバターを合わせてよく混ぜる。

4. きゅうり、紫玉ねぎなど、好みの野菜と共に、共に2のサテーを皿に乗せ、3のソースを添える。

串を取ってソースに漬けて食べる。もしろん、ソースをあらかじめかけておいてもいい。

ココナッツとピーナッツの味わいが、いかにも東南アジアといった趣で、ビールによく合う。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/