今回はジョージアの郷土料理「シュクメルリ」を紹介する。少ない材料と鍋一つで手軽に作ることができる家庭料理だ。少し前に日本の牛丼のチェーン店がこの料理を提供したことがあった。「肉に汁もの」という意味では牛丼に似ているということもあるし、なんとなくクリームシチューにも似ていて人気になった。ジョージアでは伝統的に米飯はないが、ご飯と一緒に提供されたためか、それまで日本人にとってそれほど馴染みがなかったジョージアの料理と言えども、すんなりと受け入れられたのだろう。

ロシアによる友好の記念碑と軍事侵攻

北に位置するロシアからコーカサス山脈を越えてジョージアに入り、そのまま南のアルメニアまでを南北に走るのが「グルジア(ジョージア)軍道」と呼ばれる幹線道路だ。黒海とカスピ海の間の豊かな土地を貫くこの道は、太古より交易に使われ、今でもトラック輸送の要衝だ。

ジョージアを訪れたのは4月の初め。首都のトビリシに到着するなり、すぐにジョージア軍道を北上して、ソ連時代にロシアがグルジアに贈った「友好の記念碑」を訪れた。いかにも社会主義的なイデオロギーを具現化したような壁画がアーチ状に配された記念碑は、まるで地の果ての様な断崖の上に建っていた。

今は観光客が見物に来る場所としてカジュアルな雰囲気だが、現地の人に話を聞くと「友好の碑ではあるけれどそれは形だけだ。ロシア人はジョージアの土地を占拠している」と複雑な表情を見せた。

2008年以降、ジョージアの国土の20%にも及ぶ地域は、ロシアによる一方的な分離独立の宣言の後、彼らの言う「国境」が設定された。ジョージア側からその地域に入ることはできなくなっている。ロシアはジョージア側にいた新ロシア派の独立を支援したものだという。

更に北上してロシアとの国境を見下ろす丘に立った。険しい山の隙間を走る軍用道路にはゲートが設置されている。コーカサス山脈がきっちりを生活圏を分け、緊張感が漂っていた。

トビリシの家庭でいただくジョージア料理

滞在中にトビリシ市内に住むご家庭に伺って、おもてなしの料理をいただくという機会があった。ご家族が住む社会主義時代に建てられたアパートは、いかにもといった合理的なデザインで、その時代を偲ばせる。

室内に入ると、サラダ、ヨーグルトを使ったディップ、チーズ、煮込み料理、中に詰め物をした大きなパンなど、ジョージアの料理がテーブルに所狭しと並んでいた。

その一つが「シュクメルリ」だった。骨付きの鶏肉をぶつ切りにして、牛乳とニンニクと共に煮込んだものだという。シンプルながら鶏の旨味がしっかりとした味のベースになり、にんにくの香りが料理全体を引き締めている。

乳製品が豊かな土地柄のチーズは、あっさり目が主流

ジョージアではヨーグルトやチーズといった乳製品をよく食べる。

ある日、市場に出かけてみた。旧社会主義の国でよく見るような生鮮市場は巨大で、大きな体育館の様な建物がいくつかあり、その周りを露店が囲んでいる。乳製品を売る店では、さまざまなチーズやヨーグルトが並んでいた。

市場のメインの建物のそばの一般的な小売店では、地元の女性たちが手作りのチーズを持ち寄って販売していた。

さまざまな種類のチーズが売られていたが、カッテージチーズのような水気を切ったフレッシュなものが多い。

街のレストランでトマトとチーズのサラダを食べた。伸ばして畳みながら成形するこのチーズは「スルグニ」という名で、モッツアレラの様な食感とあっさりとした味わいを楽しめる。

このレストランで、ジョージアの伝統的でポピュラーな食べ物を聞いてみると、やはりシュクメルリだという。たっぷりのニンニクに大きく切った鶏肉。あらかじめ香ばしく焼いている皮目が食欲をそそる。

スープが黄色味を帯びているのでチーズを使っているのかと聞くとそうではないとのこと。鶏肉の焼き目とニンニク、牛乳とバターでこの色になる。

レシピ:ジョージアのシュクメルリ

材料:2人分

・鶏もも肉 2枚(約500g)
・にんにく 6かけ
・牛乳 200ml
・バター 30g
・塩、こしょう 適量
・植物油 大さじ1

材料はいたってシンプルで5つのみ。鶏もも肉は、骨付きを切ったものを使うとより旨味が出る。にんにくの量が多く感じるかもしれないが、これが味の決め手になるので思い切って使いたい。

作り方:

1. 鶏むね肉を一口大に切り、全体に軽く塩を振る。にんにくはみじん切りにする。

2. フライパンを中火にかけ植物油を入れて温めたら、1の鶏もも肉を皮を下にして入れしっかりと焼き目をつけ、中まで火が通ったら一度取り出す。(約8分)

3. そのままのフライパンを弱火にして、バター、にんにくのみじん切りを入れて、にんにくの香りが出るまで炒める。にんにくが焦げないよう気を付ける。

4. 3のフライパンに、2で取り出しておいた鶏もも肉を戻し、牛乳を入れて沸騰したら蓋をして、5分ほど煮込む。

5. 塩・こしょうで味を整える。

皿に盛って、好みでミントを散らす。ミントのほかにイタリアンパセリなどでもよい。

ロシアとの関係の中で必ずしも平和的な状況ではないジョージアではあるが、そこに住む人たちの腹を満たし心も満たしてきただろうシュクメルリを食べると、様々なことが思われる。


All Photos by Atsushi Ishiguro

石黒アツシ

20代でレコード会社で音楽制作を担当した後、渡英して写真・ビジネス・知的財産権を学ぶ。帰国後は著作権管理、音楽制作、ゲーム機のローンチ、動画配信サービス・音楽配信サービスなどエンターテイメント事業のスタートアップ等に携わる。現在は、「フード」をエンターテイメントととらえて、旅・写真・ごはんを切り口に活動する旅するフードフォトグラファー。「おいしいものをおいしく伝えたい」をテーマに、世界のおいしいものを食べ歩き、写真におさめて、日本で再現したものを、みんなと一緒に食べることがライフワーク。
HP:http://ganimaly.com/